在外国民の国民審査を認めていない国民審査法を違憲とした最高裁判所大法廷判決についての会長声明

在外国民の国民審査を認めていない国民審査法を違憲とした最高裁判所大法廷判決についての会長声明

 憲法第79条に基づく最高裁判所裁判官の任命に関する国民審査の手続を定めている最高裁判所裁判官国民審査法(以下「国民審査法」という。)においては、国外に居住する日本国民(以下「在外国民」という。)に、国民審査権を行使することが認められていない。そして、立法府たる国会は、在外国民が国民審査権を行使する制度(以下「在外審査制度」という。)の創設について、立法措置を何らとらなかった。
 この問題について、本年5月25日、最高裁判所大法廷は、国民審査法において、在外国民に国民審査権が認められていないことは憲法第15条第1項、第79条に違反すると明確に論じ、そのうえで、在外審査制度の創設について立法府たる国会が立法措置を何らとらなかったという立法不作為について、国は国家賠償責任を負うとし、さらに、次回の国民審査で在外国民について国民審査権を行使させないことは違法と認められるとの判決を下した。
 上記違憲判決は、最高裁判所が違憲審査権を行使する終審裁判所であるとの地位と権能を有することに鑑み、最高裁判所を構成する最高裁判所裁判官の罷免権を国民に認める国民審査制度が設けられた趣旨を指摘し、この国民審査権は、国民主権原理に基づく主権者の権能の一内容である点において選挙権と同様の性質を有すること、また、憲法が衆議院議員総選挙の際に国民審査を行うこととしていることにも照らせば、憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当であるとした。そして、国民の審査権及びその行使を制限することは原則として許されず、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由もないとして、現行の国民審査法が違憲であると判断した。
 国会議員を選出する選挙権と最高裁判所裁判官の罷免に関する国民審査権は、いずれも主権者たる国民(憲法前文、第1条)の公務員選定罷免権(憲法第15条第1項)の具体化であって、前者と後者はいずれも憲法上重要性を有しているのであるから、在外国民の権利行使における立法措置において別異に扱うべきものではない。ところが、国は、在外国民の選挙権の行使については、1998年(平成10年)公職選挙法改正、2005年(平成17年)の最高裁判所大法廷の在外投票制不備についての違憲判決後の2006年(平成18年)公職選挙法改正等により、在外投票制度を整備してきた。また、2007年(平成19年)に制定された日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)では、その制定当初から、在外国民に憲法改正の国民投票権の行使を認める制度が設けられている。こうした選挙権、国民投票権についての立法措置に対して、国民審査法については、在外審査制度の創設について立法措置を何らとらなかったのであり、このような立法の不作為が憲法に反することは明らかである。
 また、上記違憲判決では、憲法における国民審査権の重要性から違憲審査権に言及している点にも大きな意義がある。憲法で保障された国民の権利が立法の不作為によって侵害されている場合、その是正は、違憲審査権の行使によってなされるほかないのであるから、最高裁判所は、国民の権利侵害に対して積極的に違憲審査権を行使すべきである。また、国会としても、違憲審査権の行使を念頭に置いて、積極的に国民の権利侵害状態を解消すべき立法上の義務がある。
 以上から、当会は、上記違憲判決を受けて、国会において、速やかに在外国民の国民審査権の行使を認める法改正をするよう求める。

2022年(令和4年)6月10日
         大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次


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