外国籍会員の調停委員任命を求める会長声明

外国籍会員の調停委員任命を求める会長声明

 大阪家庭裁判所は、当会が同裁判所の依頼に基づき、2019年(令和元年)10月7日に韓国籍の会員弁護士1名を家事調停委員に推薦したにもかかわらず、同会員を最高裁判所に任命上申しなかった。
 当会は、上記を含め過去10回にわたり、大阪家庭裁判所の依頼に基づき外国籍会員を家事調停委員に推薦してきたが、同裁判所がことごとく任命上申しなかったことは、極めて遺憾である。
 拒絶の理由は、家事調停といえども公権力の行使であり、国家意思の形成に関与することから、調停委員には日本国籍を有する者を任命することが相当であるというものである。
 しかし、そもそも民事調停委員及び家事調停委員規則(最高裁判所規則)第1条は、日本国籍を有することを任命の要件としておらず、同規則第2条に定める欠格事由にも、外国籍は挙げられていない。また、同規則第1条により「弁護士となる資格を有する者」を一つの対象として選考することになっているところ、弁護士資格に国籍条項はなく、司法修習生の採用選考要項からも国籍要件は撤廃されている。過去には日本国籍を有しない当会会員を調停委員として任命した例もある。
 家事調停制度は、家事紛争を当事者の互譲と合意に基づき解決する制度であり、家事調停委員の役割は、当事者の互譲を支援し、当事者の合意に基づく紛争解決を支援することにある。こうした強制力のない職務内容に鑑みれば、家事調停委員は公権力を行使するものではなく、また国家意思の形成に関与するものでもないから、外国籍調停委員を排除すべき理由はない。
 加えて、在留外国人数が増加の一途を辿り、親から外国の文化を継承する日本国民の増加も見込まれる状況において、外国籍を有する家事調停委員がその解決を支援することは有意義であり、多民族・多文化共生社会の形成の視点や司法サービスの充実の観点からも、国籍にかかわらず多様な知識経験を有する家事調停委員を任命する必要性は増している。
 このような家事調停委員の職務内容及び外国籍家事調停委員任命の意義を考慮すれば、日本国籍を有しないことを理由として調停委員としての任命上申を行わないことは、国籍を理由とする不合理な差別というべきであり、憲法第14条、自由権規約第26条及び人種差別撤廃条約第5条の平等原則に反するものといわざるを得ない。
 2018年(平成30年)8月30日、国連の人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約の実施状況に関する第10回・第11回日本政府報告に対する総括所見を発表した。その45項目に及ぶ懸念及び勧告事項の中で、在日コリアンに関する項目の第22項では、公権力の行使または公の意思形成の参画にたずさわる国家公務員に就任できるよう確保することを勧告している。
 この勧告は、公権力の行使等に携わる国家公務員についてさえ外国籍を有する在日コリアンが就任することを求めているのであるから、公権力の行使等にあたらない調停委員に外国籍を有する者を採用することは、勧告の趣旨に合致する。
 よって、当会は、最高裁判所及び大阪家庭裁判所に対して、当会の推薦する外国籍会員を調停委員に任命されるよう強く求めるものである。

2020年 (令和2年) 1月24日
       大阪弁護士会      
        会長 今川  忠

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