「民事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立についての会長声明

「民事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立についての会長声明

1 本日、第208回通常国会において、民事訴訟法等の一部を改正する法律が成立した。本改正は、近年の情報通信技術の進歩に伴い、民事裁判手続においてIT化を実現するものとして、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を利用した口頭弁論期日などを可能にするものである。

2 当会においても、国民の裁判所へのアクセスを拡充し、審理を充実させ、適正かつ迅速な紛争解決を図るために、民事訴訟手続のIT化推進に協力してきた経緯があり、本改正の趣旨に基本的に賛同するものである。
 とくに、昨今のコロナ禍の中で、対面の手続等が困難になり、民事裁判期日の取消しが相次いだ時期があり、わが国の司法による速やかな国民の権利救済に懸念が生じる危機に瀕することになったところ、本改正によって、今後このような緊急事態下においても、持続可能な司法を実現することが期待されるところである。

3 もとより民事裁判手続は、国民のためにあるものであり、民事裁判手続のIT化も、全ての国民にとって利便性を高めるものとして導入されなければならない。かかる観点から、当会は、立法過程の各段階において、法務省に対し、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見募集に対する意見書(令和3年4月30日付け)、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案」に対する大阪弁護士会意見書(令和3年10月1日付け)を提出し、「新たな訴訟手続」の新設に反対する会長声明(令和3年12月7日付け)を発出してきた。これらはいずれも改正に対する意見であるが、民事裁判手続は、国民のためにあるとの観点からは、改正法の今後の運用にも活かされるべき意見でもある。

4 そこで、当会は、以下の改正点について、注意深く、その運用を注視する必要があると考えており、これらの点については、今後も継続的に制度のあり方と運用について、検討と検証を続けていく所存である。
 第一に、本改正法では、弁論準備手続の改正により当事者双方が現実に出頭しなくともWeb会議により手続を行うことが可能となった。一方、書面による準備手続は、遠隔地等以外での場合にも実施が可能となるよう要件が改正されて存続することとなり、弁論準備手続と書面による準備手続が併存することとなった。この点、期日がないままに進められる書面による準備手続を原則とすることなく、期日を積み重ねることにより訴訟状態の変化に応じた攻撃防御方法の提出が行われる弁論準備手続を基本とする運用や当事者主導で争点整理を行う運用等、平成8年改正以来実務上確立してきた原則が、改正後も維持されるべきである。IT化を契機として書面による準備手続が基本となるかのような運営がなされないよう、加えて、職権主義的な訴訟運営がなされないよう、不断の努力により注視していく必要がある。
 第二に、本改正において、一定の期間内に審理を終えて判決を行う手続が「法定審理期間訴訟手続」として新設された。この訴訟手続は、前記意見書等のなかでも指摘したが、同制度を必要とする立法事実の存在に疑問があり、法制化の過程でも十分な調査が行われたとは言い難い。また、諸外国にも例のない訴訟手続であって、わが国の裁判制度の根幹的な変更に関わるものであることから、極めて慎重な運用が必要である。今後、①当事者の主張、証拠の提出の機会が事実上制限されていないか、②弁護士に依頼していない本人訴訟においてこれが利用され、国民に不利益が及んでいないか、③簡素化された判決書により不服申立てが制約されていないか等を中心に、制度のあり方と運用について検討と検証を続けていく必要がある。
 第三に、本改正においては、「犯罪被害者等の氏名等の情報秘匿制度」が新設された。かかる制度は、基本的な当事者の手続保障の観点などから強い懸念が指摘されていることから、国民の裁判を受ける権利を制約することがないよう運用を注視する必要がある。

5 当会は、改正法による民事裁判のIT化を具体的に進めていくとともに、上記の観点から、その運用を注視し、提言等を行い、国民にとって利用しやすい頼りがいのある司法を実現するために、不断の努力を続けていく所存である。

2022年(令和4年)5月18日
        大阪弁護士会      
         会長 福 田 健 次

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