刑事法廷内での手錠・腰縄使用問題国賠請求訴訟判決についての会長声明

刑事法廷内での手錠・腰縄使用問題国賠請求訴訟判決についての会長声明

 現在、刑事被告人となった者は、手錠・腰縄姿で公判廷に入出廷することを余儀なくされ、家族などの傍聴人をはじめ法廷内の人々にその姿を晒されている。このことは、被告人の個人の尊厳の保持、無罪推定の権利等からは、極めて問題であり(以下、「手錠・腰縄問題」という。)、2017年(平成29年)12月1日、近畿弁護士会連合会大会において、刑事法廷内における入退廷時に被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める決議を行うに至っている。
 京都地方裁判所は、2018年(平成30年)9月12日、この手錠・腰縄問題に関し自身の尊厳や無罪推定の権利を侵害されたとしてかつての被告人が国に賠償を求めた事件において、法廷警察権を行使する裁判長に広範な裁量を認め、逃亡のおそれ等を理由に法廷内で被告人に手錠・腰縄を施したことを適法として、請求を棄却した(以下、「本判決」という。)。
 しかし、手錠・腰縄問題は、身体不拘束が原則であるはずの刑事法廷内において、被告人が身体拘束をされていること、手錠・腰縄で拘束された姿を家族などの傍聴人に晒されていることという二点において人権保障上大きな問題を含んでいる。報道によれば、被告人となったのち無罪が確定した村木厚子元厚生労働事務次官は、拘置所の車両に乗って、初めて、手錠をかけられ腰縄をしめられたとき、「ああ、犯罪者のように扱われるんだな、この姿だけは家族に見せられないな。」と思ったという。この気持ちが、手錠・腰縄問題の本質である。このような問題意識から、当会では、法廷内手錠腰縄問題に関するプロジェクトチームを立ち上げてこの問題への取り組みを始め、また、上記の昨年12月1日の近畿弁護士会連合会大会で決議が採択されることとなった。
 上記問題点からすれば、本判決が、「被告人の状況等からみて明らかに逃走等のおそれがないような場合にまで、…手錠等を施しているのを容認することは、…違法とされる可能性がある。」として、いかなる場合でも手錠・腰縄姿が許されるわけではないことを明言したことは評価できるものの、結論的には、法廷警察権を行使する裁判長に広範な裁量を認めて請求を棄却したことは、遺憾と言わざるを得ない。
 当会としては、本判決を契機として、手錠・腰縄問題の改善に全会員をあげて更にまい進することとするが、裁判所及び拘置所をはじめとする関係諸機関におかれては、弁護士会・各弁護人とも協議の上、被告人の人格権・無罪推定の権利等に十分に配慮した措置を取られるよう切に求めるものである。

2018年(平成30年)9月28日
     大阪弁護士会      
      会長 竹 岡  富 美 男

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