2019年(令和元年)6月1日 可視化法(刑事訴訟法301条の2)の施行についての会長声明

2019年(令和元年)6月1日 可視化法(刑事訴訟法301条の2)の施行についての会長声明

 2019年(令和元年)6月1日、刑事訴訟法301条の2(以下「可視化法」という。)が施行された。可視化法施行に至る道程は、幾多の困難を伴いつつ、各方面の弛まぬ努力によって、歩まれてきた。志布志事件、氷見事件、足利事件などの多数のえん罪事件の発覚を経て、2010年、厚労省元局長事件の無罪判決、そして、これに伴う、検察不祥事(検察官による証拠改竄事件)の発覚を契機とし、「検察の在り方検討会議」での議論を経て、2011年に法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が設置された。可視化法は同特別部会において2014年まで3年余にわたって検討され、さらに国会の審議を経て、2016年5月24日、刑事訴訟法の一部改正として成立し、今日の施行を迎えたのである。
 我が国の刑事司法にあっては、適正手続のための監視が及ばない密室で、捜査機関による違法・不当な取調べが行われ、無実の者が虚偽の自白を強いられ、そして、多くのえん罪が生まれてきた。当会は、1990年代半ばから、このような虚偽自白とえん罪を生む違法・不当な密室取調べの根絶を目指し、全国に先駆けて取調べの可視化の実現に取り組んできた。これを刑事司法改革の最優先課題と捉えたのである。今般の可視化法の施行は、当会が長らくその必要性を訴えてきた取調べの可視化が実務運用のみならず、法律として結実し、ついに実効化のときを迎えたものである。この成果は、被疑者・被告人の人権を守り、えん罪を根絶するための新たな、歴史的一歩を踏み出したものと評価できる。
 今回の可視化法による取調べ全過程の録音・録画の義務化は、裁判員裁判対象事件及び検察庁の独自捜査事件に限定されており、その意味では、未だ道半ばではある。とはいえ、捜査機関が長らく抵抗してきた取調べ全過程の録音・録画が、重大事件につき法制化され施行に至ったのであり、これは我が国の刑事司法の歴史において、画期的な意義を有する。
 既に今般の可視化法施行に向けて、検察では、逮捕勾留下の取調べについては、おおむね対象事件如何を問わず、全過程を録音・録画することがスタンダードになりつつある。警察においては現状では対象事件のみの可視化となっているが、警察も、対象外事件に対する可視化を推進することが期待される。このような実務運用は、今後も当然拡大されなければならず、そのための弁護実践は極めて重要なものである。他方で、我々は、この施行に際し、可視化法の適正な運用が行われるよう、捜査機関を監視し、併せ、裁判所の動向を注視し、可視化をさらに推進させていかなければならない。
 我々は、捜査機関への不断の可視化申入れを通じて、義務化の対象事件であるか否か、被疑者が拘束されているか否かを問わず、まさしく全件について取調べ全過程の録音・録画を粘り強く求めていかなければならない。また、可視化法に規定された取調べ全過程の録音・録画の例外規定については、これが不当に拡大して適用されないように注視し、さらに、公判前整理手続及び公判の場でも、個々の弁護人が、適切な弁護活動を繰り広げて、正しい法解釈・適用を裁判所にさせなければならない。それらの弁護実践が、可視化法の3年後の見直しにおいても、可視化の対象をさらに広げ、これを全件・全過程に拡大することに繋がるのである。
 取調べの可視化は、違法・不当な取調べを抑制し、被疑者・被告人の防御権を実効化する。取調べ全過程を録音・録画することにより、捜査が適正になされたかどうかを事後的に全面的に検証することが可能となる。その意味において、捜査機関にとっても自らの公正さを示す手段として、可視化は有用というべきである。このような見地から、捜査機関においては、今回の可視化法で規定された範囲にとどまることなく、あらゆる事件において、そして、参考人取調べをも含めて、取調べ全過程の録画・録音に努めるべきである。
 当会は、今般の可視化法施行に当たり、今後とも、可視化を推進し、全件、全過程の取調べを録音・録画する制度・運用を確立すべく、引き続き取り組む決意である。
 併せて、当会は、可視化を踏まえて、さらに、取調べへの弁護人立会権の制度化を目指すべきときを迎えているものと捉えている。可視化を推進させるとともに、さらに弁護人立会権確立に向けての弁護実践が遂行されることによって、えん罪の温床となる密室取調べを完全に排除することも可能となろう。そのため、当会として、さらに力を尽くす所存である。

以上

2019年 (令和元年) 6月1日
       大阪弁護士会      
        会長 今川  忠

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