全ての災害を対象とした義援金の差押えを禁止する法律の制定を求める意見書

全ての災害を対象とした義援金の差押えを禁止する法律の制定を求める意見書

2018年(平成30年)11月21日


内閣総理大臣  安 倍 晋 三  殿
法務大臣    山 下 貴 司  殿
厚生労働大臣  根 本   匠  殿
衆議院議長   大 島 理 森  殿
参議院議長   伊 達 忠 一  殿

  大阪弁護士会      
  会長 竹 岡 富美男


全ての災害を対象とした義援金の差押えを禁止する法律の制定を求める意見書


第1 意見の趣旨
 全ての災害を対象として、災害の被災者又はその遺族に対する義援金(都道府県又は市町村(特別区を含む。)が一定の配分の基準に従い交付するもの)の差押えを禁止する法律を制定するよう求める。

第2 意見の理由
 1 災害に対する義援金一般の差押えを禁止する法律の必要性
  平成30年6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震(以下「大阪府北部地震」という。)及び平成30年6月28日以降に西日本を中心に生じた豪雨(以下「平成30年7月豪雨」という。)により、甚大な被害が発生した。これらの地震及び豪雨の被災者又はその遺族(以下「被災者等」という。)の生活を支援し、被災者等を慰藉するために、全国から義援金が集められた。
  災害についての義援金が債権者によって差押えられてしまうと、被災者等の生活再建が妨げられることにもなりかねないし、また、被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉するという義援金の目的が達成されないことになってしまう。加えて、債権者が義援金から回収を行うという結果は義援金の拠出者側から見てもその趣旨に合致しないと考えるものであろう。そこで、義援金を被災者等が自ら使用することができるようにするために、平成30年7月20日、「平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」が成立し、大阪府北部地震及び平成30年7月豪雨の義援金について差押えが禁止されることになった。
  災害についての義援金の差押えを禁止する法律は、東日本大震災についての「東日本大震災関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」が平成23年8月23日に成立したのが最初である。その後、平成28年熊本地震について、平成28年5月27日に「平成二十八年熊本地震災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」が成立した。
  しかし、平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律を含めたこれらの法律は、東日本大震災、平成28年熊本地震、大阪府北部地震、平成30年7月豪雨といった個別の災害についての義援金のみを差押禁止にするものである。災害に対する義援金一般の差押えを禁止する法律はない。
  「義援金は被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉するために拠出されたものであるから、被災者等自らが義援金を使用できるようにする」という義援金の差押えを禁止する趣旨は、災害の大小を問わず当てはまる。
  また、被災者が既往債務について減免を受けることができる「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「自然災害債務整理ガイドライン」という。)」に基づく債務整理においても、被災した当該災害の義援金について差押禁止とする法律がない場合、被災者は、自然災害債務整理ガイドラインを利用しても、受領した義援金分について手元に残して自由に使うことができず、債権者に対して義援金分を弁済しなければならないことになりかねない。逆に、当該災害の義援金について差押禁止とする法律があれば、被災者は、自然災害債務整理ガイドラインを利用した場合、義援金分について手元に残して自由に使うことができ得るのである。
  日本では毎年のように災害が生じているのであり、平時から災害に備えておく必要がある。今までのように、大きな災害が生じるたびに慌てて義援金の差押えを禁止する個別法を制定するという事態は、今後は避けるべきである。平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律は第196回通常国会の閉会直前に成立したが、平成30年9月6日に生じた北海道胆振東部地震のように大きな災害が生じた時に国会が閉会していれば、義援金の差押禁止の法律を制定するには臨時国会召集などを待たねばならず、その間に、義援金が債権者によって差押えられるという事態を生じかねない。
  したがって、災害に対する義援金一般の差押えを禁止する法律を制定するべきである。

 2 対象となる災害は全ての災害とするべきである
  上述のとおり、「義援金は被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉するために拠出されたものであるから、被災者等自らが義援金を使用できるようにする」という義援金の差押えを禁止する趣旨は、災害の大小を問わず当てはまる。したがって、全ての災害に対する義援金を差押禁止の対象とするべきである。
  このように全ての災害に対する義援金を差押禁止の対象としても、差押禁止の対象となる義援金を、従前の義援金に係る差押禁止等に関する法律と同様に、「都道府県又は市町村が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭」と定めることにより、差押禁止の対象となる義援金の特定のためには十分であり、濫用のおそれもない。また、災害の定義としては、災害対策基本法と同様に、「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」(同法第1条第2号)と定めれば、「災害」の範囲の点でも特定としては十分である。
  差押禁止とする義援金の範囲に関し、一部の報道によると、与党内で、「災害救助法の適用を受けた災害」を対象とするという案も検討されているという。しかし、例えば、平成30年9月4日に日本に上陸し大阪府内にも大きな被害を及ぼした台風21号についても、義援金の募集がなされているが、災害救助法の適用対象にはなっていない。上記のように、義援金の差押えを禁止する趣旨は災害の大小を問わないのであり、「災害救助法の適用を受けた災害」では、差押禁止とする対象範囲が狭すぎるといえよう。
  以上より、全ての災害に対する義援金を差押禁止の対象とするべきである。
以上

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