「消費者契約法改正」に関する意見書

「消費者契約法改正」に関する意見書

2017年(平成29年)7月25日

衆議院議長                   大 島 理 森  殿
参議院議長                   伊 達 忠 一  殿
内閣総理大臣                  安 倍 晋 三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)     松 本   純  殿
消費者庁長官                  岡 村 和 美  殿
内閣府消費者委員会委員長            河 上 正 二  殿
内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会座長  山 本 敬 三  殿


  大阪弁護士会      
  会長 小 原 正 敏


「消費者契約法改正」に関する意見書


 高齢化の進展やインターネット取引の拡大の影響等もあり、消費者被害件数は急増し、また、その内容も多様化・複雑化していることから、旧消費者契約法の規定や解釈では被害救済が困難なケースや、新たな消費者被害類型であるため対応できないケースも増えている。かかる状況を受けて、旧消費者契約法の改正の必要性が検討され、内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)の審議・答申を踏まえ、2016年(平成28年)3月4日、「消費者契約法の一部を改正する法律案」として閣議決定を経て、同日同法案が国会に提出され、同年5月25日、「消費者契約法の一部を改正する法律」が成立し、本年6月3日、施行された。
 専門調査会では、多岐にわたる項目について検討されたが、上記改正では僅か6項目の改正が実現したに止まり、「勧誘」要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、「平均的な損害の額」の立証責任、条項使用者不利の原則、不当条項等の追加等は今後の検討課題とされた。
 これを受けて、2016年(平成28年)9月より専門調査会が再開され、審議が行われている。
 当会は、2015年(平成27年)7月17日付「消費者契約法改正」に関する意見書等により、消費者被害の予防・救済を図るために、同法の改正を求めてきたところ、本年8月上旬頃に専門調査会の議論のとりまとめが予定されていることから、下記のとおり意見を述べる。



第1 意見の趣旨
 1 合理的な判断をすることができない状況を利用して契約を締結させる類型について
 ⑴ 本類型に関しては、消費者の困惑を要件とせず、「事業者が、消費者の合理的判断が困難な事情につけ込んで契約を締結させた場合には、当該契約を取り消しうる」旨の新たな取消規定を設けるべきである。
 ⑵ 上記の規定とは別に、消費者庁が第40回専門調査会の「資料1」で提案するような取消規定を設けることには賛成するが、当該類型においては、「困惑」要件によって適用範囲が不当に狭くならないように逐条解説等で柔軟な解釈が示される必要がある。
 2 不当条項類型の追加について
 ⑴ 「事業者は、当該事業者との間で消費者契約を締結した消費者が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたときは、当該消費者契約を解除することができることを定めた条項は、無効とする」旨の規定を設けることに賛成し、例外を設けることの無いよう求める。
 ⑵ 「事業者に契約文言の排他的解釈権限を与える条項、及び事業者に権利義務の発生要件該当性やその内容の決定権限を一方的に委ねるような条項を無効とする」旨の規定を設けるべきである。
 ⑶ 「消費者契約法その他の法令の規定により無効とすべき消費者契約の条項について、無効となる範囲を限定する条項は、無効とする」旨の規定を設けるべきである。
 ⑷ 「事業者の軽過失による人身損害の賠償責任を一部免除する条項については、少なくとも消費者の生命侵害及び身体の重大な侵害が生じた場合のものについては無効とする」旨の規定を設けるべきである。
 3 「平均的な損害の額」の立証等に関する規律の在り方について
 ⑴ 「平均的な損害」の立証責任については、事業者が「平均的な損害の額」及びこれを「超えないこと」の立証責任を負担することを明文化すべきである。
 ⑵ 「平均的な損害」に原則として逸失利益は含まないことを明文化すべきである。
 4 条項使用者不利の原則について
   消費者契約につき、その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯その他の事情を考慮してもなおその意味を一義的に確定することができない場合には、条項使用者たる事業者にとって不利に解釈しなければならないとする規定を設けるべきである。
 5 不利益事実の不告知について
   不利益事実の不告知については、重過失がある場合に取消しを認めることには賛成であるが、さらに進めて、不実告知(4条1項)と同様に故意要件を削除すべきである。また、重要事項については、事業者が消費者に対し故意又は重過失により不利益事実を告げない場合も取消しを認めるべきである。
 6 困惑類型の追加について
   現行法の困惑類型(不退去、退去妨害)以外にも消費者を困惑させる不当勧誘行為があることを前提に不退去・退去妨害以外にも困惑類型を広げる方向で検討することに賛成する。
もっとも、新たに個別の困惑類型を追加するに止めるのではなく、消費者を困惑させた場合に広く取消しを認めるべきである。
 7 配慮義務について
   事業者が、消費者の年齢等に配慮する義務については、努力義務ではなく、法的義務として規定すべきである。
 8 約款の事前開示について
   約款による消費者契約については、約款の事前開示に関する規定を設けるべきである。事業者が、消費者に対して、契約締結時までに約款を明示的に提示することを原則とし、開示が困難な場合に例外を設けるべきである。例外要件は、「契約締結時までに、事業者は、相手方である消費者が、その約款を容易に知ることができる状態に置き、かつ、その約款を知るための方法を当該消費者に通知すること」を要するものとすべきである。
 9 事業者の消費者に対する債権についての消滅時効について
   消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権については、時効期間を3年とする規定を設けるべきである。

第2 意見の理由
 1 合理的な判断をすることができない状況を利用して契約を締結させる類型について
 ⑴ 既に超高齢社会にあるわが国の高齢化率は、さらに上昇し2060年には39.9%に達する見込みである(平成28年版高齢社会白書)。専門調査会設置の契機となった諮問(消制度第137号)においても、高齢化の進展による社会経済状況の変化への対応の観点が求められているが、高齢者の判断能力の低下等を利用した消費者被害を防ぐために、「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型」について、適切な取消規定を早急に設置する必要があることは明らかである。一方で、現在民法における成年年齢引下げの議論もなされているところ、現段階でこの引下げには反対であるが(当会2017年(平成29年)3月30日付「民法の成年年齢の引下げに関する意見書」参照)、将来的に引下げを行うのであれば若年成人の判断力不足を利用した消費者被害を防ぐためにも、本類型の取消規定の整備が必要である。
 ⑵ この点、消費者庁は、消費者の「困惑」を要件とする2類型を提案しているが(第40回専門調査会「資料1」)、本類型は必ずしも消費者が困惑する場合のみでないことから、これを要件としない規定、例えば「事業者が、消費者の合理的判断が困難な事情につけ込んで契約を締結させた場合には、当該契約を取り消しうる」というような一般的な取消規定を設ける必要がある。なお、合理的判断が困難な状況にある消費者においては、不当な勧誘状況を再現できない者も多いことから、契約内容が不合理である場合や、契約を締結する合理性が無い場合には、上記要件の存在が推定される旨の規定を設けることも検討すべきである。
 ⑶ 一方で、事業者が消費者を困惑させる類型の追加・拡張という観点からは上記消費者庁の提案については賛成できるが、改正提案4条3項4号関係については、いわゆる恋人商法のほか、勧誘員が高齢者と一定の人的関係を築いた上で商品を購入させるような被害類型が想定されるところ、これらの類型では人的関係を築いた相手方の期待に応えたいとの気持ちを利用して契約を締結させる場合もあるので、「困惑」要件によって適用範囲が不当に狭くならないように逐条解説等で柔軟な解釈が示される必要がある。また、さらに困惑類型について消費者を困惑させた場合に広く取消しを認めるべきであると考えるが、これは後記6で詳述する。
 2 不当条項類型の追加について
 ⑴ 消費者の後見等の開始を解除事由とする条項を無効とすることについて
   消費者の後見等の開始を解除事由とする条項については、第32回専門調査会における議論で指摘されたとおり、消費者が、それまで契約により得ていた便益を受けられなくなり、場合によっては生活基盤を失うという重大な不利益を被る危険性をはらんでいる。また、消費者に成年後見人等の法定代理人が選任されれば、契約を存続するかの判断は、成年後見人等が代理人として対処すれば足り、事業者に解除権・解約権を与える必要性はない。さらに、このような条項を有効とすると、障害者にも完全な法的能力を認めることを求めている障害者権利条約12条に反することは明らかである。また、契約を解除される危険を避けるために消費者が法定後見制度の利用に消極的になることは十分予想され、成年後見制度を推進しようとする政府方針に真っ向から対立することになりかねない(成年後見制度の利用の促進に関する法律1条及び3条参照)。加えて、被後見人等も社会生活上一定の範囲で単独で契約することも許されており、後見等が開始したことのみをもって事業者側に解除権・解約権を与えることは、障害者差別解消法の趣旨に反するおそれもある。
   よって、このような条項は、成年後見制度の趣旨に反し、不合理かつ消費者の利益を一方的に害するものであり、例外なく無効とすべきである。
 ⑵ 解釈権限付与条項・決定権限付与条項について
   契約は、当事者間の法律的な関係を規律するものである。そして、消費者契約法は、その相当性の担保を目的とする。しかし、このような相当性の担保は、契約文言自体の相当性に加え、その契約条項の解釈や適用判断が中立妥当な者によってなされることによって初めて成立しうる。
仮に、契約文言の解釈権限を消費者契約の当事者のうち事業者のみに付与することが許されると、事業者が契約内容を実質的に変更することが可能となり、契約内容が確定できないという不都合が生じる。また、裁判所による中立妥当な判断の担保がなくなり、消費者が当該条項により救済を受けることも出来なくなる。事業者にのみ解釈権限を与えれば、事業者が契約文言の解釈において自己に最大限有利に解釈する危険もあり、このような契約条項が不当であることは明らかである。
契約に基づく当事者の権利もしくは義務の発生要件該当性又はその内容についての決定権限を事業者にのみ与える契約条項についても、同様の弊害がある。
したがって、これらの契約条項については無効とする旨の規定を設けるべきである。
 ⑶ サルベージ条項について
   いわゆるサルベージ条項とは、本来であれば全部無効となるべき条項について、その効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の条項である。この条項は、事業者が強行法規に違反しない限度まで権利を拡張し、義務を免れ得ることを目的とするものである。
このような契約条項を有効とすると、事業者が消費者に対して、何が強行法規により無効となるのか示すよう迫ることにつながり、(法律による)許容範囲を判断し得ない消費者の権利行使に萎縮効果をもたらすものである。また、適正な契約条項を作成するという事業者の意欲を削ぐものである。
よって、サルベージ条項については、その弊害・危険性が顕著であり、消費者の利益を不当に害する契約条項として例外なく無効とすべきである。
 ⑷ 軽過失による人身損害の賠償責任を一部免除する条項について
   人の生命・身体という法益は、他の法益と比べて要保護性が高く、その処分すら不可能なものである。また、契約締結段階では、損害の発生及び内容が未確定であるにもかかわらず、消費者・事業者間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により、事業者の損害賠償責任免除条項を含む契約締結を余儀なくされる危険が大きい。
   よって、少なくとも、事業者の軽過失によって生命侵害又は身体の重大な侵害が生じた場合に損害賠償責任を免除する条項は明文をもって無効とすべきである。
重大でない身体傷害の場合についても、上記弊害は妥当し、ごく限られた例外的な場合を除き、事業者の損害賠償責任の免除を一部でも認めることは好ましくない。
 3 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について
 ⑴ 立証責任について
   消費者契約法9条1号の立法目的は、消費者契約の解除による違約金等を「平均的な損害」の範囲に限定することにあるが、判例(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)は、「平均的な損害」の立証責任については、消費者が「平均的な損害の額」及び違約金の額がこれを「超えること」の立証責任を負担すると判示している。しかし、通常消費者は、同損害を算定するために必要な資料を有しておらず、訴訟において事業者に対して資料の開示を要求しても、拒否されるか、結果的に開示されたとしても開示までに熾烈な主張の応酬がなされることもしばしば見受けられる。加えて、同号関連の訴訟実務上、文書提出命令等の証拠開示の手続が機能しているとはいえない。このような状況下において、消費者が「平均的な損害」を立証することは極めて困難である。消費者が資料不足のために立証に失敗すれば、違約金額は「平均的な損額」を超えるかどうか事実が不明であるにもかかわらず消費者が敗訴することになるが、これでは「立証責任」という手続の問題により上記立法目的が没却される結果となる。
   他方で、事業者とすれば、そもそも、「平均的な損害」を勘案した上で違約金等を設定でき、かつそうすべきなのである。しかも、消費者との紛争に際しては、違約金等設定の際に検討した資料を利用すればよいだけであるから、立証責任を負担することになったとしても、不都合はない。
したがって、事業者が「平均的な損害」に関する立証責任を負担することを明文化すべきである。
 ⑵ 逸失利益について
   「平均的な損害」に事業者の逸失利益が含まれるならば、消費者は、契約解除しても多額の損害賠償責任を負担することになる。そして、この場合、事業者の履行利益が大きいほど高率の違約金の請求が可能となるが、このような結論は過大な損害賠償請求の抑止という前記の立法目的に合致しない。事業者の逸失利益、とりわけ解除後に履行期が到来する役務等の履行利益については原則として平均的損害に含まれないことを明文化するべきである。
 4 条項使用者不利の原則について
 ⑴ 事業者は、消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮すべきであり(消費者契約法3条1項)、事業者に対して明確な条項を作成するインセンティブを与え、ひいては条項の解釈に関する事業者と消費者の間の紛争を未然に防止するために、条項使用者不利の原則を導入することが必要である。同原則は、その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯等の事情を踏まえ、合理的に解釈を行うことを否定するものではないことから、この点を条文に明示することに賛成する。
 ⑵ 改正民法における「定型約款」の概念は、「定型取引」、すなわち「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」における一方当事者により準備された条項の総体とされているが(改正民法548条の2第1項)、上記⑴の理由は消費者契約にも広く妥当することから、消費者契約一般に同原則を適用すべきである。少なくとも、不特定多数の消費者に対して使用される広義の約款には広く条項使用者不利の原則を適用すべきである。
 ⑶ 条項使用者不利の原則は、EU諸国に限らず(EU不公正取引条項指令5条第2文)、中国契約法41条後段、タイ不公正契約条項法4条2項、韓国約款規制法4条2項、台湾消費者保護法11条2項、モンゴル民法201条などアジア諸国でも広く法律で明文化されており、わが国においてもこの原則を法定すべきである。
 5 不利益事実の不告知について
 ⑴ 専門調査会「中間とりまとめ」においては、不利益事実の不告知が問題となった事例を分類すると、①利益となる旨の告知が具体的で不利益事実との関連性が強い場合と、②先行行為がないか具体性を欠き、不利益事実との関連性が弱いと考えられる場合に分けられるとされていた。
 ⑵ 上記①については、利益となる旨の事実だけを告知し、それと表裏一体をなしている不利益事実を告知しない場合であり、そのような場合には消費者はその不利益が存在しないと考えることが通常であることから、全体として不実告知と評価し得るべきものである。
したがって、消費者契約法4条1項1号の場合に主観的要件が要求されていないこととのバランス上も、故意・過失は不要とすべきである。
 ⑶ 他方、上記②の場合は、不利益事実が告げられなかったことで、消費者がそのような事実は存在しないとものと誤認して契約締結に至る場合で、上記①との間には行為の悪性の程度に高低がある。裁判例の中には具体的な先行行為を認定することなく故意を認定して不利益事実の不告知として取消しを認めたものもある。また、特定商取引法においても、先行行為がない場合であっても故意の不告知による取消しが認められているが、特に不都合は生じていないことから、現行法4条2項の先行行為要件は削除すべきである。
 ⑷ もっとも、不利益事実の不告知があった場合にいかなる場合であっても消費者に取消権を認めることになると、仮に事業者に落ち度がなかったとしても当該契約が取消されることになり、事業者の適正な経済活動に支障をきたすおそれがある。そこで、上記②の場合には、消費者に取消権を認める前提として、民法上の債務不履行同様、事業者の過失を要求すべきである。
この点、第39回専門調査委会における消費者庁提出資料では、現行法4条2項の主観的要件に重過失を付加するに止めているが、狭きに失する。
 6 困惑類型の追加について
   第35回専門調査会で消費者庁から提出された資料において、威迫等による勧誘に関して、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該事業者が、当該消費者に対して、当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に当該消費者契約における義務の全部又は一部の履行に相当する行為又は当該行為に関連する行為を実施したことの代償として契約の締結を迫ることにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」という趣旨の規定を設けることが提案され、第40回専門調査会でも検討されている。
 この提案は、現行法の困惑類型(不退去、退去妨害)以外にも消費者を困惑させる不当勧誘行為があることを前提に、新たな困惑類型を追加しようとするものであり、賛成である。
 しかし、不退去、退去妨害、そして今回提案のあった「代償として契約の締結を迫ることにより困惑した」場合以外にも、不当勧誘行為によって消費者が困惑する場合が存在する。たとえば、専門調査会でも指摘があったように、長時間にわたる執拗な(電話)勧誘、威迫的な言動での勧誘、不安感を煽る勧誘などである(いわゆる非身体拘束型困惑惹起勧誘行為)。
 上記のような事業者による不当勧誘行為は、消費者の契約に対する自己決定を奪うものにほかならず、かかる勧誘行為は正当化できない。このような不当勧誘行為に対する救済がなされなければ、誠実な事業活動を行う事業者にとっても不利益である。
 そこで、更に推し進めて、消費者を困惑させた場合に広く取消しを認めるべきである。
 具体的には、取消しに対する事業者の予測可能性を踏まえて、不退去、退去妨害、執拗、威迫を例示列挙しつつ、「次の各号に掲げるもののほか消費者に困惑を覚えさせる行為により消費者が困惑し、…意思表示をしたときはこれを取り消すことができる」とする旨の規定を設けるべきである。
 7 配慮義務について
  「事業者は、消費者契約を締結するに際しては、消費者の年齢、消費生活に関する知識及び経験並びに消費生活に応じて、適切な形で情報を提供するとともに、当該消費者の需要及び資力に適した商品及び役務の提供について、必要かつ合理的な配慮をするよう努めるものとする」(消費者委員会成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書)という提案がなされている。
   この提案は、①情報の提供について必要かつ合理的な配慮をする努力義務と、②商品及び役務の提供について必要かつ合理的な配慮をする努力義務を、それぞれ事業者に課そうというものである。しかし、事業者に対する義務は努力義務に止めるべきではなく、法的義務とすべきである。
   事業者に対し、上記①②について、必要かつ合理的な配慮を求めること自体については賛成である。
   すなわち、上記①については、事業者が消費者に対して適切な形で情報を提供することにより、消費者は契約締結のための判断材料を入手し、契約締結の必要性の有無を判断することができる。また、「消費者の年齢、消費生活に関する知識及び経験並びに消費生活に応じ」と要件立てされており、提供すべき情報に限定があり、事業者の事業活動を必要以上に制約するものでもない。
   また、上記②についても、消費者の需要及び資力に適した商品及び役務の提供をすることは、事業者としてはごく当然のことである。また、事業活動を必要以上に制約するものでないことは、上記①と同様である。
   現在の消費者契約は複雑かつ高度なものになり、消費者の努力のみでは適正化は困難であり、事業者の果たす役割は大きい。そのような事業者が果たすべき責任を曖昧にする形ばかりの努力義務ではなく、法的義務として規定し、消費者契約のさらなる適正化を目指すべきである。
 8 約款の事前開示について
 ⑴ 約款を使用した取引も、その法的拘束力の正当化根拠は契約当事者の合意(組入合意)である。それ故、約款に法的拘束力が認められるためには、原則として、約款使用者が相手方に約款を開示していることが必要と考えるべきである。
   特に消費者契約にあっては、当事者間の情報の質及び量の格差(消費者契約法1条)や、事業者が情報提供義務を負っていること(同3条1項)を踏まえれば、約款の事前開示の必要性は大きい。
 ⑵ 契約の性質上、約款使用者が契約締結時までに相手方に対し約款の内容を開示することが困難な場合もあり得るので、その場合には例外を認めるのが合理的である。例外要件としては、相手方たる消費者に必要以上の負担をかけるべきではないことから、「契約締結時までに、事業者は、相手方である消費者がその約款を容易に知ることができる状態に置き、かつ、その約款を知るための方法を当該消費者に通知すること」が必要であるとすべきである。
 9 事業者の消費者に対する債権についての消滅時効について
   改正民法において、契約債権の消滅時効は原則として、権利を行使することができることを知った時から5年となった。しかし、消費者に、日常取引における弁済・免除等の債務消滅についての証拠を保存しておくことを期待することは難しい。他方、事業者には時効の管理を期待することもできる。また、民法の一部を改正する法律案の可決に際し、衆参両議院では、職業別短期消滅時効の廃止に伴い、書面によらない契約により生じた少額債権に係る消滅時効について、改正法施行後の状況を勘案し、必要に応じ対応を検討すべき旨の付帯決議がなされている(各付帯決議2項)。また、更に参議院付帯決議では、消費者契約法その他消費者保護に関する法律について検討を加え、その結果に基づいて所用の措置を講ずべきこととされている(12項)。
  これらの点を踏まえると、消費者保護の観点から事業者の消費者に対する債権の消滅時効期間を3年とするのが相当である。
以上

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