「谷間世代」への一律給付実現を求める会長声明

「谷間世代」への一律給付実現を求める会長声明

1 国の三権の一翼である司法を担うのは裁判官・検察官・弁護士の法曹三者であり、その使命の重要性や公共性に鑑み、国の責任で法曹を養成するため、1947年(昭和22年)、統一司法修習制度が発足し、同時に公務員に準じた給与が支払われる給費制が採用された。司法修習生は、その公共的使命を自覚し、修習専念義務を負いつつ、法曹三者全ての実務を修習することにより、高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、法曹にふさわしい品位と能力を備えるよう努めなければならない。司法修習制度は、司法がその役割を十全に果たすために基礎的かつ重要な制度であることから、国の責務で運営されるべきものである。
 しかし、司法試験合格者3000人構想のもとで2011年(平成23年)11月改正裁判所法施行により給費制が廃止され、約1年間の司法修習は無給となり、申請により生活費を貸し付ける「貸与制」が導入された。元より法曹志望者には大学・法科大学院等で奨学金債務を負う者も多いにもかかわらず、さらに、貸与制により新第65期司法修習生以後は、うち7割を超える者が約300万円の貸与金返還債務を負って法曹のスタートラインに立つこととなった。その貸与を受けなかった者も、生活のため親族の援助を受けたり貯蓄を取り崩したりするなど余儀なくされた。
 そこで、日本弁護士連合会及び当会を含む全国の弁護士会が給費制復活を求めて様々な活動をした結果、給費制廃止が見直され、2017年(平成29年)4月、裁判所法改正により新たな修習給付金制度が創設され、第71期以降の司法修習生は、基本給付月額13万5000円、加えて必要な者は住居給付月額3万5000円を受けることとなった(この金額が充実した司法修習に必要充分であるかについては引き続き検討を要する。)。

2 ところが、新第65期から第70期までの司法修習修了者について、何らの是正措置が採られなかったことにより、かつての給費制世代と新しい給付金世代の「谷間」に置かれた無給世代(いわゆる「谷間世代」)として放置されるという制度的不備が残されることとなった。
 この点、2019年(令和元年)5月30日に名古屋高等裁判所が言い渡した給費制廃止違憲訴訟判決においても「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及されている。
 当会は、2018年(平成30年)2月14日付け会長声明で、法務省、最高裁判所、国会等関係機関に対し、谷間世代の不平等・不公平の是正等の措置として、相当額の一律給付等の具体策の検討を求め、是正措置が講じられるまでの間は貸与金の返還期限を猶予することを求めたが、残念ながら何らの手当はされていない。

3 「谷間世代」は、6年間で約1万1千人、全法曹の約4分の1を占めている。現在、法曹経験5年目から10年目に該当し、その能力を発揮して国民の権利・利益を擁護するための公共的使命を果たすことが大いに期待されている。
 特に弁護士は、これまでも在野法曹の立場から人権課題にも積極的に取り組み、時に報酬を度外視しても献身的に、社会的経済的弱者に寄り添って、社会全体を下支えしてきた。「谷間世代」弁護士も、様々な分野で活動している。近年は大規模自然災害が多発し、長引くコロナ禍において、直接的な支援を必要とする社会的経済的弱者が増えているところである。
 しかし、「谷間世代」弁護士は、約1年間の司法修習が無給だったことにより、法曹のスタートラインで経済的負担を抱えており、以後、公的な手当てがなされないまま、5年の据置期間を経て毎年貸与金返済を求められるなどの状況で、職務に取り組むことを余儀なくされている。そうした状況では、経済的負担への将来にわたる不安感、無給制(貸与制)自体への不条理感、「谷間」の状況への不公平感などが解消されることがなく、人権擁護など社会的経済的弱者のために活動する余裕や意欲を維持するのが困難となりかねない。このような経済的・精神的足かせによって、能力ある「谷間世代」の活躍が阻害されかねない状況が生じていることは、大きな社会的損失である。

4 そこで、当会では、日本弁護士連合会と協働して、国による谷間世代法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額を一律給付する立法措置を求めて活動している。本年2月15日及び本年6月14日に行われた日本弁護士連合会主催の院内意見交換会に引き続き、当会においても、近畿弁護士会連合会、京都弁護士会、兵庫県弁護士会、奈良弁護士会、滋賀弁護士会、和歌山弁護士会、日本弁護士連合会、ビギナーズ・ネットが共催して、地元選出国会議員をはじめさらに広く理解を得るべく、本年9月17日に、「谷間世代への一律給付実現全国リレー集会in近畿」を開催する予定である。
 当会は、国に対して、改めて「谷間世代」を生み出した制度的不備を是正するため、国による谷間世代法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付を実現することを強く求めるものである。

2022年(令和4年)9月7日
          大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次

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