18歳及び19歳の者に関する少年法改正についての会長声明

18歳及び19歳の者に関する少年法改正についての会長声明

 本年5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が成立した。改正法においては、18歳及び19歳の者を「特定少年」とし、これに対する特例を定め、18歳未満の者とは異なる取扱いをすることとされた。
 一方で、特定少年による犯罪については、改正法においても、全件を家庭裁判所に送致し、科学的な調査や鑑別を実施した上で審判手続において保護処分を決定するという現行少年法の基本的枠組みを維持することとされた。これは、今回の法改正において、少年法が非行少年の健全育成や再犯防止に有効に機能していることが認められたものと評価することができる。
 今回の改正に至る過程では、民法の定める成年年齢が20歳から18歳に引き下げられるのに合わせて少年法適用年齢も引き下げることが、当初有力視されていた。その議論が大きく変化し、適用年齢引下げが見送られることになったのは、日本弁護士連合会及び当会を含む全国の弁護士会のみならず、少年司法や矯正の現場に関わった方々をはじめ、少年の健全育成や犯罪被害者支援等に取り組んできた諸団体から、少年法の適用年齢引下げに反対する意見が多く表明され、その声が反映された成果といえる。
 しかしながら、改正法は、特定少年に関しては、いわゆる「原則逆送」の対象範囲を拡大し、ぐ犯の対象から除外し、起訴後の推知報道を許容するなど少年の健全育成という理念を大きく後退させる内容となっている。
 当会としては、改正法のもとでも、少年法の理念が少年司法や矯正の実務で守られ、改正の弊害を生じさせないよう、以下に述べるような運用がされることを、政府及び裁判所に対し、強く求めるものである。
 まず、第一に、改正法では、特定少年について、検察官に送致することが原則とされている事件の範囲が短期1年以上の懲役または禁錮の罪の事件にまで拡げられたが、新たに原則逆送の対象となる罪の事件には様々な犯情のものがあることに鑑み、家庭裁判所が検察官に送致するか否かを判断するにあたっては、きめ細かな調査及び適正な事実認定に基づき、犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮する運用が行われねばならない。このことは、参議院の法務委員会の附帯決議においても指摘されたところである。
 第二に、特定少年がぐ犯の対象から除外される改正がなされたが、これにより、これまで要保護性が高くぐ犯として保護処分に付されて改善更生の機会を得られていた少年が、その機会を失いかねない。改善更生のために保護と支援が必要な特定少年に対し、更生保護事業や福祉的支援を強化し、ぐ犯による保護処分に代わる適切な支援策が講じられるべきである。衆参両院の法務委員会の附帯決議も同様の趣旨の指摘を行っている。
 第三に、改正法では、特定少年につき、少年審判で検察官送致決定がなされ、公判請求された後には、少年法61条による少年を推知することができる報道の禁止の対象外とされることになった。しかしながら、実名報道は少年の健全育成を大きく阻害するうえ、インターネットの普及により、少年を特定する情報がひとたび報道されると、それが半永久的に残り、当該少年の社会復帰や更生の決定的な妨げとなる。それは、結果として再犯可能性を高めることになりかねず、社会にとっても不利益に働く面がある。衆参両院の法務委員会において、推知報道については、その禁止が一部解除されたとしても、少年の健全育成及び更生の妨げにならないよう十分に配慮されなければならない旨の附帯決議がなされた。報道機関は、かかる附帯決議の趣旨を尊重し、事件報道にあっては、その内容や在り方について、慎重に検討すべきである。
 第四に、法務省は、今回の改正をふまえ、罪を犯して少年院に収容された特定少年について、非行の反省と責任の自覚の喚起とを組み合わせた指導を内容とする新たな教育プログラムの導入等を検討している(「罪を犯した18歳及び19歳の者に対する矯正教育(仮)に係る検討会」報告書)。しかし、民法上の成年年齢に達したとしても、それは法律上の定め方が変わったに過ぎず、非行を犯した特定少年の実態は何も変わらない。少年院に送致される特定少年の多くは、その資質や生育歴等から、基礎学力や人間関係等、社会で生活する上で多くの課題を抱えており、その処遇において非行の責任を問うことを目的に据えると、社会適応に必要な課題の改善が後回しにされ、かえって再非行の防止を阻害してしまうおそれがある。少年の健全育成に資する処遇を着実に維持するべきである。
 以上のとおりであるから、政府及び裁判所は、改正少年法の運用にあたって、その問題点を十分に意識するとともに、その弊害が生じることのないよう少年の健全育成目的に沿った対応を行うべきである。当会は、これまで、各会員の弁護人及び付添人活動、さらには少年審判後の就労支援や自立支援等を通じ、非行少年の更生と健全育成に尽くしてきたところであるが、改正法の下においても、少年法の理念に即した運用がなされるよう、政府及び裁判所への働きかけ等を継続するとともに、各会員の活動等を充実させるために必要な体制を整備すべく尽力する所存である。

 2021年(令和3年)6月28日
       大阪弁護士会      
         会長 田中  宏

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