刑事法廷内での手錠・腰縄使用問題国賠請求訴訟判決(大阪地裁)についての会長声明

刑事法廷内での手錠・腰縄使用問題国賠請求訴訟判決(大阪地裁)についての会長声明

 現在、身体拘束を受けている被疑者・被告人は、手錠・腰縄を施されたままの姿で入退廷させられ、その姿を最も見られたくない家族や知人等の傍聴人をはじめ、裁判官を含めた法廷内の全ての人に晒されることを余儀なくされている(以下、この問題を「手錠・腰縄問題」という。)。このことは個人の尊厳の保持、無罪推定の権利等から極めて問題であり、2017年(平成29年)12月1日の近畿弁護士会連合会大会における決議など、刑事法廷内における入退廷時に被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める活動がなされてきた。
 2019年5月27日、大阪地方裁判所第3民事部は、手錠・腰縄問題に関し、自身の尊厳や無罪推定の権利を侵害されたとして元被告人らが国に損害賠償を求めた事件において、判決を言い渡した(以下「本判決」という。)。
 本判決は、結論では請求を棄却したものの、判断の理由において、「現在の社会一般の受け取り方を基準とした場合、手錠等を施された被告人の姿は、罪人、有罪であるとの印象を与えるおそれがないとはいえないものであって、手錠等を施されること自体、通常人の感覚として極めて不名誉なものと感じることは、十分に理解されるところである。また、上記のような手錠等についての社会一般の受け取り方を基準とした場合、手錠等を施された姿を公衆の前にさらされた者は、自尊心を著しく傷つけられ、耐え難い屈辱感と精神的苦痛を受けることになることも想像に難くない。これらのことに加えて確定判決を経ていない被告人は無罪の推定を受ける地位にあることにもかんがみると、個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値するものと解することが相当である。」として法廷内において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないという被告人の利益が法的保護に値することを認めた。
 また、本判決は、被告人から手錠等を施された姿を傍聴人らに見られないよう適切な措置を講じてほしい旨の要請があった場合には、その様な被告人の要望に配慮し、刑事施設と意見交換を行う等して、手錠等の解錠及び施錠のタイミングや場所に関する判断を行うのに必要な情報を収集し、その結果を踏まえて弁護人と協議を行う等して具体的な方法について検討し、具体的な手錠等の解錠及び施錠のタイミングや場所について判断し、刑務官に対して指示することが相当であったにもかかわらず、このような意見交換や、情報収集、弁護人との協議等何ら行なわないまま被告人らの申入れを却下した裁判官らの措置が、被告人の正当な利益に対する配慮を欠くものであったことを認めた。
 さらには、手錠等の使用の可否につき、逃亡又は自傷他害のおそれが具体的に存在する等の個別事情によって検討されなければならないことも明らかにした。これは、現在のように、被告人に対して、個別事情の検討もなく一律に手錠及び腰縄を施すことが認められないことを指摘するものである。
 本判決は、これまで看過されてきた手錠・腰縄姿を法廷で晒されないことを望む被告人の人格的利益を正面から認め、法的保護に値する利益を有しているとした点で画期的であり、また、被告人の申し入れに応じて、裁判所が刑事施設と協議し、情報を収集し、手錠等の具体的解錠・施錠の方法、場所を判断するプロセスを経なければならないことを明らかにした点においても、極めて有意な判決である。
本判決に至るまでには、多くの被告人の訴え、被告人の権利擁護のために奮闘した弁護人の活動、これらの活動を支えてきた関係者の地道な努力があったことも忘れてはならない。
 当会としては、この判決を契機として、裁判所及び拘置所をはじめとする関係諸機関に対して、各弁護人と協議の上、法廷内で手錠・腰縄姿を見られたくないという被告人の人格的利益に配慮した措置をとられるように強く求めるものである。

2019年 (令和元年) 6月4日
       大阪弁護士会      
        会長 今川  忠

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