「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき 措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に 関する意見募集(パブリックコメント)に対する意見書

「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき 措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に 関する意見募集(パブリックコメント)に対する意見書

2021年(令和3年)5月27日


消費者庁消費者制度課
公益通報者保護制度担当 御中

大阪弁護士会      
 会長  田 中   宏


「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき
措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に
関する意見募集(パブリックコメント)に対する意見書


 令和3年4月28日付け「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」(以下「指針案」という。)等に関する意見募集(パブリックコメント)に対し、当会は、以下のとおり意見を述べる。



第1 指針案に対する意見
1 指針案「第2 用語の説明」について

【意見①】
「労働者」ではなく「労働者等」などの用語を用いるべきである。
【理由①】
 ここにいう「労働者」は公益通報者保護法・労働基準法・その他の法令上の労働者とは異なり、派遣労働者も含む概念であるから、誤解されないよう「労働者等」というよう用語を用いるべきである。

2 指針案「第4 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置」について
【意見①】
「1(4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置」について
「事案に関係する者」として、事案に直接関与した者を関与させない措置をとるだけでなく、潜在的に事案に関係していた可能性のある者や将来的に事案に関係することが想定される者についても、あらかじめ関与させない措置をとるべきである。
【理由①】
 例えば、調査の進展によって、当初の通報対象者だけでなく、その上司・部下や相手方などの関与が明らかになる場合や、通報対象事実が認定されれば特定の者がその後にそれに対する対応を強いられる場合などは当初から十分想定されるのであり、公益通報対応業務の実効性の観点からも、公益通報対応業務の公正さに対する信頼の観点からも、あらかじめそれらの者を関与させない措置をとる必要がある。
 なお、公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書(以下「報告書」という。)10頁では「事案に関係する者」を「公正な公益通報対応業務の実施を阻害する者」と定義している。しかし、実際にその者が阻害行為をおこなうかどうかを事前に判断することはできない。「事案に関係する者」かどうか、つまりその者を公益通報対応業務に関与させるかどうかはあらかじめ決定しておく必要があるにもかかわらず、その対象者についてこのような定義とすることは不適切であって、この報告書の記載をそのまま指針の解説に盛り込むべきではない。

【意見②】
「3(3) 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者及び役員への開示に関する措置」について
記録の作成・保管を義務化するのであれば、その保管・共有に関して厳格な定めを置くべきことを指針に盛り込むべきである。
【理由②】
 公益通報に関する情報については指針上も厳格な管理が求められているのであり、この点は特に重要であるから、作成・保管された記録に関しても、指針の解説に記載するだけでなく、指針自体に記載を設けるべきである。


第2 「指針の解説」に盛り込むべき具体的取組事項に対する意見
【意見①】
 中小事業者に関しては民間事業者向けガイドラインを存続させるべきである。
【理由①】
 現行の公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(以下「民間事業者向けガイドライン」という。)は、中小事業者に対しても適用され、強制力を有するものではないものの、政府が作成したガイドラインとして、事業者の行為の違法性判断の際に考慮されうるものである。
 他方、本指針の内容は、中小事業者に関しては努力義務にとどまるのであり、指針の解説についても同様である。そのため、中小事業者が指針の解説に違反したとしても、そのことをもって直ちに違法性を推認することは困難である。
 そのため、民間事業者向けガイドラインを指針の解説に取り込んだ上で同ガイドラインを廃止してしまうと、中小事業者に関しては、違法性の判断基準がなくなることになり、内部通報体制整備に関する規制が後退することになりかねない。そのような事態を避けるため、指針が中小事業者に対して直接適用されるようになるまでは、民間事業者向けガイドラインを中小事業者対象のガイドラインとして存続させるべきである。

【意見②】
 公益通報者の意向に反して調査をおこなうことも原則として可能である(報告書10頁)と記載すべきではない。
【理由②】
 事業者が公益通報者の意向に反して調査をおこなうことが法的に禁止されるものではないとしても、原則として公益通報者の意向に反して調査を行う制度として運用することは制度の実効性の観点から問題がある。一方公益通報者の意見に反して調査しうる制度であることについて十分に説明せずに通報を受け付けることは制度の公正性の観点から問題があり、国が公益通報者の意向に反して調査をおこなうことを積極的に推奨しているととられかねない表現を採用すべきではない。
 なお、報告書10頁は、公益通報者の意向に反して調査をおこなう場合、公益通報者とコミュニケーションを十分にとり、公益通報者の利益が害されないよう配慮することが求められるとするが、通報者に対して事業者がおこなうべきは単なるコミュニケーションや配慮ではなく、制度についての事前の正確な説明であることが強調されなければならない。

【意見③】
 被害者と公益通報者が同一の事案についても、当該公益通報者から書面による同意を得ることが望ましい(報告書19頁)と記載すべきではない。
【理由③】
 指針の解説において書面による同意を得ることが望ましいと記載した場合、通報受付に際して定型的に書面による同意を条件とするような運用がなされるおそれがある。しかし、労働者個々人は事業者と比べて立場が弱く、そのような運用がなされれば真意に基づかない同意を強いられることになりかねない。そのような形式的な同意を得ることはむしろ通報制度に対する信頼や実効性の観点から有害である。
 なお、報告書19頁脚注32は、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者同一の事案において、公益通報者を特定させる事項を共有する際には、公益通報者の心情に配慮しつつ、同意の有無について誤解のないよう、書面によるなどして同意を得ることが望ましいとするが、同意の有無自体について誤解が生じるようなことはまれであり、むしろ、同意することによる帰結について担当者が十分な説明をしていなかったり、通報者が十分理解しないまま同意したりして紛争が生じる例の方が多い。通報者に対して事業者がおこなうべきは、単なる心情への配慮ではなく、制度や調査による影響についての事前の正確な説明であることが強調されなければならない。


第3 意見募集の実施について
【意見④】
 意見の募集期間が短期に過ぎ、不適切である。募集期間は少なくとも2か月程度とされたい。
【理由④】
 国民の意見を広く募集するのであれば、検討のために十分な期間を与えるべきである。意見を述べる者が個人でなく法人等の団体の場合、団体内の意見をとりまとめ、所定の手続きを経て意見を提出するためには、1か月では不十分である。意思決定をするための会議が1か月に1度しかない団体も一定数あると思われる。
 特に今回の照会の期間は、ゴールデンウィークを含むものであり、実質的な営業日は20日にも満たない。
パブリックコメントの募集においては形式的な意見募集するのではなく、実質が伴うようそのスケジュールなどの手続きについても十分配慮されたい。
以上

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