改正刑事訴訟法3年後見直しにあたって、全事件・取調べ全過程の録音・録画制度と取調べへの弁護人立会いの実現を求める会長声明

改正刑事訴訟法3年後見直しにあたって、全事件・取調べ全過程の録音・録画制度と取調べへの弁護人立会いの実現を求める会長声明

 2016年成立の改正刑事訴訟法(以下「改正刑訴法」という。)により新設され、2019年6月に施行された取調べ全過程の録音・録画制度(刑事訴訟法第301条の2)は、施行後3年経過時に制度の在り方を検討し、必要に応じて所要の措置を講ずるとされている(同改正法附則第9条第1項及び第2項)。本年(2022年)は、その検討(見直し)に当たる年である。
 法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」における3年あまりの議論を経て成立した改正刑訴法は、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件の二類型について、逮捕・勾留下の被疑者取調べ全過程の録音・録画を義務づけた。改正刑訴法の成立は、これまでえん罪の温床とされてきた密室での取調べに風穴を開け、身体拘束事件に限ってではあるが、その取調べ全過程を事後的に検証可能とすることを捜査機関の責務としたものであり、その歴史的意義は大きい。
 しかしながら、その義務対象事件は上記二類型に限定されており、事件数としては年間に起訴された事件の約3%にとどまっている。改正後、実務運用において、検察官取調べでは、全過程録音・録画の対象を上記二類型以外にも広げてきているものの、警察での取調べは、二類型に加えて精神障がい者(知的障がい者、発達障がい者を含む)の身体拘束下の取調べを通達によって努力義務対象としたにとどまり、それ以上に広げていこうとする実務運用は全く見られない。2016年刑訴法改正が、「度重なるえん罪事件への反省を踏まえて」議論が始まった経緯からしても(衆参両院法務委員会付帯決議)、3年後見直しにおいては、全過程録音・録画の対象を全事件に拡大することが検討され、更なる改正に繋げられなければならない。
 取調べの全過程の録音・録画が必要であることは、身体拘束されていない在宅事件の被疑者、さらには被害者を含む参考人に対する取調べにおいても同様である。違法・不当な取調べがなされる危険性は、密室で検証不能な取調べがなされるという意味において、被疑者が身体拘束を受けているか否かによって異なることはない。また、参考人に対する取調べにおいても、えん罪の原因となる虚偽供述を生み出す違法・不当な取調べがなされる危険性が存することに変わりはない。このことは、近時、大阪地検特捜部が捜査したプレサンスコーポレーション事件において、同社元社長と共謀したとされる関係者が特捜部検察官による不当な取調べに晒され、その結果同元社長の関与を認める虚偽の供述に至ったことが取調べの録音録画記録媒体から明らかとなり、同元社長に無罪判決が言い渡されたことからも裏付けられる。取調べへの過度の依存の見直しという改正刑訴法の目的を実現するためには、在宅被疑者や参考人の取調べを含めて、全ての事件の取調べ全過程について、録音・録画が義務づけられなければならない。
 さらに、今回の3年後見直しを契機として、取調べへの弁護人立会いの制度化に向けての議論も加速すべきである。弁護人の取調べへの立会いは、憲法が保障する弁護人の援助を受ける権利及び黙秘権の保障から導かれ、違法・不当な取調べから被疑者を守るという意味において、改正刑訴法の取調べ全過程録音・録画制度と軌を一にするものであり、3年後見直しと同時に議論されるべきテーマである。前述したプレサンスコーポレーション事件において、特捜部検察官は録音・録画されている状況で不当な取調べを行ったが、このことは、取調べの録音・録画だけでは、えん罪が防ぎ得ない場合がありうることを端的に示している。違法・不当な取調べを排除し、えん罪事件を根絶するためには、取調べの可視化の実現とともに取調べへの弁護人立会い制度の実現が必ず議論されなければならない。
 当会はこれまで取調べの全過程の録音・録画(=可視化)実現に向けて尽力するとともに、弁護人立会いの運用での実現と制度の創設に向けて積極的提言を行ってきたが、今回の改正法3年後見直しに当たって、国会及び政府に対し、全事件・全過程の録音・録画、そして取調べへの弁護人立会いの法制化を求める。

2022年(令和4年)5月10日
        大阪弁護士会      
         会長 福 田 健 次

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