国の法的責任に基づき福島第一原発事故避難者への抜本的救済策を求める会長声明

国の法的責任に基づき福島第一原発事故避難者への抜本的救済策を求める会長声明

 本年3月17日、前橋地方裁判所は、福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)による被害につき国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)に対し、損害賠償等を求めて全国で提起されている集団訴訟において、全国初の判決を言い渡した(以下「本判決」という)。
 本判決は、まず、東京電力及び国に遅くとも平成14年には非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波の到来につき予見可能性があったことを明確に認め、平成19年8月頃には国の有する規制権限を行使すべきであったとして、国の損害賠償義務を認めた。すなわち、「被侵害法益が極めて重要で、かつ、その被害者が極めて広汎に及び得る性質を有する原子力産業について、規制権限を適時かつ適切に行使して原子力災害の発生を未然に防止することが強く要請されていた」にもかかわらず、国や東京電力において前記規模の津波の到来が予見可能となった平成14年以降5年以上にわたって規制権限を行使しなかったことは「炉規法及び電気事業法の趣旨、目的やその権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国賠法1条1項の適用上違法である」として、本件事故の発生について国の法的責任を明らかにした。加えて本判決は、東京電力の過失は、経済的合理性を安全性に優先させ、容易な津波対策を取らなかった等から「特に非難するに値する」と認定し、国が規制権限を行使しない著しい不合理さも、東京電力への非難に匹敵するものであるとした。
 また、本判決は、本件事故から避難せざるをえなかった住民の救済の範囲につき、「避難指示等対象区域」だけではなく、ICRP(国際放射線防護委員会)において「直線しきい値なしモデル」が採用されていることや放射線による健康被害にはいったん生じれば治癒困難で死に至りかねない重篤なものが含まれること等を指摘して、区域外からの避難についても避難の合理性を肯定し損害賠償義務を認めた。その上で本件事故による共同体としての機能や生活の利便性の喪失を指摘し、実効線量の低下や避難指示の解除があったことをもって避難継続の合理性を否定できないとした。
 
 当会は、本件事故発生以来幾度となく、国に対し、未曾有の事故により大阪を含む全国各地に生活する避難者に対し、住宅、医療、検診、就労、経済的支援等の十分な支援を行うよう求めてきた。しかし本年3月末の避難者への無償住宅の提供の打ち切りをはじめ、「子ども被災者支援法」による支援は有名無実化し、国としての責務を果たしているとは言いがたい状況にあった。
 当会は、本判決を踏まえ、あらためて国に対し、本件事故に関する国の法的責任が特に非難に値するほど著しい不合理であったとされたこと及び避難指示等対象区域の内外を問わず避難することの合理性が認められたことを真摯に受けとめ、本件事故による全ての避難者に対し、抜本的かつ十全な恒久的救済策を講ずるよう求める。とりわけ、避難者への無償住宅の提供打ち切りを直ちに撤回し、速やかに適切な措置を講ずることを求める次第である。

2017年(平成29年)3月21日
  大阪弁護士会      
  会長 山 口 健 一

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