外国籍会員の調停委員任命上申拒絶に抗議する会長声明

外国籍会員の調停委員任命上申拒絶に抗議する会長声明

 大阪家庭裁判所から依頼を受け、当会が2021年(令和3年)9月30日付けで行った韓国籍の当会会員1名の推薦に対し、同家庭裁判所は、最高裁判所に当該会員の任命上申を行わなかった。拒絶の理由は、調停といえども公権力の行使であり、国家意思の形成に関与すること等の理由から、調停委員は、日本国籍を有する者である必要があると解することが相当であるというものである。当会は、これまでも外国籍の会員を家事調停委員に推薦したが、いずれも同様の理由により任命上申を拒絶されており、極めて遺憾であり、強く抗議するものである。
 最高裁判所は、地方公務員に関して、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、国民主権の原理に基づき、原則として日本国籍を有する者が就任することが想定されていると見るべきであり、外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではないとしている(2005年(平成17年)1月26日大法廷判決)。
 しかし、法令上、外国籍の者が調停委員になることができない旨の規定はない。また、外国籍の者が一定の公職に就くことが制限されることがあるとしても、すべての公務員について、その具体的な職務内容を問題とすることなく、日本国籍を有するか否かにより差別的取扱いを行うべきではない。現に過去には日本国籍ではない当会会員を調停委員として任命した実例もある。
 家事調停制度は、市民間の家事の紛争を当事者の話合いに基づき解決する制度であり、調停委員の役割は、当事者双方の話合いの中で法律的な観点から助言や斡旋、解決案の提示を行い、合意を促して紛争の解決にあたるというものであって、単独で公権的判断を行う裁判官のそれとは同一でなく、かつ外国籍の者が家事調停委員に就任することが国民主権原理に反するとは考えられない。また、調停委員は、調停委員会の一員として決議に参加するが、これは調停制度による紛争解決の実行性を確保するための付随的なものにすぎず、その職務の性質上、当事者の権利を制約することは想定されていない。このような職務の性質及び内容に鑑みても、調停委員の職務が「公権力の行使等」に当たると解することはできない。
 また、大阪においては、相当数の在留外国人がおり、これら在留外国人が関係する紛争の解決を必要とする事案も少なくなく、外国籍を有する家事調停委員がその解決を効果的に支援することは、事案の早期解決のためにも極めて有意義である。多民族・多文化共生社会の形成の視点からすれば、国籍の有無にかかわらず、家事調停委員の就任を認めることは当然の要請と考えられ、調停委員の任命においても多様性の尊重が求められる。
以上のとおり、調停委員について、日本国籍を有しないことのみを理由として任命上申を拒絶することは、憲法第14条、自由権規約第26条及び人種差別撤廃条約第5条の平等原則に違反するものといわざるを得ない。
 2018年(平成30年)8月30日、国連の人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約の実施状況に関する第10回・第11回日本政府報告に対する総括所見を発表した。45項目に及ぶ懸念及び勧告事項の中で、第22項は、在日コリアンが、公権力の行使または公の意思形成の参画にたずさわる国家公務員に就任できるよう確保すること、第34項(e)は、長期間滞在する外国籍の者等が公務員の地位にアクセスできるようにすることを勧告している。
 この勧告は、公権力の行使等に携わる国家公務員についてさえ外国籍を有する在日コリアンが就任することや長期間滞在する外国籍の者が公務員の地位にアクセスできることを求めているのであるから、公権力の行使等にあたらない調停委員に外国籍を有する者を採用することは、勧告の趣旨に合致するものである。
よって、当会は、大阪家庭裁判所に対して、このような事態を繰り返さないことを強く求めるものである。


2022年(令和4年)2月9日
          大阪弁護士会      
           会長 田中  宏

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