女性蔑視発言に抗議し、男女共同参画社会ひいては多様性を尊重する社会への推進を求める会長声明

女性蔑視発言に抗議し、男女共同参画社会ひいては多様性を尊重する社会への推進を求める会長声明

 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の会長(当時)が、2021年2月3日開催された公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の臨時評議会において、女性理事の目標割合(40%以上)の達成に関連して、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。」、「(組織委員会の女性委員は)みんなわきまえておられる。」等と発言した。
 前記発言は、女性理事を目標割合の達成に関して40分にもわたったと言われる長広舌の中において、女性に対する露骨な偏見を挙げて、女性理事割合を上げることに反対したものとみられるうえ、自らが「わきまえ」がないと評価する発言を萎縮させようとするものである。これは、性別による差別を禁止する日本国憲法14条1項、日本が批准する女性差別撤廃条約、ジェンダー平等の実現を目標の一つとする国連持続可能な開発目標(SDGs)等の各理念、さらには、オリンピック憲章の性別による差別の禁止規定にも違反する。
 多くの批判がなされたにもかかわらず、JOCも組織委員会も、発言の問題点を明らかにすることなく会長を擁護し、続投を支持する対応を見せた。そのようなことでは、多様性と協調を基本コンセプトとする大会の開催が可能であるとは考えられない。
 このような対応に対し、IOCから前記発言は「完全に不適切」と批判されたのをはじめ、国内外からの批判が厳しさを強める中で、組織委員会は、不透明な手続ではあったが、女性を会長に迎えて動き出すこととなった。
新会長の下で、組織委員会は、14名の女性理事を新たに選任して40%の女性理事割合を達成し、「ジェンダー平等推進チーム」を立ち上げるなど、組織運営の改善に取り組んでいる。
 女性理事の割合がクリティカル・マスと言われる30%を超えて40%となり、「わきまえておられる」と侮られた従前の女性理事も活発な発言をするようになれば、同理事会のあり方が変化し、透明性の高い組織運営がなされることが期待される。
 しかし、この事件を、一個人、一組織の問題に終わらせてはならない。
前記発言は、日本社会において、重要な意思決定は男性の役割であって女性は口を挟むべきでないといった根強い性別による役割分担、差別意識がなお残存していることの表れであって、このような意識が指導的地位への女性の参画、ひいては女性の活躍を妨げている。
 前記発言とそれに対するJOC及び組織委員会に対する国内外からの厳しい批判とその後の一連の経過は、このような性別による差別が許されないことを社会全体が認識し、理解する好機とすることができる。
 男女共同参画社会の推進を阻んできた性差別意識や性別に基づく固定的な役割分担意識、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)は人々の意識の中に長い時間をかけて形作られてきたものであるから、これを解消することは容易ではないように思われる。しかし、ジェンダーギャップ指数が121位にランキングされているように、我々がたじろいでいる間に、世界は大きく変貌し、日本社会は取り残されているというのが現状である。国外からの強い批判は、内外の意識のギャップの表れであろう。
 今回の出来事を機に、日頃からひとりひとりが自らのこととして性別に対する固定観念や性差別意識の解消に向けた取組みを進め、性差別意識と決別するべきである。
 そして、あらゆる人が、性別による差別なく、指導的な地位へ参画し、自由に意見を表明し、議論を尽くして社会の諸制度を作り上げていく社会の実現に向けた取組みを進め、多様な人々が調和をもって暮らす社会を構築していかなければならない。
 当会は、あらためて今回の女性蔑視発言及び両組織の前記対応に強く抗議するとともに、これを契機として、性差別を許さず、性別に対する固定観念と向き合い、これを解消し、男女共同参画社会ひいては多様性を尊重する社会の実現に向けてひとりひとりができることから取り組んでいくことを求める。
 当会としても2019年に策定した第三次大阪弁護士会男女共同参画推進基本計画にもとづき、男女共同参画社会ひいては多様性を尊重する社会の実現に向けた取組みを推進していく所存である。

2021年 (令和3年)3月3日 
        大阪弁護士会      
         会長 川下  清

ページトップへ
ページトップへ