名古屋市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明

名古屋市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明

 本年2月8日及び23日発売の「週刊新潮」は、2014年(平成26年)12月7日に愛知県名古屋市において知人女性を殺害したなどとして、殺人等の罪に問われている事件について、犯行時少年であった被告人の氏名や顔写真を掲載した。
 子どもの権利条約第40条第2項は、犯罪を行ったとされるすべての子どもに対する手続のすべての段階における子どものプライバシーの尊重を保障する。少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)第8条は、少年のプライバシーの権利があらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公開してはならないとする。少年法第61条は、少年の氏名、容ぼう等の本人と推知することができるような報道を禁じる。今回の実名等報道は、これらに違反する違法なものである。
 当会は、これまで2016年(平成28年)3月8日付け「川崎市で発生した少年事件に関する報道についての会長声明」及び2016年(平成28年)6月28日付け「少年事件で死刑判決が確定した元少年の実名・顔写真報道についての会長声明」などにおいて、「週刊新潮」を発行する株式会社新潮社に対して、少年法等を遵守するよう繰り返し要請してきた。
 しかしながら、株式会社新潮社は、当該被告人に係る裁判が未だ係属中であり、同裁判の中で当該被告人が無罪主張をしているにもかかわらず、「少年法は、大メディアにとっては金科玉条である。が、容貌や名前を秘して矯正に役立つのなら世話はない。」などと当該記事本文に明記した上で、犯行時少年であった当該被告人の実名等報道を行った。この株式会社新潮社による実名等報道は、子どもの権利条約、国連最低基準規則及び少年法のみならず、無罪推定の原則をも無視するものであり、当会は、株式会社新潮社に対して、厳重に抗議するとともに、国際規範及び法律を遵守するように改めて強く要請する。
 憲法第21条が保障する表現の自由は極めて重要であるが、少年の実名等は、報道に不可欠な要素ではない。実名等を報道しなくても、事件の背景・原因を的確かつ冷静に報道することにより、同種事件の再発を防止するという報道機関の社会的使命を果たすことは十分可能である。報道機関各位においては、興味本位や商業主義に陥ることなく、同種事件の再発を防止するという社会的使命を果たすという視点のもと、少年事件についての報道に取り組まれるよう強く要請する。

2017年(平成29年)3月14日
  大阪弁護士会      
  会長 山 口 健 一

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