消費者教育推進地域協議会の設置等を求める意見書

消費者教育推進地域協議会の設置等を求める意見書

2018年(平成30年)6月28日

大阪府知事    松 井 一 郎  殿
大阪府議会議長  岩 木   均  殿
大阪市長     吉 村 洋 文  殿
大阪市会議長   角 谷 庄 一  殿

  大阪弁護士会      
  会長 竹 岡 富美男


消費者教育推進地域協議会の設置等を求める意見書


第1 意見の趣旨
  1 大阪府においては、府内における消費者教育を総合的、体系的かつ効果的に推進するため、消費者教育推進地域協議会を組織するよう求める。
  2 大阪市においては、市内における消費者教育を総合的、体系的かつ効果的に推進するため、消費者教育の推進に関する施策についての計画を定めるとともに、消費者教育推進地域協議会を組織するよう求める。

第2 意見の理由
  1 消費者教育推進法と消費者教育推進計画・消費者教育推進地域協議会
  ⑴ 2012年(平成24年)8月22日に消費者教育の推進に関する法律(以下「消費者教育推進法」という。)が公布され、同年12月13日に施行された。
  同法は、「消費者教育が、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する消費者被害を防止するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようその自立を支援する上で重要であることに鑑み、消費者教育の機会が提供されることが消費者の権利であることを踏まえ、消費者教育に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の消費者教育の推進に関し必要な事項を定めることにより、消費者教育を総合的かつ一体的に推進し、もって国民の消費生活の安定及び向上に寄与することを目的とする」ものである(同法第1条)。
  ⑵ 消費者教育推進法では、地方公共団体は、消費生活センター、教育委員会その他の関係機関相互間の緊密な連携の下に、消費者教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有するとされ(同法第5条)、都道府県及び市町村に対して、その区域における消費者教育の推進に関する施策についての計画(都道府県消費者教育推進計画及び市町村消費者教育推進計画。以下「推進計画」という。)を定めるよう努めなければならないとし(同法第10条第1項及び同条第2項)、消費者、消費者団体、事業者、事業者団体、教育関係者、消費生活センターその他の当該都道府県、または市町村の関係機関等をもって構成する消費者教育推進地域協議会(以下「地域協議会」という。)を組織するよう努めなければならないとしている(同法第20条第1項)。
  ⑶ そして、同法第9条に基づいて定められた「消費者教育の推進に関する基本的な方針」(2013年(平成25年)6月28日閣議決定(2018年(平成30年)3月20日変更)。以下「基本方針」という。)が定められた。この基本方針においては、地方公共団体は、「国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の人口規模や構成などの社会的状況や、産業構造などの経済的状況に応じた施策を策定し実施する」ものとされ、そのために、「消費者一人一人に対して、あまねく消費者教育の機会を提供していくためには、住民に身近な行政を総合的に実施する地方公共団体において、地域特性に応じた手法や内容により消費者教育を行う」こと、及び、「多様な主体で構成する消費者教育推進地域協議会を活用し、地域の特性に応じた消費者教育推進計画の策定、消費者教育推進のための各種施策の実施により積極的に取り組む」ことが期待されている。その上で、市町村においては、「より住民に密着し地域の特性に合った内容や手法を用いることができることから、その充実により、消費者一人一人に対して隙間なく消費者教育の機会を提供すること」が、都道府県においては、「広域的な観点から、管内の市町村の取組を支援し、あるいは、市町村間での格差を埋めることにより、消費者に提供される消費者教育の水準を確保すること」が、それぞれ求められている(基本方針Ⅱ2(1))。
  さらに、基本方針は、「地域において、様々な機会を捉えて消費者教育を実施する環境を作るためには、多様な立場の担い手の協力が期待される」とし、「行政が中心になり、消費者団体や事業者・事業者団体等の自主性を尊重しつつ、活動を支援し、相互の連携と情報共有の仕組みを作ることが必要である」として、「消費者教育推進地域協議会を結節点として、地域の多様な主体間のネットワーク化を図り、連携・協働や、他の主体の活動を踏まえた効果的な教育の推進等を促進する」ものと位置付けている(基本方針Ⅱ2(3))。
  2 推進計画の策定・地域協議会の設置の状況
  ⑴ 推進計画の策定状況についてみると、消費者庁の公表資料によれば、都道府県では、2018年(平成30年)4月1日現在、47都道府県のすべてにおいて策定されている。この点、大阪府も、2015年(平成27年)3月26日「大阪府消費者基本計画」と題する推進計画を策定済みである。
  他方、20ある政令指定都市のうち18市は推進計画を策定しているのに対して、大阪市を含む2市だけが未だ策定していない。
  ⑵ 地域協議会の設置状況をみると、消費者庁の公表資料によれば、都道府県では、2018年(平成30年)4月1日現在、既に46の都道府県において策定されており、未だ策定されていないのは、唯一、大阪府だけである。
  また、政令指定都市のうち18市は地域協議会を設置しているのに対し、大阪市を含む2市だけが未だ設置してない。
  3 推進計画策定及び地域協議会設置の必要性
  ⑴ 推進計画を策定しないことは、消費者教育推進法によって課された努力義務に違背する点で問題となるのみならず、推進計画が策定されないままでは、消費者教育を総合的、体系的かつ効果的に推進することは困難であり、地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた消費者教育を十分に実施することは難しく、消費者一人一人に対してあまねく消費者教育の機会を提供していくことも期待できない。
  このような意味で、政令指定都市である大阪市において、推進計画が未だ策定されていないことは、看過しがたい重大な問題である。
  ⑵ 地域協議会を設置しないことも、消費者教育推進法によって課された努力義務に違背する点で問題となるのみならず、消費者教育の総合的、体系的かつ効果的な推進に関して地域協議会の構成員相互の情報の交換及び調整を行う機会も十分に確保されないことから(同法第20条第2項1号参照)、多様な関係者の「結節点」として、連携・協働等による効果的な教育の推進を行うことも期待できない。
  このような意味において、大阪府及び大阪市において、地域協議会が未だ組織されていないことは深刻な問題である。
  ⑶ さらに、本年6月13日には、成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律59号)が成立し、4年後の2022年4月1日に施行されることとなったが、参議院附帯決議において、「自立した消費者を育成するための教育の在り方を質量共に充実させる」観点からも消費者教育を充実させることが求められており、若年者に対する消費者教育の推進が、国・地方を問わず、喫緊の政策課題となっている。
  この点に鑑みても、大阪府において地域協議会を設置し、大阪市において推進計画を策定の上、地域協議会を設置することは不可欠かつ喫緊の課題である。
  4 先進的な取組の例
先進的な取組として参考となるべき地域協議会の設置例として、鳥取県と静岡県のものを指摘することができる。
  ⑴ 鳥取県の取組
鳥取県では、「鳥取県消費者教育推進地域協議会」が、鳥取県附属機関条例上の「知事の附属機関」として、鳥取県消費生活審議会とは別の機関として設置されている。地域協議会の運営要綱も策定されており、委員の構成は、消費者(公募委員)、消費者団体、事業者、事業者団体、教育関係者、関係機関(市の代表、相談機関を含む)、法律専門家等となっている。消費生活行政部門が事務局とされ、教育委員会等も関係課として出席し、年に2回から3回、地域協議会が開催されている。地域協議会では、取組状況検証、推進計画の策定・改正及び成果の検証、活動方針の策定などが行われ、教材作成及び活用に向けた会議が行われている。このような地域協議会の下、関係機関・団体との連携による「消費者大学」の実施、消費者教育を行う教職員の指導力向上のための支援、高齢者や障がいのある人を地域で支えるための見守りネットワークの構築などの先駆的な施策が推進されている。
  ⑵ 静岡県の取組
  静岡県では、消費者教育推進法上の地域協議会として、「ふじのくに消費者教育推進県域協議会」が設置され、年3回程度の頻度で会議が開催されている。構成員は、大学教授、社会福祉協議会、生活協同組合、弁護士会、司法書士会などである。また、静岡県を3つの区域に分けて、各区域に別途「連絡協議会」を設置し、この連絡協議会も県域協議会の構成員とされている。このような地域協議会の下、消費者教育ポータルサイト「なるほど!消費者教育」の運営、県民の消費(消費者市民社会を含む)に関する意識調査の実施、消費者教育関連イベント「消費者教育しずおか未来会議」「地産地消フェスティバル」等の開催、学校における消費者教育の充実に向けた取組などが行われている。
  ⑶ その他の取組
これらは、消費者保護審議会(消費生活審議会)とは別の機関として設置されている例であるが、この他、埼玉県では、消費生活審議会が地域協議会の役割を兼ねており、また、兵庫県では消費生活審議会の機能を担う「県民生活審議会」の部会(消費生活部会)が地域協議会の役割を担っており、消費生活審議会(消費者保護審議会)またはその部会が、地域協議会の役割を担うことも可能である。
  もっとも、消費生活審議会では、消費者政策に関する多数の事項が取り上げられることから、消費者教育に関わる多様な主体間の連携・協働に向けた情報交換や調整などの実質的な機会を確保することは難しいため、地域協議会は、消費生活審議会とは別の会議体として設置することが好ましい。消費者保護審議会に地域協議会を兼ねさせる場合には、少なくとも地域協議会の役割を担う「部会」を設置して、専門員を選任するなどの工夫が不可欠である。他方、地域協議会を消費者保護審議会と別の会議体として組織する場合には、消費者保護審議会との連携を確保するために兼任委員を確保するなどの工夫も必要である。
  5 結語
  以上のとおり、大阪府においては地域協議会の設置、大阪市においては推進計画の策定及び地域協議会の設置がそれぞれ急務である。
以上

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