「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が全面施行されてから1年を迎えるに当たっての会長声明

「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が全面施行されてから1年を迎えるに当たっての会長声明

 「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」(以下「大阪市条例」という。)が全面施行されてから、2017年7月1日で、ちょうど1年を迎える。
 当会は、大阪市条例の公布1年の節目である2017年1月18日に「ヘイトスピーチ解消に向けた積極的施策の早期実施を求める意見書」(以下、「当会意見書」という。)を公表し、その中で、大阪市が、全国の自治体に先駆けて、ヘイトスピーチの抑止を目的として大阪市条例を成立させた意義等を評価しつつ、審議の長期化や職権発動の消極性といった課題を指摘した。
 その後、大阪市ヘイトスピーチ審査会は、2017年3月30日、在日コリアンを誹謗中傷するインターネット上の動画3件がヘイトスピーチに該当すると認定し、これを受けて市長は、動画掲載サイトの運営会社に対して削除要請をし、この会社や投稿者が動画を削除するという成果もみられた。また、大阪市は、同年6月1日付で、上記動画3件につきヘイトスピーチに該当する旨の認識等の公表を行った。
 大阪市条例施行以来、はじめて認識等の公表にまで至ったものであり、大阪市がヘイトスピーチは許されないとのメッセージを社会に発信するものとして評価したい。
 しかしながら、条例施行から1年が経過し、様々な課題も浮かび上がっている。
 まず、上記成果にかかわらず、インターネット上には、いまだ在日コリアン等の民族的マイノリティを誹謗中傷する動画や書き込みが氾濫している。前述の3件の動画は、市民団体の申出から削除要請までに、約9か月も要した。ネット空間には、上記3件と同一の動画が多数拡散しているが、同一の動画であっても、大阪市が職権によって、拡散防止措置及び公表の手続を開始しようという動きはみられない。
 また、上記の認識等の公表では、動画を掲載した者の氏名が判明せず、ネット上の登録名(ユーザー名)を公表する措置となった。当面の対応としては妥当と言えるが、本来、大阪市条例が氏名又は名称の公表を規定した趣旨は、公表により、ヘイトスピーチが抑止されることを期待したからである。ユーザー名の公表のみでは、その抑止的効果は十分に期待できない。
 この点、大阪市長は、2017年6月1日の定例会見において、現在、大阪市ヘイトスピーチ審査会に対し、ヘイトスピーチに該当すると認めたインターネット上の投稿サイトを利用して行われる表現活動について、当該表現活動を行った者の氏名又は名称に関する情報を当該投稿サイトの運営者から取得するために市がとりうる方策について諮問しており、その答申を受けて条例改正が必要であれば条例を改正し、より実効性の高い制度に変えていきたい旨述べた。
 かかる制度の改善に期待するとともに、大阪市には、あらためて、当会意見書においても言及した点、すなわち、①審査会における標準処理期間を定めるなどして、迅速な審理体制を構築すること、②市民団体等の申出を待つことなく、職権により、拡散防止措置及び公表の積極的な対応を行うことを求める。
 さらに、現行の大阪市条例の枠にとらわれず、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」の要請である、相談体制の整備、教育、広報その他の啓発活動等、ヘイトスピーチの解消に向けた諸施策に積極的に取り組んでいくことを求める。

2017年(平成29年)6月29日
  大阪弁護士会      
  会長 小 原 正 敏


ページトップへ
ページトップへ