消費者庁・国民生活センター地方移転に関する意見書

消費者庁・国民生活センター地方移転に関する意見書

2015年(平成27年)12月17日



内閣総理大臣
まち・ひと・しごと創生本部 本部長
 安 倍 晋 三  殿
地方創生担当大臣
 石 破   茂  殿
まち・ひと・しごと創生本部政府関係機関移転に関する有識者会議 座長
 増 田 寛 也  殿


大阪弁護士会      
会長 松 葉 知 幸



消費者庁・国民生活センター地方移転に関する意見書


 現在、政府において検討されている、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、政府関係機関の移転を検討している件に関し、以下のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨
1 消費者庁が、特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに、消費者被害事故などの緊急事態に対処し、所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには、担当大臣、各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反するような地方移転には反対である。
2 国民生活センターが、全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・政策の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには、消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり、また、消費生活センター・消費生活相談窓口支援のセンターオブセンターとしての機能を果たすためにも地方移転には反対である。
 
第2 意見の理由
1 2014年(平成26年)9月、政府は、政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け、「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されている。その施策の中で、徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され、現在、政府関係機関移転に関する有識者会議(以下「有識者会議」という。)で審議されている。
 東京への一極集中は、地価の高騰、若者の東京圏への大量流入、災害時における人や各機関の集中による被害の大規模化と行政機能・産業の空洞化のリスクを増大させるだけでなく、地方の人口減少と人手不足、地域経済の縮小を増幅させるなど、我が国全体の活力の低下をもたらす事態となる。そのため、施策の目的に掲げられている東京への一極集中の是正のための方策として政府関係機関の地方移転を促進することは、その機関に関連する民間事業者の地方展開を促す効果も期待できる点で、地方の活性化に資する一つの重要な政策として評価できる。
 2015年(平成27年)3月3日付け「政府関係機関の地方移転に係る道府県等の提案募集要項」によれば、今般の政府関係機関移転の取組みは、「東京一極集中を是正するため、地方の自主的な創意工夫を前提に、それぞれの地域資源や産業事情等を踏まえ、地方における「しごと」と「ひと」の好循環を促進することを目的とする。」ものであり、また、政府機関としての機能が確保され、むしろ運用いかんでは向上も期待でき、組織・費用の肥大化を招かないことを前提に検討するものである。
 政府関係機関移転に関する有識者会議の考え方として、この趣旨の提案に沿わない具体的な提案として「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関や中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関(中央省庁そのものの移転と一体の提案を除く)に係る提案」、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」は移転の検討対象とはしない方向性が示されている(政府関係機関移転に関する有識者会議(第2回)の資料4「更なる精査を要する提案」に該当しないものの考え方)。
地方移転の対象機関を選定するにあたっては、上記趣旨及び有識者会議の移転を検討しないとしてあげている提案を踏まえて検証することが不可欠である。
 そして、このような観点から見ると、緊急事態における危機管理機能を伴わず、他省庁との日常的連携が求められない機関であれば、地方移転により当該機関の機能が低下する可能性は低い。
 しかし、そもそも消費者庁は、繰り返される消費者被害の発生を食い止めるために、各省庁が個々に消費者政策を実施することに限界があったため、消費者行政の一元化を掲げて2009年(平成21年)9月に消費者行政の司令塔として設置された。消費者庁は、各省庁や国民生活センター、地方自治体などと連携して消費者行政に取り組んでいるのであり、消費者政策は各省庁等の所管分野に広範に関連しており、迅速かつ効果的に施策を実施するためには、消費者の視点に立ちながら関係省庁との総合調整・連携が不可欠である。
 また、消費者庁は、消費者安全法に基づき、生命・身体や財産にかかわる消費者被害について、消費者への情報提供などを通じて、消費者被害の発生防止・拡大防止を図る使命を負っている。大規模な食品被害など国民の安心安全を脅かす事態が生じたときには、官邸と一体となり緊急対応を行う政府の「緊急対応機能」も消費者庁の重要な役目である。消費者庁は、「まさに官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」であり、現在地から移転した場合に本来の機能が著しく低下することは避けられず、我が国の消費者行政の機能の低下・後退は避けられない。
 消費者庁は消費者行政の司令塔としての役目があり、また、消費者庁が所管する国民生活センターは全国の消費生活センター・消費生活相談窓口を支援し、相談、あっせん、ADR、研修、商品テストなどを行う中核機関、センターオブセンターの機能を有しているところ、これらの機能を果たすためには担当大臣、連携する各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反する地方移転には反対である。

2 消費者庁の地方移転について
消費者庁創設の基本構想となった消費者行政推進基本計画(2008年(平成20年)6月27日閣議決定)は消費者庁の司令塔機能として次のように述べている。
「消費者庁は、一元的に集約・分析した情報を基に、司令塔として迅速に対応方針を決定する。具体的には、次のような取組が考えられる。  
① 自ら所管する法律により対処可能なものは迅速に対処する。
② 事業を所管する府省庁が事業者に指導監督等を行うことが必要な場合は、所管府省庁に対応を求める。さらに、必要な場合には、所管府省庁への法執行の勧告等を行う。
③ 複数府省庁が連携して対応する必要があると判断される場合は、連携の在り方を調整し関係府省庁に指示する。緊急時には、緊急対策本部を主宰し、政府としての対処方針
を決定し、その実施を促進する。
④ 対応すべき府省庁が明らかでない場合や緊急の場合等には、後述の新法等に基づき自ら事業者に対して安全確保措置等を促す。
⑤ 悪徳商法の拡大や、食品・製品等による消費者の生命・身体への被害の拡大が予想される場合には、原因究明が尽くされる前においても早期警戒警報を流すなど、情報発信
機能を担う。
⑥ 以上に加え、既存制度のすき間を埋めるために、制度の改正や新たな制度の創設が必要な場合は、消費者庁において必要な措置を検討し速やかに方針を決定する。
 これまで個別事案への対応は、緊急の場合も含め、ともすれば各府省庁にそれぞれの所掌の範囲内で縦割り的に処理されてきたが、上記のように、消費者庁が司令塔となり、消費者庁が決定した対応方針に従って政府一体となって対処することにより、迅速な被害の拡大防止、再発防止、被害救済の実現を目指す。」(引用部分)としている。
そこで、消費者庁が司令塔として迅速な被害の拡大防止、再発防止、被害救済の実現に向けて対応することが予定されている個々の取組と地方移転について検討する。

(1)司令塔として機能する消費者庁
 消費者庁は国の重要な政策の立案、実践、監視を行い、第三者委員会として消費者委員会とも連携して消費者行政の要となる主務官庁である。これを国の中枢機関と切り離して移転させることは、消費者基本法の制定から積み上げてきた消費者行政の推進に逆行するものである。
 消費者問題は、食品や製品の生産・流通・販売・安全管理、金融、教育、行政規制・刑事規制など多くの領域に関わり、経済産業省・金融庁・農林水産省・厚生労働省・国土交通省・文部科学省・警察庁等をはじめとするほとんどの省庁と関連している。このため消費者庁は様々な省庁と密接に連携し、政府全体の消費者行政の司令塔として、消費者保護施策を統括的に推進する役割を果たすために設置されたことは前述したとおりである。
 消費者庁は、司令塔としての機能を充実発展させるためには、情報の集約・調査・分析機能を充実させ、消費者保護のために立法や法改正を企画し実現しなければならない。
 また、関係省庁と協議し、様々な利害を調整して法改正を実現することが求められている。また、消費者庁は、各省庁の所管する法律を消費者保護の視点から統括的にチェックし、必要な修正も求めていかなければならない。
 消費者庁は、消費者被害の発生、または、拡大の防止を図るため、他省庁が所管する法律を当該省庁が実施する必要があると認めるときは、当該措置の速やかな実施を求めることが出来る(消費者安全法39条)。つまり、消費者庁は、他省庁が担っている消費者問題について、常に情報収集を行い、適切な業務遂行がなされているかチェックし、必要に応じて関係省庁に働きかけを行う必要がある(各省庁への措置要求)。
また、所管法・所轄大臣がいない場合の、すき間事案については、消費者安全法により、消費庁が直接対応することとされている(同法40条ないし42条)。
 しかし、当該事案がすき間事案かどうかについての判断は、関係省庁間での認識が常に一致しているとは限らず、緊急事案に対して他省庁との迅速な調整協議が必要となる(「すき間事案」への対応)。
 そして、消費者庁は、消費者被害事故の緊急時には情報収集をし、官邸と一体となって各省庁と連携しながら消費者安全のための施策を実施し、マスコミにも必要な発信をし(情報の発信・注意喚起)、様々な緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担っている。
 消費者庁は、地方移転によって「情報の集約・調査・分析」、「情報の発信・注意喚起」、「各省庁への措置要求」、「すき間事案への対応」等の様々なアクセスが阻害され、結果として司令塔としての機能が低下・後退することが懸念される。

(2)緊急事態の司令塔として機能低下
 消費者庁は、消費者安全に関する重大事故発生時には、官邸と連絡を取りながら、関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し、関係省庁と連携して事態に対処しなければならない。即時に各方面から被害情報の収集をし、マスコミ等にも対応し、消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。
 冷凍食品からの農薬検出による事業者から自主回収すると発表された事件(2013年(平成25年)12月29日)では、消費者庁は、食品安全法を踏まえ消費者に対して注意喚起するとともに、食品衛生法を所管する厚生労働省や警察庁等と連携し、情報共有と被害拡大防止のための対応にあたった。
 ホテル・レストランが提供する料理等のメニュー表示に関する偽装表示事件問題では、消費者庁は、内閣官房長官の下で食品表示の適正化策を策定した。
 その他、震災後の生活物資確保のための物価担当会議の主催や鳥インフルエンザ対策の緊急会議への参集など、多数省庁と関係する緊急事態は消費者問題では頻繁に発生する可能性があり、緊急事態においての消費者庁の役割は大きいと言わざるを得ない。
 緊急事態において、数時間内での対面の会議を実施し、官邸や省庁をまわっての情報収集と情報共有を行い、混乱のない形で記者会見などを実施し、国民に情報を提供し、注意喚起する必要があり、これらは、消費者庁の役割として国民に広く説明されているところである。消費者庁が地方に移転した場合に現在と同じように迅速な対応を果たすことは極めて困難である。
 生命・身体における注意喚起情報に混乱や情報錯綜、情報漏れなどが発生した場合には、国民の生命・身体に対して計り知れない損害を発生させるおそれがある。

(3)消費者庁の総合調整機能
 消費者庁が多数の省庁との関係において消費者行政の司令塔の役割を持つことは、前述した消費者行政推進基本計画の段階から明らかであり、消費者基本計画においても確認されている。 
 そして、消費者基本計画は、行政は、消費者のみならず、消費者団体や事業者・事業者団体の自主的取組を支援・促進することが必要と指摘する。そして、消費者政策を推進する上で考慮すべき視点として「府省庁等横断的な施策の一体的推進と行政・消費者・事業者の連携」を掲げ、消費者政策は、行政においては各府省庁等の所管分野に広範に関連するものであり、施策を効率的・効果的に実施するためには、消費者の視点に立った府省庁等横断的な問題・課題の整理を行い、それぞれの問題・課題に関係する府省庁等が連携し、一体的に実施することが必要であるとする。
 そのため、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)は、内閣府設置法(平成11年法律第89号)第12条の勧告権の適切な行使も含め、関係行政機関の総合調整を行い、消費者庁は、消費者行政の司令塔としての役割を果たし、消費者委員会は、消費者庁を含めた各府省庁等の消費者行政全般に対する監視機能を発揮し、関係府省庁等の間の情報や課題認識の共有、それぞれの所管分野に応じた適切な施策の実施を図るものと位置づけている。
 これまで消費者問題に関する事項の総合調整事務は内閣府が所管していたが、2015年(平成27年)1月27日、「内閣官房及び内閣府の業務の見直しについて」閣議決定がなされ、当該事務を消費者庁に移管する法改正がなされたため(上記の閣議決定の内容を実現するため、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」が第189回通常国会に提出され、法案は、同国会で成立し、2015年(平成27年)9月11日に公布された。)、消費者基本計画の実施や実施状況の検証・評価・監視、本計画の見直し等について、消費者庁において総合調整機能を発揮し、消費者行政の司令塔としての役割をより一層強力に果たして、更なる消費者政策の推進を図ることが計画された。
 消費者政策では、全体的に効率的・効果的に推進していくためには、行政、消費者、消費者団体、事業者・事業者団体等との間の相互の連携が重要である。
行政において、制度や施策等を多くの消費者・事業者に周知する、新たに生じた消費者問題を迅速に把握し、対応する、消費者向けの情報を消費者の特性に応じて迅速・確実に伝達するなどに当たっては、消費者・消費者団体及び事業者・事業者団体との連携が重要である。
 また、消費者団体や事業者・事業者団体が消費者被害の未然防止、苦情処理や被害救済の取組を行うに当たって、行政との連携は不可欠である。
 消費者庁に総合調整機能が移管されたことにより、今後ますます消費者行政の司令塔・エンジン役としての役割強化が求められているものであり、関係省庁との日常的な連携だけでなく、消費者団体や事業者団体が消費者被害の未然防止、苦情処理や被害救済の取組を行うに当たって、消費者庁が新たに生じた消費者問題を迅速に把握し、対応することは不可欠であり、そのためには正確で深い理解が必要なのであり、迅速・確実に指令を出すために消費者庁が現在地から移転し、地方にあるという状態は消費者庁の役割を著しく低下させることになる。

(4)商品・サービス横断的な法令の厳正な執行、見直し機能
 消費者基本計画は、適正な取引の実現に向けた商品・サービス横断的な法令として、引き続き、関係法令の周知や特定商取引法の厳正な執行を行うことで悪質商法を市場から排除するほか、消費者の財産被害に関して、消費者安全法の規定に基づく各府省庁等及び地方公共団体からの消費者庁への通知を確実に行い、事態に応じて、必要な注意喚起、勧告等の措置を迅速かつ的確に講ずることが明記されている。
 執行は、消費者庁と地方自治体が担っているが、多くのケースは消費者庁が行っている。行政処分を行うには、事業者からの事情聴取や立ち入り調査等の事実調査が必要であり、事業者の多くが首都圏や大都市に集中しているため、事実調査の多くが消費者庁で行われている。
 消費者庁が地方に移転すると、事実調査に多くの時間とコストがかかることが予想され、厳正かつ迅速な執行、見直し機能が阻害される可能性が極めて高い。
 消費者庁の地方移転は法令の執行・見直し機能の面から見ても大幅な機能低下が懸念される。

(5)詐欺等の犯罪の未然防止機能・取締り機能
 消費者基本計画は、架空請求や金融商品等取引名目等の特殊詐欺、悪質商法事犯(利殖勧誘事犯及び特定商取引等事犯)の取締りを推進するが、そのためには関係行政機関で日常的に連携強化を図りながら、被害拡大防止等を実施することが不可欠であり、関係機関に最新の手口、発生状況、被害に遭わないための注意点等の情報提供といった広報啓発活動や関係事業者等との連携した取組を実施するためには、消費者庁の対面での粘り強い情報収集及び情報提供とともに関係者への協力呼びかけなどの面談による調整権限の行使が不可欠である。関係官庁と切り離して、消費者庁のみ地方に移転してしまっては、このような役割を迅速かつ適切に果たすことは期待できず、内閣府から総合調整機能を消費者庁に移した趣旨が没却されかねない。

(6)消費者団体、事業者・事業者団体等による自主的な取組の支援・促進
 消費者基本計画では、消費者団体は消費者の埋もれがちな声を集約し、具体的な意見として表明するほか、消費者への情報提供、啓発等の活動を行っているが、構成員の高齢化等による活動の停滞も一部に見られることから、その活動の活性化は、消費者行政の推進に当たり重要であるとしている。また、消費者を取り巻く環境の変化により、消費者の関心・問題意識は多様化しているが、消費者政策は幅広い分野に関わるものであり、特定の関心・問題意識に基づく活動を行う団体も含め、その自主的な取組を支援・促進する必要があると指摘し、事業者・事業者団体も消費者を重視した事業活動、消費者指向経営を行うことが健全な市場の実現につながるという意味で、事業者・事業者団体と行政の連携の強化を図っていく必要があるとする。
 消費者庁は、どこに対してどのような支援・促進が必要で、どのように行政と連携する必要があるのかという総合調整を図るべく、関係省庁や消費者団体や事業者団体と調整し、必要な措置を執らなければならず、地方への移転は、このような役割を大きく阻害すると言わざるを得ない。

(7)消費者政策と国家対応
 消費者政策においては、前述したとおり、一元的に集約・分析した情報を基に関係する法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが重要である。これらの法改正においては、関係省庁との調整だけでなく、法案立案作業過程では、内閣法制局と頻繁に協議し、国会への対応が不可欠である。実際の法改正審議となれば、審議にあたる国会議員に個別に趣旨や内容説明を直接行うことも多い。これらの過程をテレビ会議や電話で行うことは限界があると言わざるを得ず、現在地から移転させることは消費者政策に計り知れないダメージを与える。
 実際、消費者政策は、毎年課題があり、改正議論がなされており、迅速な国会対応を行うことは、消費者行政の司令塔としての重要な役割である。 

(8)小括
 以上のとおり、消費者庁を現在地から移転させることは、消費者行政推進計画・消費者基本計画で明記されている消費者庁の司令塔機能としての様々な取り組みを低下させることが明らかである。 

3 国民生活センターの地方移転について
(1)国民生活センターの政策形成への役割と消費者庁・消費者委員会等との連携低下
 国民生活センターは消費者庁・消費者委員会や他省庁と連携を取りつつ業務を遂行している。全国の消費生活相談情報であるPIO-NET情報を集約し、被害情報を分析し、一般消費者や地方消費者行政を支援する者や地方自治体に情報を発信し、注意喚起を行うことにより消費者や地方消費者行政を支援する機能を担っている。さらに、相談情報を集約・分析した結果に基づいて、消費者庁・消費者委員会や関係各省庁へ消費者関係法制度の不備や改正における立法事実を明らかにする資料を作成し、情報提供する機能を有している。
 これは、消費者庁だけでなく、警察庁、経済産業省をはじめ各省庁が消費者関連法を執行する際や改正を審議する際に、国民生活センターに相談情報の分析を依頼している。分析に際しては、関係省庁と国民生活センター担当者間での問題意識を共有するための密な意見交換が必須である。国民生活センターの業務は、単なるデータベースによる情報分析だけではなく、消費者行政の推進や法の新設・改正において、非常に重要な役割を果たしているのである。ところが、そのような重要な機能が理解されず、あたかもコールセンターであるかのような理解の下に地方移転を是認する意見もある。しかし、実際は国民生活センターが消費者庁や関係省庁と離れて地方移転することにより、これらのさまざまな連携の機能が著しく低下し、消費者政策が後退することが予想される。

(2)国民生活センターの中核機関・センターオブセンターとしての役割
 国民生活センターは、全国各地の消費生活センター・消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として、相談支援、情報提供、商品テスト、ADRなどを実施して、消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関、センターオブセンターとしての役割を果たしている。
 商品テストを実施し、その結果に基づき、情報を集約・分析し、消費者に対して注意喚起し、関係省庁等に情報提供しつつ、事業者指導をしたり、ADRにおいて事業者と消費者の出席を求め、和解の仲介手続きを行っている。
 国民生活センターの地方移転は消費生活センター・消費生活相談窓口の支援における中核機関、センターオブセンターとしての面から見てもその役割を阻害するというべきである。

(3)小括
 以上より、国民生活センターは、消費者基本法25条に定められた消費者行政の中核機関、センターオブセンターとして、消費者庁・消費者委員会と連携して、諸問題を検討し、関係省庁に意見を述べ、地方消費者行政を支援し、消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。国民生活センターは、消費者庁だけでなく、関係省庁と日常的に連携し、多くの専門家を確保できる場所でこそ十分に機能を発揮できる機関であり、地方移転の対象としては不適当である。

4 結論
 以上のとおり、消費者庁と国民生活センターが有識者会議で移転を検討しないとして提案した機関として構想され、運営されていることは明らかである。
 消費者庁・国民生活センターの移転を検討した場合、弊害や問題点を上回る必要性や効果があるとは思えず、地方創生の趣旨から説明できないだけでなく、消費者基本計画を正面から否定するものであり、消費者行政・消費者政策が大きなダメージを受けることは必至である。消費者行政の要である消費者庁・国民生活センターの地方移転については反対である。
 なお、今回の地方移転計画は、あまりにも唐突であり、関係者・関係団体への意向聴取等の手続きすらもとられておらず、拙速であるとの誹りは免れがたいものと考える。

                                  

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