外食におけるメニュー等の食品表示の適正化等を求める意見書

外食におけるメニュー等の食品表示の適正化等を求める意見書

2014年(平成26年)2月3日


内閣総理大臣  安 倍 晋 三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)
森   まさこ  殿
消費者庁長官  阿 南   久  殿
経済産業大臣  茂 木 敏 充  殿
厚生労働大臣  田 村 憲 久  殿
農林水産大臣  林   芳 正  殿
国土交通大臣  太 田 昭 宏  殿
観光庁長官  久 保 成 人  殿
消費者委員会委員長  河 上 正 二  殿
公正取引委員会委員長  杉 本 和 行  殿
警察庁長官  米 田   壮  殿

大阪弁護士会
会 長  福 原 哲 晃


外食におけるメニュー等の食品表示の適正化等を求める意見書

 
外食におけるメニュー等の食品表示の適正化を図り、消費者の被害回復を容易にするため、意見の趣旨のとおり、消費者庁並びに関係省庁は、食品表示ルール等についての体制整備・運用改善・法整備を行うべきである。

第1 意見の趣旨

 1 関係省庁の体制整備・運用改善について

(1)消費者庁の人的・物的設備の充実
外食におけるメニュー等の食品表示の適正化を図り、消費者の被害回復を容易にするため、消費者庁の人的・物的設備の充実が不可欠であるので、消費者庁は、地方支局を設置し、人的体制を強化充実すべきである。
(2)消費者庁並びに関係省庁の監視指導体制の強化
食品表示ルール等について食材・食品のアレルギー表示が適正になされていることが食の安全に不可欠であるから、消費者庁並びに関係省庁は、仕入れ段階で納品される食材・食品について適正な表示がなされているかについて、食品衛生法に基づく食品衛生監視員による監視指導体制を強化し、指導を徹底すべきである。
(3)食品表示体制の強化
一般消費者の食品を摂取する際の安全性の確保及び自主的かつ合理的な食品選択の機会確保という食品表示の役割を考えると、消費者庁並びに関係省庁は、食品衛生法及び農林物資の適正化及び品質表示の適正化に関する法律(以下「JAS法」という。)の表示基準(食品表示法施行後は、同法における食品表示基準)のうち、少なくともアレルギー表示や使用食材の適正表示等については、飲食店で食品を提供する場合にも適用すべきである。
(4)食品表示に関する不当表示の指定
内閣総理大臣は、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第1項第3号に規定されている、内閣総理大臣の不当表示の指定制度を活用し、外食メニュー等の食品表示に関する不当表示の指定を積極的に行うべきである。
(5)不正競争防止法における刑事罰の適正な適用
消費者庁並びに関係省庁は、不正競争防止法第2条第1項第13号の周知徹底に努めるとともに、同号違反の事案を把握し、類似事案が再発することを予防するため、同法第21条第2項第1号及び第5号の刑事罰の適正な適用に励むべきである。

 2 景品表示法の整備について

(1)不当表示の要件の見直し
消費者庁は、景品表示法第4条第1項第1号及び第2号の規定につき、「著しく」との文言を削除することを含めた要件に関する文言の見直しを行うべきである。
(2)都道府県知事の措置命令権限と申告権限、課徴金制度
消費者庁は、表示規制の実効性を強化するため、都道府県知事に措置命令権限を付与する規定を景品表示法に設けるべきである。また私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第45条と同様に、一般私人に措置命令要請に関する申告権限を付与する規定を設けるとともに課徴金制度を導入すべきである。
(3)差止請求の実効性強化
消費者庁は、適格消費者団体の差止請求権行使の実効性を高めるため、適格消費者団体に不実証広告規制と同様の事業者に対する証拠提出請求権限を認める規定を景品表示法に設けるとともに、差止請求に関し、事業者が合理的根拠を示す資料を提出しない場合は不当表示とみなす立証責任軽減規定を設けるべきである。
(4)不当表示に基づく損害賠償請求権と取消権
消費者庁は、一般消費者の被害救済を可能とするため、景品表示法に、不当表示に基づく損害賠償請求権を規定すべきである。また不当表示に基づく損害額は不当表示のなされた商品又は役務の提供に関する契約に基づき一般消費者が事業者に支払った代金額と推定するべきである。さらに不当表示のなされた商品又は役務の提供に関する契約について一般消費者に取消権を認めるべきである。

第2 意見の理由

 1 外食におけるメニューの虚偽・誤認表示が蔓延する実態について

2013年(平成25年)10月22日以降、全国的に有名なホテル、百貨店等の経営するレストラン等の飲食店において、メニューに表記された食材の内容と実際に提供された食材が異なるという虚偽・誤認表示が相次いで公表された。例えば、芝エビと表記してバナメイエビを使用していた、伊勢エビと表記してロブスターを使用していた、九条ネギと表記して普通のネギを使用していた、ステーキと表記して牛脂注入牛肉又は成型肉という加工肉を使用していた、和牛ステーキと表記してオーストラリア産加工肉を使用していた、フレッシュジュースと表記して容器包装されたストレートジュースを使用していたというように、事例には枚挙に暇がない状況である。特に、大阪のホテルでメニューの虚偽・誤認表示が大きく顕在化したことは、当会としても憂慮せざるを得ない情況である。
かかる虚偽・誤認表示が蔓延する要因として、消費者の食品(原産地、食材等)に対するブランド志向やデフレ経済下の価格競争等を指摘する向きもあるが、そのような事情があったとしても、かかる虚偽・誤認表示が正当化されるものではない。
かかる虚偽・誤認表示は、外食産業全体を覆う深刻な問題であり、次に述べるとおり、食品表示制度が外食に適用されないことや、景品表示法の不当表示の要件の狭さや執行力が不十分であること、不正競争防止法の適用のアンバランスさ、消費者庁の執行体制が十分でないことなど様々な法制度や運用実態の問題点を明らかにした。
そこで、消費者の外食に対する信頼を取り戻し、新たな消費者被害を防止するため、関係する各制度を改善して外食メニューの適正表示を徹底するとともに、消費者被害の救済をはかる必要がある。

 2 食品表示制度の不備とその対策について

(1)外食メニューの虚偽・誤認表示が蔓延したことの原因として、食品表示に対する法制度が不備であること、監視指導体制が整備されていないこと、監視指導及び罰則の適用が不十分であったことが考えられる。
(2)JAS法では、原材料や原産地(特定の加工食品については原料原産地)について、事業者に表示が義務づけられているが、その表示義務は容器包装されたものに限定され、飲食店で食品が提供される場合は除外されていたため、外食産業については、食品表示義務は課されていなかった。その結果、外食産業に従事する者の食品表示の適正に対する意識が希薄になっていた。同様に、アレルギー物質の表示についても、外食産業には義務づけられていない。なお、飲食店に納品された食品には、アレルギー表示がなされているはずであるが、牛脂注入牛肉について、乳、小麦といったアレルギー物質が入っていることを飲食店側が知らなかったとの報道もあり、仕入れ段階における納入業者によるアレルギー表示が適切に行われていたのかを確認する必要もある。
そこで、一般消費者が食品を摂取する際の安全性の確保及び自主的かつ合理的な食品選択の機会確保という食品表示の役割を十分機能させるため、食品衛生法、JAS法の表示基準(食品表示法施行後は、同法における食品表示基準)のうち、少なくともアレルギー表示や使用食材の適正表示等については、飲食店で食品を提供する場合にも適用すべきである。なお、食品衛生法、JAS法及び健康増進法の食品表示に関する規定は、2013年(平成25年)6月21日に成立し、同月28日に公布された食品表示法に統合されるところ、同法の施行は公布後2年以内とされているので、食品表示法施行後も上記の対応をする必要がある。

 3 景品表示法の不備とその対策について

(1)景品表示法第4条第1項第1号は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」を不当表示(優良誤認表示)としてこれを禁止している。
然るに、誤認表示の程度として、単なる「優良」ではなく、「著しく優良」との限定的な要件が付されているが、程度において著しくない優良誤認表示を許すことは、表示規制として緩やかに過ぎると言わざるを得ない。また、同項第2号の不当表示(有利誤認表示)の要件にも「著しく」の文言が付加されており、やはり表示規制が緩やかに過ぎる。
そもそも、かかる規定ぶりは、景品表示法が独占禁止法の特例として、不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項)の一つである「ぎまん的顧客誘因」(1982年(昭和57年)公正取引委員会告示第15号「不公正な取引方法」第8項)の規定を踏襲したことに由来している。
しかし、2009年(平成21年)に消費者庁が新設された際、景品表示法も同庁の所管となり、競争規制法から消費者保護法へと位置づけが大きく変容し、同法第1条の目的規定や同法第4条第1項第1号の優良誤認表示規定において、「公正な競争を阻害するおそれ」が「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」に改められたことからすると「著しく」という文言の見直しも検討する必要がある。
この点、事業者間の公正な競争を確保し、国民経済の健全な発展を目的とする不正競争防止法においても、同様の不適切な表示を禁止する規定がある。すなわち、同法は、「著しく」との文言による限定を付すことなく、単に、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」(誤認惹起行為)を不正競争と位置づけ、罰則をもってこれを禁じている(同法第21条第2項第1号及び第5号)。同法によれば、商品の原産地等について誤認させる表示をしただけで、それが程度において「著しく」誤認させるものでなくとも、不正競争として違法となる。
このように、対等な競争関係にある事業者間の競争秩序を守るための規律(不正競争防止法)においてすら、直罰規定の下、「著しく」との限定なしに表示の公正が図られていることとの対比において、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差(消費者基本法第1条)を前提に消費者を保護するための規律(景品表示法)において、間接罰しかないままに、「著しく」との限定付きでしか表示の公正が図られないという現状は、極めて不合理かつ不均衡である。
なお、近時の諸外国の立法例として、市場を適正に機能させ、消費者保護を達成することを目的とする2005年(平成17年)「EU 不公正な商慣行に関する指令」は、「誤認惹起作為」(同司令第6条)として、「虚偽の情報を含みそれ故に不実であり、又はたとえその情報に事実上誤りがなかったとしても、全体的な説明を含む何らかの方法で、平均的な消費者を欺瞞する若しくはその可能性が強い場合」には、その程度が「著しく」なくとも誤認惹起にあたるとしている。すなわち、消費者保護のための公正な取引モラルの向上は、成熟した国際社会における当然の要請である。
ところで、公正取引委員会の2003年(平成15年)8月28日付「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」によれば、「著しく」とは「当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を越えて、一般消費者による商品・サービスの選択に影響を与える場合をいう」とされている。そのため、「著しく」との文言を削除すると、これまで社会一般に許容されていた誇張表示までもが今後は禁止されることになりかねないとの懸念もありうる。
しかし、社会一般に許容される程度の誇張表示が禁止されないことは、法の趣旨から当然である。
むしろ、「著しく」との限定的な文言こそが、事業者に対し、多少のごまかしはかまわないとの誤った認識を与え、たとえば、表示に少々の誇張があっても「著しく」と評価されさえしなければ、消費者の選択を阻害する不当な誘因になろうとも許容される、という誤った解釈の余地があったがゆえに業界のモラル低下を招き、ひいては、同法の執行体制の脆弱さともあいまって、今回の外食産業における「社会一般に許容される程度」を超える不当表示の蔓延を許す一因となったのである。
したがって、禁止される不当表示の範囲を適切に表現するために「著しく」の文言を削除することは、あるべき不当表示規制の適正な運用に資することでこそあれ、決して、社会一般に許容される程度の誇張表示までも禁止するといった規制強化を意図するものではない。以上、景品表示法が消費者保護立法に変容したことによる要件の見直しの必要性、不正競争防止法との不均衡を是正する必要性及び外食において蔓延していた不当表示を防止する必要性に鑑み、消費者庁は、景品表示法第4条第1項第1号及び第2号の規定につき、「著しく」との文言を削除することを含めた要件に関する文言の見直しを行うべきである。
(2)景品表示法第4条第1項第3号は、「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を不当表示としている。内閣総理大臣が不当表示として指定すれば、外食におけるメニュー表示の偽装防止に役立つのであるから、内閣総理大臣は不当表示の指定を活用し、外食メニュー等の食品表示に関する指定を積極的に行うべきである。
(3)内閣総理大臣(景品表示法第12条は消費者庁長官に権限を委任していることから、以下「消費者庁長官」という。)は、不当表示等に対して差し止め等の措置命令をすることができる。これに対して都道府県知事には、指示処分だけが認められており(同法第7条)、措置命令が認められておらず、内閣総理大臣に対する措置要求が認められるに過ぎない(同法第8条)。このようなやり方は、迂遠であり、不当表示の抑制が遅れるだけでなく、都道府県知事の事業者に対する抑止力も弱い。そこで、措置命令権限を都道府県知事に付与すべきである。また、一般私人による措置要求は、不当表示発見の端緒となり、不当表示の抑制に資すると思われるが、景品表示法には規定されていない。そこで、事件調査の端緒として、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第45条第1項に規定されている、一般私人の措置命令要請権限制度を景品表示法にも導入すべきである。
(4)景品表示法第4条第2項は、消費者庁長官は、商品サービスの内容に関する表示が優良誤認表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、当該表示は不当表示とみなすと規定している(不実証広告規制)。これにより、不当表示についての執行力が強化されている。
これに対して、不当表示の差止請求権を認められている適格消費者団体が、差止請求する場合、かかる不実証広告規制が適用されず、不当表示であることの立証責任が課せられたままとなっている。
しかし、事業者の内部資料を見ずに差止請求権を行使することは困難であるし、外食メニューが虚偽であるかどうかは、消費者にはおよそ判断しがたいことであるから、差止請求権を行使することは事実上困難である。
そこで、適格消費者団体による不当表示の差止請求権行使の実効性確保のため、適格消費者団体が差止請求する場合にも、不実証広告規制と同様に、事業者に対する証拠提出請求権限を認め、事業者が合理的根拠を示す資料を提出しない場合は不当表示とみなす旨の規定を置くべきである。
(5)景品表示法における消費者庁長官の指示、指示に係る措置命令の行政処分だけでは、不当表示を行った事業者は、不当表示により得た利益をはき出すことなく、そのまま確保でき、事業者のやり得を認めることになる。そして、一般消費者からの民事上の請求が事実上困難なことに鑑み、不当表示の抑止のために、課徴金制度を導入すべきである。
(6)課徴金制度を導入することにより、事業者の得た不当利益を一定の範囲ではき出させることは可能であるが、それでは消費者の被害回復はなされないことから、消費者の被害を救済する制度を設けるべきである。
2009年(平成21年)改正前の景品表示法では、景品表示法違反行為を独占禁止法第19条に違反する行為とみなし、公正取引委員会の排除命令が確定した場合は、その行為の被害者は、当該行為を行った事業者に対し、独占禁止法第25条による損害賠償請求を提起することができたが、景品表示法の改正により、上記損害賠償規規定を適用できなくなった。
このように、従来、景品表示法には、民法とは別個の損害賠償規定があったのであるから、消費者被害救済の観点から景品表示法に損害賠償規定を設ける必要がある。
上記損害賠償規定は、不当表示による不正な利益を事業者から吐き出させることを目的とする制度であるから、損害額は不当表示のなされた商品又は役務の提供に関する契約に基づき一般消費者が事業者に支払った代金額と推定する規定を設けるべきである。
(7)また、消費者被害救済の方法としては、損害賠償規定を設けるほか、不当表示により優良ではないものを優良である前提で負担させられている商品サービスの購入費用支払義務から一般消費者を解放することも重要である。
そこで、一般消費者に不当表示のなされた商品又は役務の提供に関する契約の取消権を認めるべきである。

 4 不正競争防止法の運用の不徹底さとその対策

原産地については、消費者にとって重要な情報であることは平成21年のJAS法の改正により原産地・原料原産地の表示違反が直罰に改正されたことや、中国産ウナギを国産ウナギと表示して販売した業者が不正競争防止法違反で多数処罰されていることなどで社会的にもよく知られているから、実際と異なる原産地を表示することは、誤認させる表示又は虚偽の表示に該当するというべきである。また成型肉を正肉と理解されるステーキと表示したことについて排除命令が出され(平成17年11月15日排除命令・公取委排除命令集25巻49頁)、アブラガニをタラバガニと表示したことについて排除命令が出されていること(平成16年6月30日排除命令・公取委排除命令集24巻143頁)などを考えると、実際と異なる食材を表示することは、誤認させる表示又は虚偽の表示に該当するというべきである。
上記の誤認させる表示又は虚偽の表示は、不正競争防止法第2条第1項第13号の「不正競争」に該当する可能性が高い。この点、同法第3条、第4条で、不正競争を行った者に対する差止請求権、損害賠償請求権が規定されているものの、競業者が食品表示の不正競争に関して、差止め等をすることは考えにくい。また、同法には行政処分手続は規定されていない。したがって、食品表示の不正競争の抑止には刑事罰での対応が望まれるが、外食における不正競争防止法違反事件はほとんど立件されず、同法による外食メニューの虚偽誤認表示抑止機能が事実上果たされていない。そこで、同法第2条第1項第13号の適用を周知徹底し、同法違反の事案を把握し、同法第21条第2項第1号及び第5号の適正な運用を行うべきである。刑事罰の適正な運用がなされることで類似事案が再発することを防止することができる。

 5 消費者庁の体制の不備とその対策

外食におけるメニュー等の食品表示の適正化を図り、消費者の被害回復を容易にするためには、全国的な規模での消費者庁による監督・指導が不可欠であるところ、消費者庁には、地方支局がなく、全国で行われている事業者の不当表示に対して、執行体制が十分ではない。また、食品表示法における食品表示の監視も消費者庁の所管であるが、執行体制が十分ではない。そこで消費者庁の執行力強化のために、消費者庁に地方支局を設置し、人的体制を強化すべきである。

 6 虚偽誤認表示再発防止のために

(1)行政処分について
一連のメニュー虚偽誤認表示に対し、消費者庁は、2013年(平成25年)12月19日、阪急阪神ホテルズ、近畿日本鉄道等に対し、景品表示法上の措置命令を出した。
(2)再発防止策について
消費者庁は、問題発覚当初、関係団体に改善要請を行い、自主的な取り組みを促すとともに、景品表示法上の外食用のガイドラインの策定を検討していた。
しかし、農林水産省が、2005年(平成17年)7月28日付けで外食における原産地表示に関するガイドラインを公表し、原産地表示を推奨しつつ、留意事項として、誤った表示を行わないようにしなければならない、消費者の視点に立ち消費者を誤認させるような表示を行わないようにしなければならないと注意していたにもかかわらず、今回の外食メニューの表示偽装は深く蔓延していた。したがって、上記ガイドラインは全く役に立たなかったと言わざるを得ない。また、消費者庁は、ホームページの「よくある質問コーナー(表示関係)」において、牛脂注入牛肉をステーキと表示してはいけないと警告していたにもかかわらず、今回の外食メニュー問題では、これに違反する表示が多数あった。
上記の実態を考えると、ガイドラインや業界の自主的な取り組みなどでは虚偽誤認表示を根絶できないことは明らかであり、より実効性のある対応策が必要である。政府は、都道府県知事に措置命令権を付与することなどの自由民主党、公明党から緊急提言を受けて、法的措置を含めた実効性のある対応策を速やかにまとめるように消費者庁に指示し、同庁において、2013年(平成25年)11月22日、「消費者行政の体制強化に関する法制検討室」を新設し、都道府県知事の措置命令権限付与、課徴金制度の導入等を取り入れた景品表示法改正案を来年の通常国会に向けて提出することを目指している。
(3)対策の不十分さ
しかしながら、政府の検討している上記措置だけでは、虚偽誤認表示の再発を防ぐにはなお不十分であるというべきである。とくに、景品表示法の改正だけでは、一般消費者に対する外食の安全確保が全く考慮されていないと言わざるを得ない。そこで、当会は、外食におけるメニュー等の食品表示の適正化を図り、消費者の被害回復を容易にするため、意見の趣旨に記載したとおりの意見を述べるものである。

以 上

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