少年法適用年齢問題にかかる法制審議会少年法・刑事法部会の取りまとめに反対する会長声明

少年法適用年齢問題にかかる法制審議会少年法・刑事法部会の取りまとめに反対する会長声明

 法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「部会」という。)では、少年法の適用年齢引下げ等について議論されてきたところ、令和2年9月9日に開かれた第29回会議において、取りまとめが採択された。
 取りまとめにおいては、18歳及び19歳の者の事件について、全件を家庭裁判所に送致してその調査及び審判を経て処分が決定される仕組みを維持することとされた一方で、18歳及び19歳は「刑事司法制度において18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取扱いをすべき」とされ、具体的には、①家庭裁判所は「死刑又は無期若しくは短期1年以上」の刑に当たる罪の事件については原則的に検察官送致決定をする、②家庭裁判所での処分は、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないものとする、③18歳及び19歳のぐ犯少年を対象からはずすこととする、④18歳及び19歳のときに罪を犯した者が検察官送致後、起訴された場合は、少年法の定める不定期刑の制度を廃するほか、推知報道制限の対象外とする等の法整備をなすものとされた。
 18歳及び19歳の者の事件について、全件を家庭裁判所の調査及び審判に付す仕組みが維持される方針が示されたことについては、当会としても、積極的に評価する。また、この間、適用年齢引下げ反対の意思表示を行った関係者、専門家及び各種団体に対して、敬意を表するものである。
 しかしながら、18歳及び19歳の者に対し、かかる枠組みを維持することとしたものの、少年法を適用する旨を明示しなかったこと、そして18歳及び19歳の者の事件について前述の①ないし④の制度改正がなされることは、以下に述べるとおり、少年法の意義を大きく後退させ、年長少年の更生を困難にするものであり、当会は反対する。
 そもそも、18歳及び19歳の少年によるものも含め、近年、少年事件は減少の一途をたどっており、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役又は禁錮に当たる法定刑の事件も増加しているわけではない。また、少年の改善更生や再犯防止の観点において、刑務所に収容して処遇を行うほうが少年院等で処遇を行うことよりも効果的であるという実証的な根拠はなく、むしろ少年院での処遇の方が効果的であるとの論述が相次いでいる。このような実情からして、18歳及び19歳の少年の事件について、あえて、少年法の規定の一部を適用せずに刑罰の対象とする範囲を拡大する法改正を行うことを基礎づける立法事実はなく、むしろ、次のとおり、非常に問題が大きい。
 前記①は、原則として検察官送致とされる範囲を、現行少年法の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」という定めから短期1年以上の刑の犯罪に拡大するという改正提案である。拡大しようとする犯罪は、犯行に至った経緯、犯行の動機、態様及び結果等もさまざまであるのに、「原則」が文字通りに実行されることになれば、家庭裁判所での審理や調査が形骸化して、20歳以上の者の事件であれば起訴猶予となるであろう事件までも検察官に逆送されるおそれすらある。この場合、訴追を相当としない新たな情状が発見されるなどしない限り起訴が強制されるから、20歳以上の者との処分の不均衡が生じるおそれがある。また、要保護性の高い18歳及び19歳の者が、少年法に基づく保護処分に付されることもなく、執行猶予判決により、適切な指導、処遇もされないまま社会に戻るという事態も生じる。その結果、本人の改善更生の機会が失われるだけでなく、執行猶予の判決の感銘力が保護処分を上回る効果を持つということはできないから、再犯防止の関連からも逆効果となる可能性がある。
 前記②は、18歳及び19歳に対する家庭裁判所での処分につき、犯情の軽重に照らしてその「上限」を設けようとする内容である。しかし、現行法のもとでは、事件結果自体は比較的軽微であっても、少年の性格、行状及び環境等を調査して要保護性が高いことが判明した場合には、少年院への収容による矯正教育の対象とされる事案が少なくない。このような年長少年に対する矯正処遇の実情及び特殊性が無視されている。
 前記③の改正がなされると、例えば、反社会的集団に関わる等して深夜徘徊を繰り返している少年や、家出をして暴走族関係者やシンナー仲間との交遊を続けている少年等罪を犯すおそれがあり、福祉等の支援では限界のある少年へのセイフティネットが失われることとなる。
 前記④のうち、検察官送致後の刑事事件において18歳及び19歳の者に対し不定期刑を科すことができなくなる点は、不定期刑の制度は少年の人格が発展途上で可塑性に富み教育による改善更生が期待されることから処遇に弾力性を持たせるものであるところ、その趣旨は18、19歳の者にも十分妥当するものであるから、これを適用できなくすることは不当である。
 また、検察官起訴後の推知報道の解禁については、本人の実名等が広く知られることにより、本人や家族に過剰な批判がなされてその生活に多大な支障が生じる可能性が高い。特に今日においては、インターネット上の実名等が含まれた報道内容や書込みは半永久的に残るという問題があり、推知報道が当人の立ち直りに与える悪影響は、計り知れない。18歳及び19歳の者が類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在であることは、取りまとめ自身が前提としているところであり、プライバシー保護の必要性は大きい。
 以上のとおりであるから、当会は、部会において採択された取りまとめに対し、強く反対する。

以上

2020年 (令和2年)9月30日
       大阪弁護士会      
        会長 川下  清

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