特定商取引法専門調査会「中間整理」に対する意見書

特定商取引法専門調査会「中間整理」に対する意見書

2015年(平成27年)9月28日


内閣府消費者委員会 御中


大阪弁護士会      
会長 松 葉 知 幸


特定商取引法専門調査会「中間整理」に対する意見書


 特定商取引法の改正に関し、先般、特定商取引法専門調査会において取りまとめられた「中間整理」に関し、以下のとおり意見を述べる。

第1 横断的な事項
 1 指定権利制の廃止
 訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売における政令指定権利制は廃止し、特定商取引法による規制が不適当とされる権利の取引があるとされるのであれば、適用除外規定によって対応すべきである。
 また、「商品・権利の販売」、「役務の有償提供」と評価しきれない有償取引に関しても、当該取引が訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売でなされる場合には、同様に特定商取引法の規制対象取引とされるべきである。
 平成20年の特定商取引法改正において、「商品」及び「役務」については政令指定制を廃止したが、「権利」については、「立法事実がない」として廃止が見送られた。
 しかし、その結果、政令指定権利以外の「権利」(CO2排出権、著作権支分権、老人ホーム入居権など多岐にわたる)の取引による被害が多く生じており、かかる状況において、指定権利制を廃止する必要性は高く、立法事実は十分に存在しているといえる。
 同様に「商品・権利の販売」・「役務を有償で提供」と評価することが困難な取引被害、たとえば外国通貨の「販売」(交換・両替)、医療機関債に代表される消費者が事業者に金銭を貸し付ける形態をとる取引についても、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売でなされる場合には、「商品・権利の販売」・「役務を有償で提供」と同様、消費者保護の必要性に変わりはなく、特定商取引法の規制対象取引とすべきである。
 2 勧誘に関する規制
 当会作成の平成27年7月13日付「望まぬ勧誘を防止できる制度の速やかな確立を求める意見書-訪問販売お断りステッカー制度及び電話勧誘お断り登録制度の導入を求める意見-」のとおりである。
少なくとも、訪問販売及び電話勧誘販売において、勧誘を受けることを希望しない者が事前に勧誘拒否の意思表明ができる制度を創設し、事前に勧誘拒否の意思表明をした者に対しては勧誘をしてはならないとすべきである(Do not call制度、Do not knock制度の導入)。
 3 販売業者等によるクレジット・金銭借入れ・預金引き出しを勧める行為等に関する規制
 契約締結に際し、必要となる資金を有しない消費者に対し金銭の借入れをさせ、または金融機関に同行して預貯金を引き下ろさせて代金の支払いに充当させ、さらには事業者が消費者に支払いのために金融機関に対して虚偽の申告をするよう唆す被害が生じている。このように、資金融通の方法に関し、事業者による過度の関与は消費者の自由意思に基づく契約とはいえず、かかる態様についても具体的に規制すべく当該行為を指示対象行為として明確に規定すべきである。

第2 個別取引類型における規律のあり方
 1 訪問販売における規律
 アポイントメントセールスにおける勧誘方法に関し施行令第1条において定めるところであるが、近時、施行令に定める方法以外の方法、たとえば、ウェブページやSNS等を用いる手口による被害が多発している。
 そこで、これらの勧誘方法による営業所等への来訪要請にも特定商取引法を適用することができるよう、当該勧誘方法についても政令で追加指定するべきである。
 また、訪問販売のいわゆる特定顧客の定義(特定商取引法第2条第1項第2号、政令第1条)は、現在、①事業者が街頭で消費者を呼び止めて営業所等に同行する方法(いわゆるキャッチセールス)のほか、②契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに営業所等への来訪を要請する方法(「販売勧誘目的隠匿型のアポイントメントセールス」)及び③他の者に比して著しく有利な条件で契約を締結することができる旨を告げて営業所等への来訪を要請する方法(「有利条件提示型のアポイントメントセールス」)のみが対象となっている。
 しかし、近時、上記①、②、③以外のそれに類する脱法的な方法により消費者を営業所等に来訪させるなどして、不意打ち的に勧誘をすることによる消費者被害が多発している。
 例えば、街頭において声かけをして販売目的を隠したまま営業所等への来訪要請をする手口や、電話等で呼び出して飲食店等で会話をするが、その過程では販売目的を隠しつつ、営業所等への来訪を要請する手口や、訪問販売におけるキャッチセールスの規制を潜脱するため、街頭における声かけの後、当日は営業所等へ同行せず、その場で後日の来訪を約束し、後日、同行させる手口などである。
 このように、上記①、②、③以外の、それに類する脱法的な方法によって営業所等へ来訪をさせることによる消費者トラブルにも対応する必要がある。
したがって、上記①、②、③以外の、それに類する脱法的な方法により営業所等への来訪を要請する場合も訪問販売の規制が及ぶよう、定義を拡大するべきである。
 2 通信販売における規律
(1)虚偽・誇大広告に関する取消権について
 現行の特定商取引法上、通信販売において、商品又はその販売条件等が、著しく事実に相違する、あるいは実際のものよりも著しく優良・有利であると誤認させるような広告(虚偽・誇大広告)は禁止されており、行政処分及び刑事罰の対象となるが、さらに進んで、虚偽・誇大広告により誤認して契約を締結した場合の契約取消権を規定すべきである。
 通信販売の最大の特徴は、商品を見ることなく、事業者が提供する情報のみを前提に、契約締結の意思形成を行うという点にある。
 そのため、事業者の提供する広告に記載された情報は必然的に契約締結の意思形成過程に極めて大きな影響を与えるため、この記載事項に虚偽、誇大な部分が存在する場合、それに基づきなされた意思表示は瑕疵があるものということができる。
 そこで、かかる場合には、消費者に契約取消権が付与されるべきである。また、かかる権利を消費者に与えても、事業者側としては適切な情報を提供しさえすれば取消権の行使を受けることはないのであるから、特段負担は生じない。
(2)インターネットモール事業者の取扱いについて
 インターネットモール事業者は、当該モールに加盟する販売業者等と消費者間取引におけるトラブルの予防・解決に大きく貢献できること等を理由に、インターネット取引の場の提供者として、加盟店販売業者が実際に存在するのかなどを予め確認すべき義務や、消費者から加盟店販売業者との取引に関する苦情があった場合には、被害救済のため、誠実に対応すべき義務を課すべきである。
(3)FAX広告に関する規制の導入について
 通信販売業者が、承諾をしていない者に対して電子メール広告を提供する行為は、特定商取引法第12条の3などにより禁止されているところ、FAX広告を送りつける行為は禁止の対象となっていない。
 しかし、近時、インターネット回線を利用した大量の送信先への一斉送信技術の進歩や通信費の大幅低下等を背景に、通信販売において、FAXによる広告に対する苦情相談が増えている。
 また、EUでは、FAX広告も電子メール広告と同様に、事前の承諾なき者に対する提供が禁じられている(2009年改正EU指令による改正後のe-プライバシー指令第13条)。
 そこで、FAX広告に関しても、電子メール広告を送りつける行為に対するものと同様の規制を導入するべきである。

 3 電話勧誘販売における規律
(1)「電話をかけさせる方法」の拡充
 電話勧誘販売についての特定商取引法第2条3項、政令第2条は、「電話をかけさせ」る方法に関し、「電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して」と定めるが、この規制の対象となっていない、「雑誌や新聞の広告、ウェブページ、SNS等を用いて」電話をかけさせる方法によっても同様の消費者被害が生じている。
 そこで、これらの方法によって電話をかけさせる場合も追加的に規制の対象とすべく、政令を改正すべきである。
 また、更に、訪問販売のところで述べたのと同様、電話勧誘販売においても、販売勧誘目的隠匿型(政令第2条1号)、有利条件提示型(政令第2条2号)以外の脱法的な方法によって電話をかけさせる方法による被害にも対応すべく、係る方法により電話をかけさせる方法も、追加して規制の対象とすべきである。
(2)過量販売の禁止、過量販売解除制度
 電話勧誘販売についても、過量販売被害が生じていることが明らかになっており、訪問販売と同様、勧誘方法の規制において過量販売行為を指示対象行為とするとともに、過量販売契約の解除権を導入すべきである。

 4 特定継続的役務提供における規律
(1)適用対象の見直し、指定役務の付加の検討
 特定商取引法の特定継続的役務提供の適用対象は、特定商取引法第41条2項で規定する「特定継続的役務提供」=「国民の日常生活に係る取引において有償で継続的に提供される役務であって、次の各号のいずれにも該当するものとして、政令で定めるものいう。1号:役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が行われるもの。2号:役務の性質上、前号に規定する目的が実現するかどうかが確実でないもの」であることを前提として、現在政令で6つの役務が指定され、さらに特定商取引法第41条1項で、「それぞれの特定継続的役務ごとに政令で定める期間を超える期間にわたり提供することを約し、相手方がこれに応じて政令で定める金額を超える金銭を支払うことを約する契約」と限定的な定義づけがなされている。
 しかし、上記1号、2号の要件に該当する役務であるが政令指定の対象とされていないことから特定商取引法の適用がない役務提供取引(育毛・増毛サービス、エステに該当しないマッサージ、自己啓発セミナー、各種資格取得講座など)についての消費者被害が後を絶たない。
 そこで、政令指定外役務についても、政令指定役務と同様の被害が生じ、特定商取引法の規制を及ぼすべき役務がある場合には、追加指定を検討するか、あるいは、政令指定制自体を撤廃し、1号、2号の要件に該当する以上、全ての役務提供を特定商取引法の規制対象とすることを検討すべきである。
(2)美容医療サービスについて
 美容医療サービスについては、エステティックサロンに併設された美容外科で高額の医療行為を受けさせられる被害など、指定役務であるエステティックサービスとほぼ同様の被害が生じていることから、特定継続的役務提供の新たな指定役務として追加し、特定商取引法の規制対象とすべきである。
(3)関連商品の追加・拡大
 特定継続的役務提供において、消費者が購入する必要がある商品として政令指定されている関連商品の販売が行われた場合には、本体の特定継続的役務提供契約をクーリング・オフまたは中途解約した場合、その関連商品の販売契約についてもクーリング・オフ又は中途解約することができるとされている(特定商取引法第48条2項、第49条5項・6項)。
 しかし、政令指定されている関連商品の範囲は、被害実態に照らして著しく狭きに失するといわざるを得ず、関連商品として政令で指定されていない高額の商品を「必要だから」と勧誘されて購入させられるが、「関連商品」ではないから、と業者が解約返品を拒絶するという被害が問題となっている。
 こうした問題に対処するためには、関連商品についての政令指定制自体を改め、政令指定による限定を撤廃し「特定継続的役務の提供に際し…購入する必要のある商品」との規定のみに改正すべきである。

 5 訪問購入における規律
(1)不招請勧誘規制の拡大~勧誘電話や訪問同意のための電話に対する規制
 訪問購入には、特定商取引法第58条の6第1項、2項により、特定商取引法で初めて不招請勧誘規制が導入されたが、その脱法的手法として、事業者が消費者に対して電話をかけ、電話で訪問についての同意を得(電話で、勧誘を受ける意思の確認を取り付け)た上で、自宅訪問するケースが見受けられる。
 特定商取引法第58条の6第1項の規定では、購入業者が、勧誘の要請をしていない消費者に対して営業所等から電話をかけて売買契約の締結について勧誘する行為や、その電話で勧誘を受ける意思の確認をする行為までは禁止の対象となっていない。
 そのため、悪質な業者がかかる手口を利用し、消費者に電話をかけて訪問を打診して訪問の承諾を取り付けて訪問するという手法による被害が生じているものと思われる。
 したがって、かかる手法による被害防止のため、電話による訪問の打診も禁止対象に含めるべく、購入業者が訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘を要請していない者に対し、当該売買契約の締結について勧誘をし、または、勧誘の受ける意思を確認するために電話をかけ、または、政令で定める方法により電話をかけさせることも追加で禁止すべきである。
(2)商品券による買取・ないし交換についての適用拡大
 訪問購入は、消費者に対して、購入業者が金銭を支払うことにより物品を買い取る行為が規制対象となっているが、近時、脱法的手法として、消費者に対して商品券を交付することで物品を引き取る行為の被害が報告されており、かかる取引形態に対しても規制が及ぶような措置を講ずべきである。

第3 執行上の課題
1 行政処分の効力の対象・範囲の拡大
 事業者の代表者その他役員、営業活動を統括する者、実質的主宰者等についても、行政処分の対象とすべきである。
 また、複数都道府県にまたがる被害事案に対する法執行について、国と都道府県の役割分担を定めた政令を、全国的被害事案や都道府県による行政処分のみでは不十分なケースについては国が行政処分を行うべきことを明確にする内容に改正すべきである。
2 報告徴収・立ち入り検査の強化
 立入調査権限が及ぶ対象者について、現行の「密接関係者」の要件を拡大し、勧誘業務、契約締結業務、履行業務、苦情対応業務等、相互の役割分担の下で訪問販売等の営業活動を担っている事業者を含ませるべきである。
 また、立入調査の拒否や妨害を行った場合、その事実を事業者名とともに公表する措置を導入すべきである。
3 新たな技術サービスの発達・普及への対応について
 違反事業者の所在を把握することができず、特定商取引法の適切かつ迅速な執行に支障を来たす事例において、公示送達による行政処分を行うことができるような法整備を構築するべきである。
 執行当局による指示に従わない違法な広告について、プロバイダが行政機関からの削除要請に安心して従うことができるよう、プロバイダの賠償責任等を免除する等の規定を導入するべきである。

以 上

ページトップへ
ページトップへ