民法750条の改正と選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明

民法750条の改正と選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明

 本年6月23日、最高裁大法廷は、いわゆる選択的夫婦別姓制度に関して、「この種の制度のあり方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかないというべきである。」として、平成27年(2015年)12月16日最高裁判決(以下「平成27年大法廷判決」という。)の判断を踏襲し、夫婦同氏を定める民法750条及び戸籍法74条1号について、合憲と判断した。
 民法750条は、法律婚において、夫または妻のどちらかの氏を選択することを求めている(夫婦同氏の強制)ため、婚姻する夫婦の一方は、婚姻前の氏を使用できないことになるが、平成27年大法廷判決の指摘するところによれば、約96%の夫婦が、夫の氏を称することを選択しており、妻となる女性が一方的に不利益を受けている。この実状が、長年にわたり問題とされ、平成8年(1996年)2月には、選択的夫婦別姓制度を内容とする「民法の一部を改正する法律案要綱」が法務大臣に答申されたが、未だ国会へ提出されていない。
 平成27年大法廷判決では、5名の裁判官が民法750条は違憲との反対意見を述べており、96%もの多数が夫の氏を称する点をとらえ、意思決定の過程に現実の夫婦間の不平等と力関係が作用していること、その点を配慮せずに夫婦同氏の例外を設けないことは、多くの場合妻のみが個人識別機能を損ねられることとなり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないと指摘している。また、同判決の多数意見も、改氏による不利益を特に女性が被っていることを認め、選択的夫婦別姓制度の導入は、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」であるとしたが、その後、国会で議論は進まず、問題は何ら解決しなかった。
 平成29年(2017年)12月に内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」では、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成すると回答した人が42.5%であり、夫婦同氏を支持し法改正の必要はないと回答した29.3%を大きく上回った。
 しかしながら、今回の最高裁決定の多数意見は、「平成27年大法廷判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他社会の変化や、いわゆる選択的夫婦別姓の導入に賛成する者の割合の増加その他国民の意識の変化といった原決定が認定する諸事情等を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない。」と合憲の判断を示した。最高裁が、世論の期待を裏切り、平成27年大法廷判決以降、国会が議論を先送りし続けていることを問題とせず、再び立法論の問題とし、実質的な判断をしなかったことは極めて遺憾である。
 日本は女子差別撤廃条約を批准しているところ、国連女性差別撤廃委員会は、民法750条が「差別的規定」であるとして、過去3回にわたって、改正を勧告している。今回の最高裁決定においても、民法750条は憲法24条に反するという4名の裁判官の意見が付されており、このうち3名の裁判官は、いずれも女子差別撤廃条約に言及し、我が国の夫婦同氏制のような法制度が他の諸外国には見当たらないことにも言及している。中でも宮崎裕子、宇賀克也裁判官は、「我が国が女子差別撤廃条約に基づいて夫婦同氏制の法改正を要請する3度目の正式勧告を平成28年に受けたという事実は夫婦同氏制が国会の立法裁量を超えるものであることを強く推認させる」と結論付けている。また、草野耕一裁判官は、選択的夫婦別姓の導入で向上する国民の福利は、導入で減少する福利よりはるかに大きく、導入しないことはあまりにも個人の尊厳をないがしろにするもので、立法の裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠いており、憲法24条に違反すると述べている。さらに、合憲判断をした裁判官中3名の裁判官は、補足意見の中で、国会での制度に関する議論の促進を強く求めている。
 今回の最高裁の合憲判断は極めて不当であり、当会は国に対し、改めて民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを強く求める。

 2021年 (令和3年) 7月15日
       大阪弁護士会      
         会長 田中  宏

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