共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明

共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明

 共謀罪法案は、2003年に初めて国会に提出され、以後、2009年までの間に計3度提出されたが(以下「旧法案」)、広範な市民の反対の声がその成立を許さなかった。これは「共謀罪」が実行行為の着手のみならず、予備行為さえも要件としない「共謀」をもって犯罪とするものであり、人の内心を処罰することになりかねないからである。ところが、今回政府はテロ対策の一環として新たな法案(組織的犯罪処罰法改正案、以下「新法案」)を本年9月召集の臨時国会に提出の準備をしていると、マスコミが一斉に報じた。
 これらの報道によれば、新法案は、「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し、その略称を「テロ等組織犯罪準備罪」とした。また、旧法案において、適用対象を単に「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とした上で、その定義について、「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。さらに、犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし、その処罰に当たっては、計画をした誰かが、「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付した。
 しかし、その内容は、以下に指摘するとおり、旧法案の有する危険性と何ら変わるところがない。
 第1に、新法案の「計画」は旧法案の「共謀」の言換えにすぎず、また、何をもって「準備行為」とするかについて、何らの限定も付されていない。そのため、例えば生活費のための預金の引き出しであっても、「(資金の)準備行為」とされかねず、「準備行為」という要件が設けられたからといって、処罰の対象となる行為が限定されるわけではなく、結局「計画」(共謀)だけで処罰するのと何ら変わりがない。
 第2に、旧法案では、上記のとおり適用対象が単に「団体」とされていたが、新法案では、「組織的犯罪集団」とされ、その定義は、「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」である。しかし、その認定は捜査機関が個別に行うため、解釈によっては処罰される対象が拡大する危険性が高い。結局、この点においても、新法案は旧法案に限定を加えたことになっていない。
第3に、「組織的犯罪集団」の目的とされる対象行為は、法定刑長期4年以上の懲役・禁錮の罪等であり、旧法案と同様に600を超えるとされている。テロ対策としてこれらの行為の計画(共謀)の処罰が必要とは考えられない。
 このように、新法案は、旧法案の名称と要件を変えたと言いながら、これまで3度も廃案となった旧法案と何ら変わるところがなく、同様に市民の自由と権利が脅かされるおそれがあるというべきである。
 さらに、今般の刑事訴訟法改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大に新法案が加わったときには、テロ対策の名の下に市民の会話が監視・盗聴され、市民社会のあり方が大きく変わるおそれさえあると言わなければならない。
 新法案は、憲法の保障する思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威となるばかりか、刑法の基本原則を否定するものであり、当会は新法案の国会への提出に反対する。

2016年(平成28年)9月6日
  大阪弁護士会      
  会長 山 口 健 一

ページトップへ
ページトップへ