クレジット過剰与信規制の大幅緩和に反対する会長声明

クレジット過剰与信規制の大幅緩和に反対する会長声明

1 経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は、2019年(令和元年)5月29日付けで「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」(以下「中間整理」という。)を公表した。中間整理は、以下のとおり、2008年(平成20年)の割賦販売法改正(以下「平成20年改正」という。)により導入された過剰与信規制を大幅に緩和する方向で検討すべきとの方向性を打ち出している(中間整理24頁図19参照)。
 ①「少額・低リスクのサービス」(10万円程度の極度額の範囲内のクレジットカード決済サービスを想定)について、購入履歴等のビッグデータやAIによる解析技術等を活用した与信審査(支払能力の判断。以下「データ等利用審査」という。)ができるクレジットカード会社には、平成20年改正により導入された支払可能見込額の調査義務・指定信用情報機関の信用情報使用義務・指定信用情報機関への信用情報登録義務などの画一的な過剰与信規制を廃止し、データ等利用審査をすれば足りるとすること。
 ②「少額・低リスク以外のサービス」について、データ等利用審査ができるクレジットカード会社には、指定信用情報機関への信用情報の登録義務は引き続き課すものの、支払可能見込額の調査義務や指定信用情報機関の信用情報使用義務などの過剰与信規制を廃止し、データ等利用審査を行えば足りるとすること。

2 この点、当会は、平成20年改正に先立つ2007年(平成19年)6月19日付け「割賦販売法の改正を求める意見書」において、クレジット取引における過剰与信問題が貸金業者による過剰融資と共に深刻な多重債務問題を生み出す直接の原因となっていること、2006年(平成18年)成立の改正貸金業法では、貸付限度額に上限を設ける総量規制とともに指定信用情報機関制度を創設しその利用を貸金業者に義務付けているところ、同じく多重債務の原因となる過剰なクレジット取引においても、同様の具体的規制が必要であることなど、過剰与信規制の必要性を訴えてきたところである。
 そして、上記改正貸金業法により導入されたいわゆる総量規制等の過剰融資規制及び平成20年改正により導入された過剰与信規制は、施行後、社会問題化していた多重債務者を大幅に減少させた。このような成果は、貸金業法及び割賦販売法の改正による過剰融資規制及び過剰与信規制によりようやく実現したものである。

3 中間整理で示された方向性は、平成20年改正により多重債務防止の観点から導入した過剰与信規制の重要部分を廃し、データ等利用審査をもってこれに代えるという、大幅な規制の緩和であるといえる。
 例えば、指定信用情報機関に対する「少額・低リスクのサービス」の信用情報登録義務を免除すれば、複数の「少額・低リスクのサービス」の利用が累積しても、その情報は他のクレジットカード会社の与信審査に反映できないことになり、多重債務を防止するために設けられた信用情報制度の趣旨を没却することになる。
 また、データ等利用審査については、それ自体、多重債務防止のための客観的合理性を有しているのかどうか必ずしも明らかでないし、そもそも各クレジットカード会社がビッグデータやAIなどを具体的にどのように活用しているのかを外部から検証することは困難であるため、各クレジットカード会社の大幅な裁量のもとで運用されるおそれがある。この点、中間整理は、延滞率(又は貸倒率)の適切な設定と定期的なレポートによる事後チェックにより適切な管理を担保すべきなどというが、このような事後チェックのみで、これまで大きな実績をあげてきた平成20年改正による過剰与信規制と同様の多重債務防止規制となっているのか、その疑義を払拭しきれない。
 さらに、データ等利用審査を行うことを要件として、信用情報使用義務を免除すれば、クレジットカード会社は、指定信用情報機関の保有する信用情報を調査することなく与信判断を行うことになり、既に他社の与信で多重債務状態に陥っている者であってもクレジットカードの利用が認められてしまうということになりかねず、平成20年改正の目指す多重債務防止が大きく後退することになる。

4 以上のように、割賦販売法の適用対象取引であるクレジット取引において、画期的な成果を生んだ平成20年改正の重要部分を廃止し、データ等利用審査をもってこれに代えるとする中間整理の方向性は、クレジット取引における多重債務防止のための過剰与信規制の趣旨を没却するものにほかならず、当会の前記意見書の趣旨にも反する内容であって、容認できない。
 よって、当会は、中間整理が提言するクレジット取引における過剰与信規制の大幅な緩和の方針に反対する。

以上

2019年 (令和元年) 8月7日
       大阪弁護士会      
        会長 今川  忠

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