「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明

「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明


 鹿児島地方裁判所は、2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却した。

1 大崎事件は、1979年(昭和54年)10月12日、鹿児島県大崎町で、原口アヤ子氏(当時52歳)(以下「アヤ子氏」という。)の義弟が、自宅横の牛小屋の堆肥の中から遺体となって発見されたことで発覚した事件である。
 本件では、アヤ子氏が、元夫、別の義弟と共謀して被害者たる義弟を殺害し、その遺体を別の義弟の息子も加えた4名で遺棄したとされ、これに対し、アヤ子氏は、一貫して犯行を否認したが、1980年(昭和55年)3月31日、鹿児島地方裁判所において、殺人・死体遺棄罪として、懲役10年の有罪判決を受け、その後、控訴、上告、異議申立ても棄却され、1審判決が確定した。アヤ子氏は、服役し、満期出所した。

2 本件は、客観的な証拠が乏しく、ほぼ共犯者とされた者の自白のみで有罪とされており、証拠構造が脆弱な事件の典型といえるが、その自白が巻き込みの危険のある「共犯者の自白」であること、さらに、これら共犯者は、いずれも知的・精神的な障がいを抱えており、取調官に迎合しやすい、いわゆる「供述弱者の自白」であったという点は、大いに着目すべきである。

3 本件は、第1次再審請求につき、2002年(平成14年)3月26日、鹿児島地方裁判所において、再審開始決定がなされ、第3次再審請求につき、2017年(平成29年)6月28日、鹿児島地方裁判所において再審開始決定がなされ、2018年(平成30年)3月12日、福岡高等裁判所宮崎支部において再審開始決定に対する検察官の即時抗告が棄却されるなど、実質的には3度の再審開始決定を受けている。
 ところが、2019年(令和元年)6月25日、第3次再審請求における特別抗告審であった最高裁判所第一小法廷は、検察官の特別抗告に理由がないとしながら、下級審に差し戻すこともせず、再審開始決定を取り消したうえで、書面審理のみで、再審請求を棄却するという前代未聞の判断を下した。これは、無辜の救済の理念や「疑わしい時は被告人の利益に」と明言したいわゆる白鳥・財田川決定に反する極めて不当なものと断ぜざるを得ない。この点について、当会は、2019年(令和元年)7月5日、大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明を発出しているところである。

4 このような中、アヤ子氏やその弁護団は、不屈の思いで、2020年(令和2年)3月30日、第4次再審請求を行うに至った。かかる請求においては、救急救命医の医学鑑定、供述鑑定、供述心理鑑定が新証拠として提出された。
 これに対し、 第4次再審請求審の鹿児島地方裁判所は、5名の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の積極的な訴訟指揮を行ったが、結果としては、最高裁判所の決定に追従し、再審請求を棄却したものである。
 本決定は、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、白鳥・財田川決定に明らかに違反しているほか、死亡時期に関する検討も不十分であって、到底是認できない。

5 なお大崎事件においては、以下の現行の刑事訴訟法における問題点が浮き彫りになったものといえる。
 第1に、本件の第2次再審請求では、その即時抗告審(福岡高裁宮崎支部)において、裁判所が、検察官に対し、積極的に書面による証拠開示の勧告を行い、これにより多数の証拠開示がなされたものであるが、原審である再審請求審(鹿児島地方裁判所)では、裁判所が十分な訴訟指揮をしなかったことから、検察官による証拠開示が実施されなかったという経過を辿っている。これは、再審請求審において証拠開示に関する規定がないため、裁判体により、証拠開示の実施の有無が異なるといういわゆる「再審格差」が生じていたものといわざるを得ない。
 第2に、本件は、3度の再審開始決定を受けているにも関わらず、検察官により繰り返される即時抗告、特別抗告によって、徒らに審理の長期化がなされた事件でもあり、このような検察官による不服申立ての問題点も露呈したものというほかない。
 当会としては、冤罪被害者が不利益を受けることのないよう、再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化の実現や、検察官による不服申立てを禁止する規定など、刑事再審法改正に向けて、不断の努力を続けていく所存である。

6 アヤ子氏は現在95歳の高齢である。一刻も早く再審開始決定を得て、再審公判を開かねばならない。当会としても、今後も再審が開始されるよう、引き続き全力で支援していくことを、ここに表明するものである。

2022年(令和4年)6月22日
         大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次

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