死刑執行に抗議する会長声明

死刑執行に抗議する会長声明

 本年7月13日、大阪拘置所及び広島拘置所において各1名の死刑が執行された。今回の執行は、金田勝年法務大臣が就任してから2回目の執行であり、第二次安倍内閣以降11回目合計19名もの死刑が執行されたことになる。8月初旬には内閣改造による法務大臣の交代が予想される中での拙速な執行であり、当会は、改めて死刑執行に強く抗議する。
 今回、大阪拘置所で死刑執行された者は、2005年(平成17年)に死刑が確定した後、無罪を主張して再審請求中であった。これまでは、再審請求中は死刑執行が回避される傾向にあり、2014年(平成26年)3月27日には、袴田巖氏の第二次再審請求事件について、静岡地方裁判所が再審の開始と死刑及び拘置の執行を停止する決定を行っている。今回の執行は、裁判所の判断を待たずに法務省が再審開始決定及び無罪となることはないと判断したもので、極めて異例であり、およそ是認できない。
 広島拘置所において死刑執行された者は、2013年(平成25年)2月に岡山地方裁判所の裁判員裁判において死刑判決を受け、自ら控訴を取り下げ、刑が確定したものである。裁判員裁判の下で言い渡された死刑判決が執行されたのは、今回で3件目となる。刑事裁判への市民参加が進められているにもかかわらず、わが国においては、政府による極端な密行主義のもと、死刑に関する情報はほとんど明らかにされておらず、死刑制度に関する議論を行う前提を欠く状態にある。裁判員も死刑を含む量刑判断を行う以上、死刑制度の運用と実態を正確に事実として知ることが重要であるが、未だに死刑に関する情報公開が不十分なまま今回の執行がなされたものであり、極めて遺憾である。
 当会は、会内に死刑廃止検討プロジェクトチームを設置し、死刑のない社会を目指してどのような活動を行うべきかについて議論を重ねるとともに、死刑の執行方法に関するDVDの作成、シンポジウムの開催、ブックレットの作成などを通じて、市民とともに死刑制度の問題点を検討し、死刑制度について全社会的議論を呼びかけてきた。また、かねてより再三にわたり、政府に対し、死刑執行の停止と、死刑に関する情報の公開を求めてきた。しかし、この間、刑場の状況や死刑確定者の処遇について一部公開されたものの、なお、十分な情報の公開がなされたとはいえず、死刑制度について全社会的議論を行う場すら設けられていない。
 日弁連は、死刑制度を存続させれば死刑判決を下すか否かを人が判断する以上えん罪による処刑を避けることができないこと等を理由に、昨年10月7日に開催された第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、その中で2020年(平成32年)までに死刑制度を廃止すること等を国に求めた。
 死刑廃止は、国際的な趨勢であり、世界で死刑を廃止し、または停止している国は140ヶ国となっており、全世界の3分の2以上の国において死刑の執行はなされていない。2014年(平成26年)7月23日には、国連人権(自由権)規約委員会が日本政府に対し、「死刑の廃止を十分に考慮すること」との勧告を行っている。さらに、2016年(平成28年)12月19日、国連総会において、すべての死刑存置国に対し、死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議が採択されている。政府は、かかる勧告や決議を無視して執行したことになる。
 当会は、政府に対し、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑執行を停止し、死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請するのみならず、死刑制度の廃止目標を設定し、これに向けた全社会的議論の喚起と刑罰制度全体の見直しを行うことを求めるものである。

2017年(平成29年)7月14日
  大阪弁護士会      
  会長 小 原 正 敏

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