物価高騰で国民が生活危機に直面している今、国に対し、東京地裁判決を真摯に受け止め、生活保護基準の引下げの見直しを求める会長声明

物価高騰で国民が生活危機に直面している今、国に対し、東京地裁判決を真摯に受け止め、生活保護基準の引下げの見直しを求める会長声明

 本年6月24日、東京地方裁判所民事第51部は、2013年(平成25年)8月から3回に分けて実施された史上最大(削減総額670億円)の生活保護引下げ処分(以下「本件引下げ」という。)の取消しを求めた訴訟において、当該処分を取り消し、原告の請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。全国29地裁で30の原告団が同種訴訟を提起しているが、これまでに言い渡された11の地裁判決のうち原告の請求を認容したのは、2021年(令和3年)2月22日の大阪地裁判決、2022年(令和4年)5月25日の熊本地裁判決に次ぐ3例目である。
 本判決は、本件引下げの根拠の一つとされた物価下落を理由とする「デフレ調整」について、①その必要性にかかる判断が専門技術的な見地から検討がなされていないこと、今回初めて物価の変化率による調整を行ったことの合理性にかかる判断についても専門的知見との整合性を有しないこと、②デフレ調整の起点を2008年(平成20年)としたことは合理的根拠に基づくものとは言えないこと、③生活扶助相当CPIを用いたことは生活保護利用世帯の可処分所得の実質的増加の有無・程度を正しく評価し得るものと言えないことなどから、厚生労働大臣の判断は、「統計等の客観的な数値との合理的関連性及び専門的知見との整合性」を欠くと判断するとともに、引下げの影響は重大であるとした。その上で、本件引下げに係る厚生労働大臣の判断過程には過誤・欠落があり、その裁量権の逸脱・濫用があったと判断したものである。
 本判決は、専門家による審議検討を経ないで行われた生活保護基準改定の判断過程審査においては被告(国)による十分な説明を要するとし、行政に訴訟上の説明責任を課した点等において重要な意義を有する。
 当会は、2021年(令和3年)3月1日の「生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明」で大阪地裁判決を、2022年(令和4年) 6月7日の「司法の職責を果たした熊本地裁判決を高く評価し、国に対して恣意的な生活保護基準の引下げの見直しを求める会長声明」で熊本地裁判決を高く評価したところであるが、新型コロナウイルス感染拡大により生活困窮世帯が急増し、最後のセーフティネットである生活保護制度の重要性が再認識される中、今般、東京地裁においても、本件引下げの恣意性が厳しく指摘されたことの意味は極めて重い。
 折しも、ロシアのウクライナ侵攻から派生した物価高騰で、本年6月には、生鮮食品を含む「食料」全体では前年同月比で4.1%の物価上昇となり、生活保護世帯の生活に重大な影響を与えており、生活保護基準の適正化は喫緊の課題である。
 そこで、当会は、改めて国に対し、三たび出された司法判断を踏まえ、早急に現在の生活保護基準を見直し、2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻し、国民・市民の生活を守ることを求める。

2022年(令和4年)7月8日
          大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次

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