法務総合研究所国際協力部移転後の施設の有効活用に関する意見書

法務総合研究所国際協力部移転後の施設の有効活用に関する意見書

2017年(平成29年)5月18日

大阪高等検察庁検事長 三 浦   守 殿
法務省法務総合研究所長 佐久間 達 哉 殿


  大阪弁護士会      
  会長 小 原 正 敏


法務総合研究所国際協力部移転後の施設の有効活用に関する意見書



第1 意見の趣旨
 大阪中之島合同庁舎内に拠点を置く法務総合研究所国際協力部(以下「国際協力部」という。)が、平成29年10月に移転した後も、国際協力部において、現状の施設を用いた各種行事を頻繁に開催していただくとともに、同施設を、可能であれば一部改装の上、国際仲裁の審問施設をはじめ、国際法務にかかる研修・人材育成施設として適宜民間にも利用を開放されることを求める。

第2 意見の理由
 1 国際協力部の役割とその移転
  国際協力部は、2001年4月の設置以来、大阪中之島合同庁舎内に拠点をおき、法整備支援活動や、アジア・太平洋諸国の法制度の調査・研究の実施、シンポジウムの開催を行って、西日本のみならず日本における国際法務に関する研究・人材養成・国際交流の一大拠点としての役割を果たしてきた。その活動のため、国際協力部は、同時通訳ブースを備えた国際会議室や控室、研修室等の施設を有している(以下「大阪施設」という。)。
   ところが、過日、国際協力部が本年10月をもって、東京都昭島市に移転することが発表された。

 2 国際法務拠点としての発展的活用
  当会としては、国際協力部のこれまでの貢献を高く評価するものであるが、同時に、その移転を惜しみ、またその移転によって関西をはじめとする西日本地域における国際法務に関する諸活動が低下することのないよう、当会としても努力を続けつつ、政府に対しても、引き続き大阪施設が国際法務に関する拠点として機能し続けるべく、大阪施設を有効活用されることを求めるものである。
  より具体的には、第一に、国際協力部が、東京移転後も頻繁に大阪施設において法整備支援研修、関連する会議やセミナー、シンポジウム等国際法務の人材育成や研究に関する諸行事を引き続き開催することを期待する。
  さらに、国際協力部の東京移転によって国際協力部が常時利用をしなくなるいわば空き時間は、民間の国際法務に関する諸活動の需要に開放されることが望ましい。民間の需要としては、大阪施設の特徴を活かした通訳を要する国際会議、セミナー、研究会等様々なものが想定される。また大阪施設の特徴を遺憾なく活用できる利用方法として、国際仲裁の審問施設としての利用も考えられる。
ここで大阪施設の現状を確認すると、2階に配置されている国際会議場には、講師控え室、セミナー室、テレビ会議設備、同時通訳サービス室が完備され、4階には、中小の研修室等が配備されている。
  今後のさらなる有効活用を考えると、WIFI対応等各階の通信インフラを多少整備し、4階に配置されている中小の研修室等を改装して、中規模、小規模の会議室や控え室を設け、バイリンガル・スタッフを受付その他事務処理要員として配置し、さらには、軽食や飲み物を購入またはケータリングできるようにすれば、今後の国際会議やセミナー、仲裁設備としての利便性はさらに大きく高まり、これらの招致を力強く後押しすることができる。

 3 国際競争力の法的支援拠点としてのさらなる活用
  経済のグローバル化のなかで日本企業の国際競争力を強化することは喫緊の課題であり、そのためには、日本企業を法的な側面で支援することも重要である。法的側面での支援には、日本企業の海外展開の支援に加え、グローバル化することによって必然的に生じる国際的な紛争の解決支援がある。司法制度が未成熟あるいは信頼性の低い国において紛争に巻き込まれた日本企業が思わぬ不利益を蒙ることのないように、裁判外で国際的紛争を解決できるような物的・人的インフラの整備が重要であることはいうまでもない。国際的に信頼される国際仲裁のインフラを日本において整備することは、日本企業の海外進出を後押しし、日本企業の国際競争力を高めるのみならず、外国企業の日本に対する投資を促す上でも重要である。
  そのためには、国際仲裁に関わる仲裁の審問施設等のハード面と法制度の整備・裁判所による支援・仲裁機関の支援・人材育成等のソフト面での施策が重要である。上記機能をもつ現存の大阪施設を利用すれば、このような施策を低コストかつ短期間に実現することが可能であり、国際仲裁のインフラ整備にとって千載一遇の機会でもある。
  この点さらに具体的に述べると、ハード面で仲裁の審問施設として利用することはもちろんであるが、ソフト面では、仲裁を担う人材養成の拠点として、セミナー、継続研修の開催、模擬仲裁の開催等を、日本商事仲裁協会(JCAA)、国際商業会議所(ICC)、日本仲裁人協会(JAA)、各ロースクール、関西経済連合会、大阪商工会議所等々の機関と協働としながら進めていくことが考えられる。
  大阪施設の積極活用・隆盛は、それ自体地方創生の観点からも期待されるものであるが、大阪をはじめとする西日本に多数存在する中小企業にとっては、日本国内での紛争解決の必要性・重要性は大企業の場合以上に切実であり、距離的に近い大阪施設を利用することができれば、西日本の中小企業への支援にもなり、中小企業の国際的な司法アクセスをより容易にすることが、さらに地方創生に資することになる。

 4 まとめ
  以上より、国際協力部移転後の大阪施設を、国際法務の人材育成・研究・研修・成果発表の場や国際仲裁の審問施設として民間に開放することは、国有施設を有効利用する観点からも望ましいのみならず、日本の企業の国際化を側面から支援するとともに、日本経済にも好影響を及ぼすと考えられる。よってここに、意見の趣旨記載のとおり求める次第である。
以  上

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