高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する要望書

高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する要望書

2014年(平成26年)2月6日


大阪府知事  松 井 一 郎  殿(他府内43市町村首長  殿)

大阪弁護士会
会 長  福 原 哲 晃


高齢者の消費者被害の予防と救済のためのネットワークづくりに関する要望書


高齢者の消費者被害が増加・深刻化しつつあるなか、高齢者の消費者被害の予防と救済を効果的に行うために、高齢者の消費者被害に関する見守りネットワークづくりの取組みの必要性が強く認識されるに至っています。高齢者の消費者被害の予防と救済のためには、高齢者の生活に密着したところで活動している人々(地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業関係者、民生委員、自治会関係者、地域ボランティア等)に被害発見の担い手(見守り者)となってもらい、速やかな消費生活相談につなげていく対応を行える関係を確保することが重要です。また、高齢者及び見守り者に対して、予防のための注意を喚起し、情報を迅速かつ確実に提供し続けていくことも必要です。そして、相談や情報提供に対しては、行政及び民間における消費生活部門と高齢者福祉部門が現場レベルにおいて連携し、その被害の救済や被害の深刻化の予防のために対応していくことが求められています。
消費者庁も、昨年、「高齢者の消費者トラブルの防止のための施策の方針」を発表し、その後、「消費者安心戦略」の推進の一環として、消費者被害の早期発見・未然防止につなげていくための見守りネットワークの構築等に関する意見交換を実施する等しています。また、内閣府消費者委員会も、「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」を取りまとめ、そこで、消費者庁に対し、消費者行政部局に加えて、地域包括支援センター、介護支援専門員、民生委員等の高齢者と身近に接する者や、都道府県警察、消費者団体、事業者団体等の多様な主体が、高齢者への注意喚起・見守りを地域において密接に連携して行う体制の普及に努めることを求めています。既に、一部の地方公共団体では、消費者(特に、高齢者)の 消費者被害の防止と救済のためのネットワークづくりに先駆的に取り組んでいるところもあり、その活動が高く評価されているところです。
以上のことを踏まえ、当会は、大阪府内の各市町村及び大阪府に対して、以下のとおり要望いたします。

(要望の趣旨)

1 大阪府内の各市町村におかれては、重点的な施策として、高齢者の消費者被害の予防と救済のために、既に存在する地域包括ケア実施のためのネットワーク等を利用し、行政における消費生活部門と高齢者福祉部門とが連携して、警察を含めた行政と、高齢者の生活に密着して活動する民間関係者が連携・協働する実効的な高齢者の見守りネットワークづくりに取り組まれることを要望します。
2 大阪府におかれては、府内の各市町村が前記要望の趣旨1記載の実効的なネットワークづくりを行えるよう、それに必要な情報や資料を提供され、また、ネットワークづくりのためのガイドラインを提供される等、市町村の施策に対する協力・支援等の取組みを行われることを要望します。

(要望の理由)

1 高齢化の進行
我が国における65歳以上の人口は、2002年10月には2431万人(人口比19.0%)でしたが、2012年10月には3079万人(人口比24.1%)と増加しており、高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯数及び構成比も増加傾向にあり、過半数を占めています。大阪府でも、65歳以上の人口は、2000年には132万人(14.9%)であったところ、2010年には196万人(人口比22.1%)となり、2012年には推計で210万人(人口比23.7%)となっており、また、高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯数及び構成比についても、全国と同様の傾向を確認できます。高齢者のうち、認知症及び認知能力が低下している高齢者も少なからず存在し、2012年の時点で、全国には、65歳以上の認知症の人は約462万人、軽度認知障害(MCI)の人が約400万人いると推計されるとの調査結果も報告されています。

2 高齢者の消費者トラブル
このような中、高齢者の消費者トラブルも増加しており、65歳以上の人を当事者とする消費生活相談は、全国において、2003年で13万9766件であったものが、2012年には19万2206件に増加しており、人口の伸び以上に増加しています。トラブルの種類としては、住宅リフォーム、健康食品の送り付け、ファンド型投資商品の販売、株・社債の販売等をめぐるものが上位を占めており、訪問や電話勧誘によるものが多くなっています。100万円以上の被害額も、高齢者の層では比率が大きくなっています。また、詐欺的な利殖商法や、いわゆる二次的被害の相談件数も多い状況です。
大阪府消費生活センターにおける消費生活相談の件数をみても、2012年度における60歳以上の者の相談は25.1%に至っており、その特徴として、「ファンド型投資商品」等投資商法のトラブルに関するものが多く、70歳以上の者では、家庭訪問による取引に関する相談の割合が非常に高くなっています。
さらに、高齢の消費者の場合、視覚や聴覚等身体機能の衰えによる事故等、商品等により危害や危険に遭うことも少なくありません。

3 見守りの仕組みづくりの重要性
高齢者の消費者トラブルは高齢者の「孤独」、「健康」、「お金」という3つの不安に付け込まれるものが多いとされ、特に、判断能力が低下したり、社会との接点が希薄化している高齢者の場合には、それゆえにトラブルに巻き込まれ、あるいは、被害の自覚を持てない人も少なくありません。高齢者の場合は、就労による収入の確保が期待できないこともあり、いったん被害を受けると、高齢者の生活の基盤自体が破壊されることになってしまいます。
このような消費者トラブルを防止し、高齢被害者の救済をするためには、単に相談体制(受動的なもの)の拡充や取締りの強化をするだけでは十分ではありません。基礎地方公共団体である市町村は、介護保険制度で取り組まれている地域包括ケア実施のために構築されているネットワークや自治会活動等で高齢者の身近で活動している人たちに、継続的なつながりを持った形で、悪質商法やその被害状況等に関する注意喚起・情報提供を行うとともに、見守り活動に向けた研修等を行い、「見守り者」としての協力を得て(「協力機関」、「見守りサポーター」等としての登録を行う等)、高齢者に対する注意喚起を分かりやすい形で日常的に行い、そのような活動を通じて高齢者の身近にいる人たちが、被害を早期に発見して(被害等の徴候の「気づき」)、これを地域包括支援センター、消費生活センターや警察署に相談・通報し、実効的な解決策を求めて相談したり、関係機関が相互に連携し的確に対処できる仕組みづくりをして、このネットワークを実効的に機能させることが不可欠です。
具体的な取組み方法としては、注意喚起のための情報提供では、市町村や消費生活相談センターによる関係者への継続的なメールマガジンの提供(後記「見守り新鮮情報」参照)、見守り活動のための研修等では、「見守り者向けハンドブック」、「見守りチェックシート」の提供や、その説明を兼ねた見守り者向けの「出前講座」等があります。また、高齢者への注意喚起の方法としては、高齢者向けの「出前講座」だけではなく、「声かけ活動」等の普及も有効です。相談・通報を行いやすくする取組みとしては、「対応マニュアル」(通報・相談の流れを簡略に説明したもの)、「通報・連絡シート」(記入事項を使いやすい形に定型化したもの)等の配布、さらには「見守り者専用相談窓口」の設置等があります。相互の連携を促進する方法としては、相談員等と「見守り者」による「意見交換会」等の開催も有効と思われます。
この点、日本弁護士連合会が、2008年(平成20年)11月27日に、報告書「消費者・福祉部門の連携づくり~高齢者・障がいのある人の消費者被害の防止・救済のために~」を発行して、消費者問題に取り組む諸部門と、高齢者・障がい者問題に関わる福祉部門との連携を提唱しているところですが、当会においても、2011年(平成23年)2月には大阪市における講演会「高齢者の権利擁護と成年後見制度」を同市等と共催したことを嚆矢に、2013年(平成25年)11月には、高齢消費者の被害の予防等のための地方公共団体等との連携を図るべく、高齢者・障害者総合支援センター運営委員会と消費者保護委員会とが共同して、新たにプロジェクトチームを立ち上げ、活動を始めたところです。
全国の地域(地方公共団体)の中には、介護保険制度における地域包括ケアシステム実施のため構築されているネットワークを消費者被害の発見、防止にも活用する等、効果的なネットワークを構築しているところもありますが、未整備の地域が大多数であると思われます。また、既にネットワークを構築している地域(地方公共団体)においても、次々と形を変えて高齢者を狙う詐欺商法に対応すべく、より充実した取組みを行うことが重要となっています。これらの点は、大阪府内の各市町村及び大阪府においても、同様にあてはまるものでしょう。

4 国の施策について
国(消費者庁)は、高齢者の消費者トラブル見守りガイドブックを配布したり、先導的な取組み事例を紹介したり、高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会を開催し、2013年(平成25年)4月には、「高齢者の消費者トラブルの防止のための施策の方針」としてその施策を取りまとめて公表しています。さらに、同年10月に消費者の安全・安心確保のための「地域体制の在り方」に関する意見交換会を開催して、その成果としての報告書を同年12月に公表しています。
また、国民生活センターでは、見守り者が活用しやすいイラスト入りのチラシを付した「見守り新鮮情報」というメールマガジンを継続的に発信しています。
さらに、内閣府消費者委員会も、2013年(平成25年)8月に、「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」の中において、高齢者への注意喚起・見守りを地域において密接に連携して行う体制の普及の必要性を力説しているところです。

5 地方の役割について高齢者の消費者被害の予防・救済のためのネットワークは、高齢者に身近な地域ごとに形成されることが必要であり、また、地域の実情によってもあり方が異なるところです。このようなサービスは、市町村等の基礎地方公共団体及びその地域コミュニティーが主体となって実施してゆくべき性格のものです(消費者教育推進法第13条、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第27条、介護保険法第115条の45第1項第4号等各参照)。
もっとも、このような取組みは、個々の基礎地方公共団体がノウハウもない中で一から作り上げていくには非常に困難が伴い、また、非効率でもあるので、国とともに都道府県がネットワークによる見守り活動の進め方のノウハウを提供する等の支援をすることが必要です。見守りネットワークづくりに関しては、例えば、東京都が「高齢者の消費者被害防止のための地域におけるしくみづくりガイドライン」を定めて、区市町村に提示し、ネットワーク構築へ向けた働きかけがなされています。

6 実効性のあるネットワークを
高齢者見守りネットワークは、地域包括ケア実施のための地域包括支援センターを中心としたネットワークを利用して、地域包括支援センター及び社会福祉協議会の他に、ケアマネジャー・ホームヘルパーや訪問看護等を行う介護事業者、民生委員、自治会関係者、地域ボランティアの積極的な参加によって、実効性のあるものとすることができます。
また、ネットワークづくりには、行政における消費生活部門(担当部局と消費生活センター)と高齢者福祉部門(担当部局と地域包括支援センター等)の連携が極めて重要な意味を持つため、様々な工夫が必要です。地域包括支援センターや社会福祉協議会等と消費生活センターの協働関係を日常的に確保していくことが、ネットワークの実効性を確保することにおいて重要です。例えば、前述したとおり、介護保険制度では、地域包括ケア実施のための地域包括支援センターを中心としたネットワークを構築することが提唱され、既に地方公共団体でその整備がされているところから、このネットワークの中に、消費者トラブルも取り込んで対応することが第一に検討されるべきです。
なお、組織の代表又は担当者の年1、2回程度の会議だけでは、被害の予防・救済のネットワークとは言えません。前記要望の理由3において指摘した具体的な方策についても、あくまでもネットワークの実効性を確保するための手段の一例であり、これらを形式的に実施すれば足りるというものではなく、その地域の実情に即した他の方策も検討して実行されるべきです。何よりも重要なことは、個々の高齢者に接している人が、高齢者の尊厳を支え、プライバシーを確保しつつ、消費者相談の担当者と円滑に連絡し合える関係を確保することです。その観点から、地域包括ケア実施のため、前記の地域包括支援センターを中心としたネットワークをさらに発展させたものとして、現在、各地域において急ピッチで整備が進められている「地域ケア会議」を活用し、その主要なテーマとして位置付けること等も検討されるべきであると考えます。
今般の「高齢者の消費者被害に関する見守りネットワーク」は、高齢消費者被害防止の観点から、現に存在する高齢者福祉分野の地域包括ケアシステムにおける見守り活動を軸にして、行政における消費生活部門と高齢者福祉部門が連携・協働する地域のネットワークづくりを提唱するものです。かかるネットワークの構築は、今後、消費者教育の分野でも推進されようとしている地域におけるネットワークづくりの一部分(高齢者部門)としての意義を有するものと考えます。

7 おわりに
大阪府内の各市町村及び大阪府におかれましては、各地方公共団体における施策において、本要望書の趣旨を反映していただくよう要望します。
当会におきましても、高齢者の消費者被害の予防と救済のための見守りネットワークづくりへの参加・協力、見守り活動のための研修への講師派遣等のネットワーク活動への参加、さらには、高齢者向けの相談体制の整備への助言等、可能な限りの支援・協力を行う所存です。

以上

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