甲府市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明

甲府市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明

 本年10月に山梨県甲府市において発生した少年が殺人、放火等を行ったとされる傷害被疑事件に関連し、週刊新潮(2021年10月28日号)は、被疑者とされる19歳の少年の顔写真、氏名、在学する高校名などを掲載した。
 少年法は、少年が成長途中の未成熟な存在であることに鑑み、「健全育成」すなわち少年の成長発達権保障の理念を掲げている(第1条)。そして、少年による事件については、本人と推知できるような報道がなされると、少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが大きいことから、事件の内容や重大性等に関わりなく、少年の犯行について、氏名、年齢、容貌等によりその者が当該事件の本人と推知できるような記事又は写真の出版物への掲載(以下「推知報道」という。)を一律に禁止している(第61条)。
 上記週刊新潮の記事は、推知報道を禁止した少年法61条に反する違法行為であり、極めて遺憾である。
 当会は、週刊新潮を発行する株式会社新潮社に対し、2017年3月14日付「名古屋市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明」、2018年4月24日付「滋賀県彦根市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明」を発出してきたほか、本年度も2021年6月24日付「立川市内で発生した少年事件の実名等報道に関する会長声明」において、少年法61条を遵守するよう重ねて強く要請してきたところである。それにもかかわらず、短期間の間に違法行為が繰り返されたことは極めて遺憾であり、厳重に抗議する。
 上記週刊新潮の記事は、少年被疑者が捜査段階であるにもかかわらず、「犯行の計画性や残忍性、結果の重大性に鑑みれば」「実名報道が相当であろう」との独自の見解を述べて、事件との関連性も報道の必要性も到底あるとは考え難い少年被疑者のプライバシーを報道している。これは、明らかに違法であって、法治国家において許されるものではない。さらに、本記事では、本件に一切関係のない少年の家族のプライバシーに関係することについても報道している。このことからも、上記記事が興味本位や商業主義に陥った報道であるという誹りを免れ得ないものである。
 なお、本年5月に成立及び公布された「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号。以下「改正法」という。)では本人推知報道の禁止が一部解除されることとなったが、そもそも、改正法は未だ施行されていない(令和4年4月1日施行)。また、たとえ改正法の施行後であったとしても、18歳及び19歳のときに罪を犯した場合において公判請求された後に推知報道が許容されるとするものであるので、今回の週刊新潮の報道は、許容される余地はない。
 さらに、法改正にあたり、衆議院及び参議院各法務委員会において、本人推知報道の禁止が一部解除されるとしても、少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮すべき、との附帯決議がなされた趣旨にも悖る。
 当会は、改めて新潮社に対し、少年法の理念である少年の健全育成及び更生に資するという社会的使命を果たすという視点のもと少年事件の報道に取り組むこと及び今後同様の実名報道及び写真掲載を行わないことを強く要請する。


 2021年(令和3年)11月4日
       大阪弁護士会      
         会長 田中  宏
  

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