死刑制度の廃止に関する決議

死刑制度の廃止に関する決議

1 当会は、政府及び国会に対し、
 (1)死刑制度を廃止すること
 (2)死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止すること
 を求める。
2 当会は、死刑制度廃止の実現に向けた取組を進める。

 以上のとおり決議する。

2019年 (令和元年) 12月9日
       大阪弁護士会  


                          
提 案 理 由


1 弁護士会の取組
(1)日弁連の取組
 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、2002年(平成14年)以降、複数回にわたり、死刑制度について宣言等を行い、2016年(平成28年)10月7日、第59回人権擁護大会(福井市)において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、「2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきである」とし、さらに、2019年(平成31年)1月18日、理事会にて「死刑制度を廃止するに際して、死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑として、仮釈放の可能性がない終身刑制度を導入するべきである。ただし、例外的に一定の時間の経過に加えて本人の更生が進んだときには、恩赦の適用とともに、主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用するべきである。そのために、刑の変更の可否を審理する制度設計や、無期刑に減刑するための要件について、更に検討すべきである」とする基本的方向性を確認し、同年10月15日、理事会にて「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を決議した。そして、日弁連は、各弁護士会及び弁護士会連合会に対し、死刑制度廃止に向けた活動を積極的に展開すること、その成果として死刑制度廃止を求める宣言をすること等を要請している。
(2)当会の取組
 当会は、2003年(平成15年)9月12日の死刑執行以降、すべての執行について会長声明を発出し、死刑執行に対して抗議するとともに、政府に対し、死刑執行の停止や死刑制度に関する情報公開、死刑制度の抜本的な見直し等を求めてきた。そして、2012年(平成24年)7月には死刑廃止検討プロジェクトチーム(以下「PT」という。)を設置したほか、これまで各種シンポジウム、研修、勉強会等を多数開催するなど、死刑制度に関するさまざまな問題を取り上げ、あるべき刑罰や司法制度等について検討を重ねてきた。
 そして、当会は、2018年(平成30年)3月27日に開催された常議員会において、死刑制度廃止に向けた取組として、次のとおり決議した。
  ① 死刑制度廃止の実現に向けた取組を進めること
  ② 「死刑廃止と終身刑の導入を求める意見書(案)」をふまえ、終身刑及びその死刑制度廃止前の導入についての会内における議論・合意形成をさらに進めること
 この常議員会決議を受け、当会では、PTが中心となって、死刑問題や終身刑の導入、これらに関連する問題について、勉強会や討論会、シンポジウム、DVD鑑賞会等を開催し、会内議論を活性化させ、合意形成に向けて取り組んできた。
2 我が国の死刑制度に関する現状
(1)現行の死刑制度と運用状況
 死刑は、人の生命を剥奪する刑罰であり、刑事施設内の刑場において、「絞首して」執行するとされている。
 実務上、死刑の適否が問題となるのは、殺人及び強盗殺人に限られる。殺人(未遂、予備を含む)及び強盗殺人(致死を含む)の検挙人員の合計数は、2000年(平成12年)から2004年(平成16年)ころをピークとして長期的な減少傾向が見られ、近時は1000人を下回り、2017年(平成29年)は、905人であった。
 一方、第一審で死刑判決を受けた者の数は、1999年(平成11年)までは、おおむね一桁台であったが、2000年(平成12年)から2007年(平成19年)までは、各年10名を超える者に対して死刑判決が言い渡された。しかし、その後、再び、おおむね一桁台に戻っている。
 そして、死刑執行数についてみると、1990年(平成2年)からの3年間は、死刑の執行がなされなかったが、1993年(平成5年)に執行が再開された。その後、おおむね一桁台の執行が継続されたが、2008年(平成20年)には15人が執行されている。近時の執行数は再び一桁台となったが、2018年(平成30年)には15人が執行された。
 2019年(令和元年)8月2日には死刑確定者2名の死刑が執行されており、そのうち少なくとも1名は再審請求中であったことが明らかとなっている。
(2)憲法と死刑制度との関係
 死刑を合憲としたリーディングケースとされる1948年(昭和23年)3月12日最高裁大法廷判決(刑集第2巻3号191頁)は、「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い」と指摘したが、死刑は残虐な刑罰(憲法36条)に当たらない等と判示した。なお、同判決には、「憲法は、・・・死刑を永久に是認したものとは考えられない」とする4人の裁判官の補充意見が付されている。
 しかし、同判決が出された1948年(昭和23年)には、第一審で死刑判決がなされた数が戦後最多の116件、死刑判決確定数が41件、死刑が執行された数は33人にも及んだ。これに対して、2017年(平成29年)の死刑判決確定数は2人、死刑が執行された数は4人であり、当時と現在とでは、社会状況や治安状況が大きく異なる。また、同判決が出された当時、世界の死刑廃止国は、8か国程度であったのに対し、後記(3)のとおり、現在、死刑廃止国は世界の3分の2を超えている。
 上記判決から70年以上が経過し、今日、世界の情勢や我が国の社会状況は大きく変化している。そもそも体の一部を切り落とす刑罰(身体刑)が残虐であることは異論を見ないのであって、何故、最大の身体刑である生命を奪う死刑が残虐ではないのか改めて考える必要がある。さらに、我が国では、一貫して絞首刑が唯一の執行方法と定められているが、イギリスでは既に19世紀末に絞首刑が残虐であるとされ、やがて死刑そのものが廃止された。アメリカ合衆国でもほぼ同時期に絞首刑が残虐であると判断され、ほとんどの州で、より残虐でないと考えられた電気殺等の方法に変更された。その電気殺ですら、その後アメリカ合衆国では残虐であるとされるようになった。我が国でも、絞首刑が合憲であると判断した最高裁昭和30年4月6日判決の基礎となったと思われる「絞首刑では瞬時に意識を失うから残虐でない」とする説明が、医学的にみて誤りであることが近時明らかにされている。
(3)国際社会の動向
 アムネスティ・インターナショナルの調査によると、2018年(平成30年)12月末時点で法律上または事実上死刑を廃止している国は142か国に上っており(世界全体の3分の2以上)、実際に同年に死刑を執行した国は20か国にすぎない。死刑廃止は国際的な潮流であり、日本は数少ない存置国の一つである。
 2018年(平成30年)12月17日、国連総会は、死刑廃止を視野に入れた死刑執行停止を求める決議案を賛成121か国、反対35か国(日本を含む)、棄権32か国の圧倒的多数決で採択した。国連の決議は今回で7度目であり、支持国は着実に増えている。さらに、日本は、国連の自由権規約委員会の最終見解(1993年、1998年、2008年、2014年)及び拷問禁止委員会の最終見解(2007年、2013年)や人権理事会によるUPR(普遍的・定期的レビュー)(2008年、2012年、2017年)において、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきである等との勧告を受け続けており、国際的に孤立しつつある。
(4)犯罪抑止力に関する研究状況
 政府が2014年(平成26年)11月に実施した世論調査(20歳以上の人3000人対象)の結果を見ると、一般には、死刑には凶悪犯罪に対する抑止力があると考えられているようである。この点、死刑制度に他の刑罰に比べて凶悪犯罪に対する抑止効果が認められるか否かが長い間論争されてきた。しかし、かかる死刑の犯罪抑止力を疑問の余地なく実証した研究はなく、科学的、統計的に証明することは困難であると言われている一方、死刑の犯罪抑止力に疑問を示す研究もある。むしろ、最近では無差別殺傷事犯に関して死刑制度の存在に一定程度、犯罪を誘発する効果があるという研究もなされている。
(5)死刑存廃に関する世論の状況
 これまで、政府は、政府が行った世論調査の結果をひとつの根拠として死刑制度を存続させてきたといえる。しかし、直近の2014年(平成26年)11月に実施された世論調査においても、死刑の存廃に関する質問や選択肢の表現内容を見ると、「死刑は廃止すべきである」、「死刑もやむを得ない」という二つの選択肢での質問は、決して中立的なものとはいえず、必然的に死刑存置派の回答者の割合が高くなってしまうことが指摘できる(日弁連の「死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書」2018年(平成30年)6月14日等)。さらに、国民が死刑の是非を適切に判断するための情報が十分に提供されているとはいいがたい。
 そもそも死刑は、人の生命を剥奪する刑罰であり、死刑制度を維持するかどうかは、人権にかかわる問題であることから、死刑の存廃を単純な多数決によって決めるべきではないと指摘されている。死刑廃止に賛成する人が多数を占めるという状況でなくても、イギリスやフランスでは政治的なリーダーシップによって死刑廃止が実現されている。また、アメリカ合衆国では、死刑存置州であってもカリフォルニア州のように州知事が死刑の執行停止を宣言している場合がある。
(6)被害者(遺族)感情を巡る議論状況
 とりわけ重大な事件について、愛する者を失った被害者・遺族の処罰感情は峻烈なものとなり、加害者に対し、死をもって償ってほしいと望むことがある。
 しかし、被害者・遺族の中には加害者の死刑を望まない者もいるし、また、時間の経過とともにその心情が変化する場合もあり、必ずしも被害者・遺族の感情は一様ではない。量刑上、被害者・遺族の感情が考慮されることがあっても、峻烈な処罰感情だけで死刑が選択されるわけではなく、我が国で発生する重大事件のほとんどについては実際に死刑が適用されていない。
3 死刑制度を廃止すべき理由
 基本的人権の尊重及び社会正義の実現の観点から死刑制度をすみやかに廃止すべきである。
(1)基本的人権の尊重(生命に対する権利の保障)
 欧州連合(EU)は、「いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である」ため死刑を支持できないとしている。基本的人権は、人間の尊厳に由来するものであり、生命に対する権利(「生きる権利」)も人間が生まれながらにして享有する基本的人権である(自由権規約6条1項「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する」)。死刑制度は、国家が不可侵であるべき個人の生命を奪うものであり、許されない。
 この点、懲役刑や罰金では犯人の自由権、財産権が奪われるのに対して、凶悪な事件を起こし他者を殺害した者の「生きる権利」だけは不可侵とする理由はないという批判がある。しかしながら、生命刑である死刑は、人を拘禁してその自由を奪うことを内容とする自由刑(懲役、禁錮、拘留)や、財産的利益の剥奪を内容とする財産刑(罰金、科料、没収)とは本質的に異なっている。
 生命に対する権利は、他のすべての人権の出発点となる基本的人権の核である。すなわち、生命に対する権利が保障されなければ、すべての権利の保障が無意味となってしまう。国家権力によって多くの生命が奪われてきたという人類の歴史に鑑みれば、すべての個人の生命に対する権利が保障される必要があり、基本的人権の尊重の観点から死刑制度は廃止されなければならない。
(2)社会正義の実現(誤判・えん罪のおそれ)
 誤判・えん罪のおそれがあることから、死刑制度は廃止されなければならない。人が人を裁く以上、間違いが起こる可能性があり、国家により誤って人の生命が剥奪されることは決して許されないからである。
 この点、現行犯で逮捕された被告人に関しては誤判・えん罪の可能性はないという指摘がある。しかしながら、犯人性にかかわる誤判だけでなく、責任能力に関する誤判や量刑に関する誤判もある。
 さらに、誤判・えん罪は刑事裁判一般に関わる問題であって、死刑制度に特有の問題ではないとの指摘もある。すなわち誤判・えん罪の可能性は、死刑事件に特有なものではなく、むしろ適正手続を徹底することにより回避すべきであり、誤判・えん罪の可能性を理由に死刑制度を廃止するという議論は誤りであるとの反論である。しかしながら、死刑は生命そのものを剥奪する刑罰であり、生命を剥奪されない自由刑等の刑罰とは本質的に異なる以上、死刑と他の刑罰とは区別して論じなければならない。また、如何に適正手続を徹底したとしても、裁判は、究極的には人が行うものであり、犯人ではない者を誤って有罪と認定して処罰してしまう可能性は否定できない。死刑を執行した場合には、誤判による被害の回復が不可能となってしまう。
 1980年代に、死刑が確定していた事件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について相次いで再審無罪判決が出されたことにより、上記懸念は具体化されている。これらは、戦後の混乱期に起きたものであり、慎重な手続が行われている現在では問題ないとする意見もある。しかしながら、現在に至るまで捜査機関による自白強要や証拠の隠蔽等により、多くの誤判・えん罪が繰り返されてきた。近年では、死刑確定事件ではないが、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件等で再審無罪判決が言い渡されている。無期懲役刑がいったん確定していた足利事件では、有罪の根拠とされたDNA型鑑定の結果が覆され、再審無罪判決が確定した。また、再審事件ではないが、厚生労働省元局長が被告人とされた郵便法違反事件では、検察官が証拠を偽造し、組織がそれを隠蔽するということが現にあった。人が人を裁く以上、必ず間違いが起こる可能性は残るのであり、また、国家権力は濫用されるおそれがある。再審無罪判決が言い渡されたえん罪事件と同じ過ちが死刑求刑事件で起きないとは言い切れない。無辜の人が国家によって命を奪われる事態を決して生じさせてはならない。
 必罰主義ではなく無辜の不処罰こそが真の意味での社会正義の実現である。
(3)小括
 以上のとおり、当会は、基本的人権の尊重及び社会正義の実現の観点から死刑制度をすみやかに廃止すべきと考える。
4 死刑執行の停止
 死刑制度はすみやかに廃止されるべきものと考えるが、現状では死刑存廃について全社会的な議論が活発に行われているという状況には至っていないし、死刑制度を堅持しようとする政府のかたくなな態度や、死刑制度に関する世論調査の結果等に加え、実際に死刑制度を廃止するには関係法令の改正手続が必要となることからすれば、残念ながら早期に死刑制度が廃止されるとは見込まれない。しかし、その間においても、死刑判決が言い渡され、死刑確定者に対する死刑の執行が行われるのであり、誤判・えん罪による執行のリスクは拭い去れない。これは生命の尊厳に対する著しい人権侵害であり、正義の観点からもおよそ許容できない。よって、直ちに死刑の執行を停止するべきである。
5 犯罪被害者支援との関係
 すべての犯罪被害者やその遺族を総合的に支援することは、死刑制度の存廃の問題とは別個に当会が取り組むべき重要な課題である。
 当然ながら、失われた被害者の命は、かけがえのないものであり、すべての被害者・遺族は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けられなければならない。
 これらの支援は、当会を含めた社会全体の重要な責務である。我が国の状況は、先進諸国に比べると、被害者・遺族に対する精神的、経済的、社会的支援がいまだ不十分というほかなく、多面的に早急な充実を図る必要がある。
6 代替刑としての終身刑の検討
 我が国で死刑の次に重い刑は無期刑であるが、死刑が人の生命を奪う刑罰であるのに対し、無期刑は、法律上、10年を経過すれば仮釈放を許される場合があり、死刑と無期刑との間には、刑罰の性質、内容において著しい格差があることや、国民感情に照らしても、死刑に代わる最高刑を新たに導入すべきであるとの議論がある。
 この点、日弁連は、前記のとおり、死刑の代替刑として「仮釈放の可能性がない終身刑」を導入するべきであるとしたうえで、「ただし、例外的に一定の時間の経過に加えて本人の更生が進んだときには、恩赦の適用とともに、主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用するべきである。そのために、刑の変更の可否を審理する制度設計や、無期刑に減刑するための要件について、更に検討すべきである」と述べ、現在検討中である。
 一方、PTは、これまで、死刑制度を廃止する前に、死刑と無期刑の中間刑として「仮釈放のない終身刑」を導入することを検討してきた。終局的には死刑制度の廃止を目指すとしても、廃止前に終身刑を導入すれば、死刑判決を減少させる効果が期待できること、死刑に対して消極的・抑制的な姿勢を醸成し、世論の変化をもたらし、死刑廃止の早期実現につながると考えられること(現にアメリカ合衆国では、近時死刑が廃止された州のほとんどにおいて、廃止に至る前に終身刑が導入されていたという経緯がある)等から、死刑制度廃止前の終身刑の導入を検討してきたものである。
 終身刑に関しては、その導入時期、処遇内容及び刑の変更の可否等、様々な議論があることから、死刑制度廃止の実現に向けた検討課題として今後継続して取り組むべきと考える。
7 結論
 無差別殺人など凶悪かつ理不尽な殺人事件が発生する度に、多くの人が「死刑は必要だ。このような凶悪な犯罪者を生かすことは許されない。死を以って償わせるべきだ」と考えるのは自然な感情である。当会会員の中にも、特に被害者・遺族の気持ちを考慮し、死刑制度の廃止を目指すことへの反対はある。
 しかしながら、死刑制度は、基本的人権を保障すべき国が、人の生命を奪うという極めて重大な問題を含むものであり、かつ、誤判・えん罪により無辜の人が国によって命を奪われるおそれのある刑罰である。死刑制度の廃止は、基本的人権の尊重と社会正義の実現の問題である以上、弁護士会としてメッセージを発する必要がある。
 よって、当会は、政府及び国会に対し、死刑制度を廃止すること、死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止することをそれぞれ求めるとともに、死刑制度廃止の実現に向けた取組を進める決意をここに宣明するものである。
以上



                        
2019年12月9日臨時総会決議
(賛成1173票、反対122票、保留・棄権30票)

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