特定商取引法2016年(平成28年)改正における見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書

特定商取引法2016年(平成28年)改正における見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書

2022年(令和4年)12月19日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  河野 太郎 殿
経済産業大臣  西村 康稔 殿
消費者庁長官  新井 ゆたか 殿
内閣府消費者委員会委員長  後藤 巻則 殿


大阪弁護士会       
会 長  福 田 健 次


特定商取引法2016年(平成28年)改正における見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書



第1 意見の趣旨
 当会は、国に対し、2016年(平成28年)改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、以下の内容を含む抜本的な法改正等を行うことを求める。

1 訪問販売・電話勧誘販売について
(1) 拒否者に対する訪問勧誘の規制
訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。
(2) 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売につき、特定商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すること。
(3) 勧誘代行業者の規律
訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。
(4) 販売業者等の登録制
訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないものとすること。
(5) 規制対象の前提となる「電話をかけさせる方法」の範囲拡大
電話勧誘販売につき、特定商取引法第2条第3項の「政令で定める方法」に「テレビジョン放送等を利用して」電話をかけさせる方法を追加すること。
(6) 過量販売の規制強化
 過量販売解除権につき、特定商取引法第9条の2第1項第2号の「同種の」の要件を広く解するとともに明確化すること。過量販売解除権の行使期間を延長すること。

2 通信販売について
(1) インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権
通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が契約の申込みを行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。
(2) インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権
インターネットを通じた通信販売による継続的契約について、消費者に中途解約権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償の額の上限を定めること。
(3) 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを義務付けること。
(4) インターネット広告画面等に関する規制の強化
インターネットの広告画面及び申込画面において、契約内容の有利条件や商品等の品質・効能の優良性を殊更に強調する一方、有利性や優良性が限定される旨の打消し表示が容易に認識できない表示をすることを特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。また、広告表示において事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告を行わなければならないこと(広告表示における透明性の確保)を法令等で明確化すること。
(5) インターネットの表示を中止した場合の行政処分
通信販売業者が不当なインターネット広告の表示を中止した場合であっても、行政処分(指示処分及び業務停止命令等)が可能であることを明示すること。
(6) 広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務
通信販売業者がインターネット上で契約の申込みを受けた場合、消費者が申込みの過程で閲覧した広告や勧誘過程の動画を一定期間保存する義務及び消費者に対して保存内容を提供する義務を負うものとすること。
(7) 連絡先が不明の通信販売業者及び当該業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号及び第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとすること。
(8) 適格消費者団体の差止請求権の拡充
適格消費者団体の差止請求権について、前記(1)から(4)の行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象に追加すること、及び(5)の場合に差止請求権行使の対象となる旨を明示することなど、その拡充を行うこと。

3 連鎖販売取引等について
(1) 連鎖販売業に対する開業規制の導入
連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。
(2) 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。
(3) 不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止
物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すること。
① 22歳以下の者
② 先行する契約として投資等の利益収受型取引の契約を締結した者
③ 先行する契約の対価に係る債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者
(4) 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引について、収受し得る特定利益の計算方法等を特定負担に関する契約を締結しようとする者に説明しなければならないものとすること。
(5) 連鎖販売取引における業務・財務等の情報提供義務の新設
連鎖販売取引について、業務・財産の状況等に関する情報を特定負担に関する契約を締結しようとする者や加入者に開示しなければならないものとすること。

4 特定継続的役務提供
(1) 「アフターサービス」と称する付加的役務への規制
アフターサービスと称して本来的役務と同等の役務提供を通常より安価又は無料で行う場合、アフターサービスと称する付加的役務提供も特定継続的役務提供契約の内容となることを明確にすること。アフターサービスと称する役務提供の単価、回数等の内容を変更する場合には特定継続的役務提供受領者等の承諾を得る必要があることを明記すること。事業者が一方的にアフターサービスと称する役務提供の内容を変更した場合に、特定継続的役務提供受領者へ支払うべき損害賠償額の算定方法、及び中途解約時の清算方法の内容をガイドライン等によって定めること。
(2) 関連商品該当性の明確化
 関連商品該当性は、商品と役務の関連性(一体性)で実質的に判断されること、及び「推奨品」であると告げるだけでは関連商品非該当とはならないことを、通達などによって明確にすること。

第2 意見の理由

1 特定商取引法の抜本的改正の必要性
 特定商取引法は、不公正な特定商取引を規制し、消費者の損害防止を図ることにより消費者の利益を保護することを目的とする法律である。同法は、問題となる取引類型を規制するために繰り返し改正をされてきた。2016年(平成28年)の改正(以下「平成28年改正」という。)の際、附則第6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」として5年後の同改正法の見直しが定められている。同改正法の施行は2017年(平成29年)12月1日であり、本年12月に施行後5年の経過を迎えることとなる。
 2016年(平成28年)改正法施行後の5年間で、スマートフォン・SNSの急速な普及によりインターネット通販によるトラブルが増加していること、若年者の被害が多いマルチ商法について、本年4月の成年年齢引き下げにより18歳、19歳の若年者にマルチ商法の被害が増加することが予想されること、我が国の高齢化が進む中、高齢者を支える制度としては、高齢者の意思決定支援を中心とする制度に期待が高まっていること、障がい者については、昨年の障害者差別解消法の改正により、事業者においても、合理的配慮を提供する義務を負うことが定められ、障がい者が自律的に社会参加するための障壁をなくす観点でも消費者法制の整備が必要であること等から改正された特定商取引法の見直しが緊急の課題となっている。
さらに、生じうる消費者被害を未然に予防し、「全ての人が」安心して安全に消費生活をおくることのできる環境を整備することは、「誰一人取り残さない」を基本理念としているSDGsの要請でもある。
したがって、平成28年改正施行5年後の見直しを機に、同法の抜本的な改正を求めるものである。

2 訪問販売・電話勧誘販売について
(1) 拒否者に対する訪問販売の規制 
2014年(平成26年)の消費者庁の調査では、消費者の96.4%が「勧誘を全く受けたくない」と回答していることから、消費者が事業者の訪問に対して個別に応対することなく、事前にかつ簡易に契約を締結しない旨の意思表示をする方法を整備することが必要である。
また、令和4年版消費者白書では、「認知症等の高齢者は、本人が十分に判断できない状態にあるため、『訪問販売』や『電話勧誘販売』による被害に遭いやすく、事業者に勧められるままに契約したり、買い物を重ねる場合があ」ると指摘されている。さらに、消費者庁による「障がい者の消費行動と消費者トラブル事例集」(2019年(令和元年)5月)によれば、障がい者が被害に遭いやすいトラブルの1つとして訪問販売(羽毛布団)が挙げられている。したがって、特に高齢、障がいのある消費者において、事業者の訪問に対して個別に応対することなく、事前にかつ簡易に契約を締結しない旨の意思表示をする方法を整備することが必要である。
 特定商取引法第3条の2第2項は、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、勧誘をしてはならないと定めている。したがって、消費者があらかじめ勧誘を拒絶している場合には、契約を締結しない旨の意思が明らかであり、訪問販売を行うことは許されるべきではない。
ところが、消費者庁は、同項について「例えば家の門戸に「訪問販売お断り」とのみ記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を貼っておくことは、意思表示の対象や内容が全く不明瞭であるため、法第3条の2第2項における「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しない。」(2022年(令和4年)6月22日付「特定商取引に関する法律等の施行について」別添3「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針」)との解釈を示している。
しかし、上記解釈によると、消費者は、あえてステッカーを貼付しているにもかかわらず、事業者と個別に応対しなければならず、その結果として契約締結をさせられる可能性もあり、消費者の損害防止を図る特定商取引法の解釈として不適当である。
また、同項は、「契約を締結しない旨の意思表示」の方法を限定していないうえ、多くの自治体が条例でステッカーに法的効力を認めており、大阪府においても、大阪府消費者保護条例第17条によって法的効力が認められている。消費者庁もこれらの条例上の法的効力を認めており、上記解釈は矛盾するものであるうえ、罰則のない条例では効果が限定的でありステッカーの法的効果を特定商取引法上明確にすべきである。当会でもステッカーを作成して配布しているが、とりわけ高齢者や、障がい者、これらを見守る方々からの需要が高いことからも、ステッカーに法的効果があることを明確にする必要性が高い。
 以上の点に鑑み、消費者庁の上記解釈は直ちに改められるべきであり、解釈に疑義のないよう、ステッカーにより訪問販売を拒絶する意思を表示した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「締結しない旨の意思を表示した」に該当することを条文上明示すべきである。
(2) 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
 消費者庁による「障がい者の消費行動と消費者トラブル事例集」(2019年(令和元年)5月)によれば、障がい者が被害に遭いやすいトラブルの1つとして電話勧誘販売(健康食品)が挙げられている。消費者の中には自宅電話番号を知られており、無碍に勧誘を断ることができないまま、必要のない契約をしてしまう者もおり、電話勧誘販売においても勧誘を事前に拒絶できる制度が、消費者の生活の平穏を守るために必要である。
特定商取引法第17条は、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘を禁止している。前記(1)の訪問販売拒絶のステッカーと同様に、消費者が事業者に電話応対することなく、事前に、かつ簡易に契約を締結しない旨の意思表示をするために、電話勧誘を受けたくない消費者が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止するDo-Not-Call制度を導入すべきである。
 なお、Do-Not-Call制度を導入する場合、事業者による同制度の悪用を防ぐため、登録機関の保有する電話番号を事業者側が照会する方式(リスト洗浄方式)を採用するべきである。
(3) 勧誘代行業者の規律
 訪問販売及び電話勧誘販売における行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)に対するものである(特定商取引法第2条第1項参照)。その行為規制の中心は訪問・電話による勧誘行為にあり、その勧誘行為を実際に行っている事業者を行為規制の対象外とするべきではない。
 したがって、販売業者等から契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対して、特定商取引法上の訪問販売及び電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを条文上明示すべきである。
 連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引においては、「物品の販売(そのあっせんを含む)又は役務の提供(そのあっせんを含む)」と規定されており(特定商取引法第33条、第51条)、訪問販売及び電話勧誘販売においても、勧誘代行業者を利用することによる脱法行為が許されないことを条文上明らかにすべきである。
(4) 販売業者等の登録制
 訪問販売や電話勧誘販売は、実店舗が不要であることから、店舗販売と比べて新規参入の障壁が低く、信用力の低い事業者も参入が容易である。また、実店舗がないことから所在を転々として行為規制に違反する勧誘を行う事業を繰り返すことも可能である。
 そのため、訪問販売や電話勧誘販売についても店舗販売業者に準ずる信頼を確保するために事業者の登録制を採用すべきである。
 地方自治体においては、野洲市(滋賀県)が条例によって訪問販売事業者登録制度を2017年度(平成29年度)から実施しており、国によって同様の制度を実施することは困難ではない。
(5) テレビジョン放送等を利用して電話をかけさせる方法の追加
 大阪府下の消費生活センターによると、テレビジョン放送における通信販売の広告を見て、商品の購入を申し込みしようとして電話をかけたところ、テレビ放送における広告で紹介された商品について、送料等がかかるので他にお得な商品があると称して、広告で紹介された分量よりも多くの当該商品を購入する契約、購入回数を多数回とする当該商品を購入する契約、当該商品についての定期購入契約、及び広告と異なる商品を購入する契約などを勧誘され、当初、消費者が予想したものとは大きく異なる経済的負担を伴う契約を締結させられるという相談事案が増加している。
 この場合、消費者は、テレビジョン放送による広告とは異なる内容(単価、分量、購入回数、商品の種類等)の契約について勧誘を受けることになる。しかも「お得な商品」であることを強調したテレビジョン放送を見て購入意思を決定した消費者にとっては、事前に検討の余地がないにもかかわらず、より経済的負担の大きな内容の契約について勧誘を受けることになり、不意打ち性が強い。このような勧誘を受けることは、当該テレビジョン放送で伝えられていないから、消費者に対して「勧誘をするためのものであることを告げずに」電話をかけさせたものであると評価することができる。
このように、テレビジョン放送(テレビコマーシャルだけでなく、通販番組を含む)を見て消費者から電話をかけた場合についても、不意打ち的に望んでいなかった商品を購入する決断を迫られる場合は、電話勧誘販売と同様の問題点があるといえるから、特定商取引法施行令第2条第1項によって定める他の方法により消費者が電話をかけさせられた場合と同様に電話勧誘販売の規制を及ぼすべきである。そしてこのような問題は、テレビジョン放送に限らず、現在政令で定められていないラジオ放送やウェブページ等でも問題となっている。
 そこで、特定商取引法第2条第3項の「政令で定める方法」を規定する同法施行令第2条第1項を拡張し、テレビジョン放送等によって電話をかけさせる方法を追加すべきである。
なお、2022年(令和4年)11月30日に公表された政省令の改正案のうち、特定商取引法施行令第2条第1項は、特定商取引法第2条第3項の「電話をかけさせ」る「政令で定める方法」として、「ラジオ放送、テレビジョン放送、ウェブページ等(インターネットを利用した情報の閲覧の用に供される電磁的記録で主務省令で定めるもの又はその集合物)」を利用する方法を追加しており、本意見の内容に沿った改正案がパブリックコメントに付されている状況にある(案件番号235060024)。被害実態を踏まえ、上記政省令案を修正することなく成立させることを強く求める。
(6) 過量販売の規制の強化
ア 同種性の要件について
高齢者(認知症等を発症している若年者を含む)に対する着物の次々販売等、過量販売によるトラブルが引き続き多数問題となっている。大阪市消費者保護審議会があっせんを行った事例(令和2年度第1号案件)では、認知機能が低下した1人暮らしの高齢者に対して約8か月にわたり着物等を約3445万円分売りつけるという事例が発生している。同事例では、着物、帯等だけではなく、高額なバッグ、ジャケットや布団なども売りつけられており、親族が高齢者の自宅を訪れて大量の着物等を発見して、過量販売に気付いたものである。
 特定商取引法第9条の2第1項第2号においては、過去の契約の蓄積に加算すると過量となる場合に契約を締結することや、勧誘時にすでに過量となっている場合に契約を締結することを対象としているが、これらは同種の商品・特定権利・役務であることが要件となっている。しかし、上記事例のように、同一事業者が着物、帯等の和服の次々販売を行いながら、バッグやジャケット、布団といった消費者の必要としていない別種の商品を売りつけた場合に過量販売解除権の対象とならないのであれば、脱法行為を許すことになる。そこで、「同種」の要件について、広く解する必要がある。
また、例えば着物でも、振り袖、留め袖、訪問着、付下げ、小紋、紬、ゆかたなど、それぞれの格や特徴、着用シーンには違いがあるなどの理由から、現場では事業者が同種性を争う事案が少なくなく、健康食品においても同様の問題がある。したがって、同種性の要件について、被害実態をふまえた明確なガイドラインを直ちに規定することが必要である。 
イ 解除権の行使期間について
前記アの事例のように、1人暮らしの高齢者の被害の場合、親族が自宅を訪れて多量の商品を発見して初めて過量販売の被害にあったことが発覚することが多い。しかし、過量販売解除権の行使期間は当該契約の時から1年以内とされており(特定商取引法第9条の2第2項)、過量販売の被害が発覚した時点では既に行使期間が徒過していたり、期間満了が間近で行使が困難であることが多い。次々販売は、長期間にわたって継続して被害が発生する一方、被害の発覚には時間がかかるのが通常であること、前記事例を含め、裁判例では民法上の不法行為や公序良俗違反を理由とする判決が多く、違法性は重大であるにもかかわらず、契約解除権の行使期間が短すぎるために被害救済の法的手段として十分に機能していない実態が明らかになっている。
 以上のような問題点に鑑み、特定商取引法第9条の2第2項の行使期間は延長すべきである。

3 通信販売について
(1) インターネットを通じた勧誘、アクティブ広告の誘引による申込み、契約の行政規制、クーリング・オフ及び取消権の新設
ア 現状の規制
 特定商取引法の通信販売は、消費者がカタログを閲覧して申込みする形態や、インターネットで消費者が自らウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態が想定されていた。このため、訪問販売のような不意打ち性、密室性、攻撃性といった要素がないとされ、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務、業務提供誘引販売において定められた氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止等の行為規制が設けられていない。また、特定商取引法の類型の中で通信販売のみクーリング・オフ制度や不実告知による取消権といった民事上の規定もない。通信販売においては、返品制度はあるが、特約によって排除、変更することが可能である。
イ 規制の必要性
 近年、通信販売において急増している消費者のトラブルは、SNSを通じて消費者にメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たことを契機として、インターネットを通じて事業者や関係者から勧誘され、申込みに誘導されたりする例が多い。特にアクティブ広告(ターゲティング広告及びSNS等のインターネットを通じた積極的働きかけを伴う広告(2020年(令和2年)7月16日付日本弁護士連合会「インターネット通信販売における定期購入契約等の被害に対する規制強化を求める意見書」))に問題が多い。
 SNSによるメッセージや広告の表示は、消費者に突然一方的に表示される点で不意打ち性がある。スマートフォン、タブレット、パソコン等を利用した事業者と消費者の一対一での勧誘は密室性が高い。SNSでの繰り返しの勧誘や、動画の視聴による勧誘は、断られても勧誘を続ける訪問販売における不招請勧誘と同様の攻撃性がある。また、SNS等での勧誘は匿名性が高く、事業者や勧誘者の素性が不明であることが多い。SNS上でのやり取り、WEB上でのやりとり、無料通話アプリによる通話により契約が締結される場合、契約内容が不明確となりやすい。これらの点は従来想定されていた通信販売と異なり、訪問販売や電話勧誘販売との類似性が強く、これらの販売類型と同じ問題点があり、同様の規制が必要である。
ウ ターゲティング広告に対する規制の必要性
 アクティブ広告の中でも、特にターゲティング広告には以下のような問題がある。
ターゲティング広告は、検索・閲覧履歴やGPS情報等を利用して、趣味嗜好や行動範囲によってターゲットとする消費者を絞り込んだ上で当該広告によって即座に申込みをさせる意図のもとで提供される。その広告の内容は、「商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得る」ものであり(最高裁判所平成29年1月24日判決・民集71巻1号1頁)、広告から表示されたリンクから誘導された申込画面によって申込みをする場合、広告と申込みの意思表示との因果関係も明白である。したがって、ターゲティング広告による誘引は、消費者の契約締結の自主性を阻害するものであり、「勧誘」そのものである。
また、ターゲティング広告は、消費者が別の目的でスマートフォンの画面を見ている際に、消費者の意図によらず、突然割り込んで表示されるため、消費者は他の選択肢との比較検討をしないまま購入に至る点で、訪問販売等と同様の不意打ち性がある。さらに、ターゲティング広告は、「今だけ」「初回無料」等の購買意欲をそそる表現を繰り返し掲載することが可能であり、契約締結するか否かの冷静な判断を困難にするという点で訪問販売等と同様の攻撃性がある。
エ 新設すべき規制
 以上のような通信販売の問題点に鑑み、行為規制として、訪問販売等と同様の氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止、債務の履行拒否・不当な遅延の禁止、過量販売の禁止、顧客の知識・経験・財産状況に照らし不当な勧誘の禁止、契約書面に虚偽記載をさせる行為の禁止、金銭を得るための契約を締結させるための行為の禁止、消耗品の誘導開封の禁止等を設けるべきである。
 また、民事上の規定としても、訪問販売等と同様のクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を設けるべきである。
(2) インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権の新設
 通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、消費者が契約内容を十分に理解しないまま契約を締結することも少なくない。実際に役務の提供を受けてみると消費者が想定していた役務内容と異なっていたり、長期間の契約中に事情が変わり消費者にとって契約が不要となるなど、中途解約を可能とすることが必要となる場合がある。
 継続的契約の場合、消費者が高額な代金を負担している場合が多く、消費者は中途解約をする必要性が高いにもかかわらず、容易に解約できない、解約できるとしても高額な違約金を請求されるという問題がある。
 しかし、継続的契約について民法上明確な規定は存在せず、特定商取引法においても、特定継続的役務提供契約における指定役務についてしか中途解約の規定が存在しない。また、近年トラブルの多い定期購入契約についても、中途解約を認める規定が存在しない。
 以上のような問題点から、インターネット通信販売における継続的契約については、特定継続的役務提供と同様の中途解約権(理由を問わず将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を新設し、中途解約の場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。
(3) 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
 インターネット上の通信販売において、事業者がウェブサイト上で購入申込みを受け付けていながら、ウェブサイト上での解約を受付けていない場合がある。また、解約受付に際し、契約申込時以上の個人情報の証明資料等を要求する、期間内に電話でのみ解約を受け付けるとしながら電話がつながらず解約ができない、ウェブサイト上での解約手続が分かりにくい等、解約・返品を困難にさせているケースがある。
 以上のような問題点から、契約申込と同様の方法(ウェブサイト上での手続)による解約申出の方法を整備することを義務付けるべきである。
 また、解約・返品にあたり、新たに消費者の個人情報の証明資料を要求することを禁止すべきである。
 さらに、消費者からの解約申出に対する受付体制の整備義務、及び解約申出に対して迅速かつ適切に対応する体制の整備を義務付けるとともに、電話による解約を認める場合、消費者が解約期間内に架電したにもかかわらずつながらなかったことにより同期間が経過した場合、当該事業者が「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたとき」にあたるものとして、同期間内に解約の申出があったものとみなすこと(民法第97条第2項)を確認する規定を新設すべきである。
(4) インターネット広告画面に関する規制の強化
 インターネット広告画面の中には消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が、定期購入を中心に少なくない。特定商取引法第11条の広告表示義務においては、延々と画面のスクロールを要する場合であっても所要事項が広告のどこかに表示されていれば、広告自体に「著しい虚偽」又は「誇大」な表示がない限りは、同条の表示義務には違反していないと解される可能性がある。特に健康食品や化粧品については、商品の品質・効能につき「著しく優良であると誤認させるような広告」によるトラブルが多発しているが、誇大広告等の禁止に該当するための要件(同法第12条)が「著しく」と抽象的かつ不明確であり、事業者の脱法行為を規制できていない。
 特定商取引法2021年(令和3年)改正において、特定申込における申込画面での表示義務と、表示義務のある事項について人を誤認させるような表示が禁止されるとともに(同法第12条の6)、取消権(同法第15条の4)が新たに規定されたが、広告画面の表示については同様の改正規定は設けられなかった。
 以上のような問題点から、インターネット広告画面について、契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質等が優良であることとその打消し表示を、分離せず一体的に記載する義務を新設し、それに違反する表示を特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為(顧客の意思に反して申込みをさせようとする行為)に追加するとともに、禁止される表示例をガイドライン等で明確にすべきである。
 また、消費者に商品・役務について自主的合理的な選択の機会を確保するため、商品・役務に関して事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告表示を行わなければならないことを法令等で明確化すべきである。
(5) インターネットの表示を中止した場合の行政処分
 事業者が、特定商取引法の通信販売の広告の表示義務(同法第11条)、誇大広告の禁止(同法第12条)、特定申込を受ける際の表示義務(同法第12条の6)等に違反し、通信販売にかかる取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が侵害されるおそれがあると認めるとき、主務大臣は、指示等の行政処分を行うことができる(同法第14条第1項柱書、同法第15条第1項柱書)。
 しかし、インターネット上の表示は事業者が容易に中止・削除を行えるため、事業者が表示を中止・削除し「利益が害されるおそれ」が消滅したと反論することがある。また、いったん中止・削除した表示を事業者が再度表示することも容易であるから、表示を中止した場合に行政処分ができないとすれば、不当な広告表示等を抑止して消費者の利益を保護しようとする法の趣旨が没却される。
 上記のような問題点から、通信販売事業者が、インターネット広告や特定申込における申込画面の表示を中止した場合でも行政処分が可能であることを法令上明確化すべきである。
(6) インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存、開示、提供義務の新設
 インターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、広告画面及び申込画面に一定期間の定期購入契約であることなどの契約条件が適切に表示されていたか否かが問題となることが多い。また、インターネット上の動画を用いて広告・勧誘が行われるケースがある。
しかし、消費者が、事業者とトラブルになることを想定して広告・申込画面、広告・勧誘動画を保存しておくことは多くはなく、消費者が広告・申込画面や広告・勧誘動画の内容を立証することは困難である。
 一方、インターネット上の広告・申込画面は、変更・削除が極めて容易であるため、トラブルとなった時点で申込時の画面から変更されている場合も多く、事業者が適切な表示をしていた旨の反論がなされることがある。
 以上の問題点に鑑み、取消権等の実効性を確保するために、事業者に対して、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務を新設すべきである。同義務を認めても、広告・申込画面、広告・勧誘動画を保存・開示・提供することは事業者にとって容易であり過度な負担とはならない。
 また、インターネット通信販売においてはアフィリエイト広告等、事業者から委託を受けた者による広告・動画を見て購入に至る場合も多く、アフィリエイト広告・動画も上記義務の対象とするべきである。
(7) 連絡先不明の通販事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
 民事訴訟を提起するには、訴状に「当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所」を記載しなければならない(民事訴訟法第133条、民事訴訟規則第2条第1項第1号)。しかし、インターネット上で行われる勧誘ではSNS等を利用して匿名で行われることが少なくなく、相手方の特定が困難である。
ところが、通信販売における特定商取引法上の事業者の氏名・名称・住所・電話番号の表示義務は、「広告をするとき」に限られているため、個別の勧誘時に氏名・名称等の表示義務が及ぶかは文言上明らかではない。また、表示義務違反の行政処分の対象となるのは販売業者又は役務提供事業者に限られ、広告又は勧誘を行ったものが販売業者又は役務提供事業者から独立している場合は行政処分の対象にならない。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律は、発信者情報開示の対象となる権利侵害行為を、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信である「特定電子通信」(同法第2条第1項)に限定しており、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売による財産被害には同法の発信者情報開示制度は利用できず、結果的に、事業者の氏名等を特定できないことがほとんどである。
以上のような問題点に鑑み、特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとする立法措置を講ずるべきである。
(8) 適格消費者団体の差止請求権の拡充
 以上の点についての実効性を確保するために、適格消費者団体の差止請求権の対象として、通信販売業者による前記(1)において提案する取消権の対象となる行為、同(1)において提案するクーリング・オフや同(2)において提案する中途解約権を制限する特約や妨害行為、同(3)の解約等への受付体制整備義務に違反する行為、同(4)の広告規制等に違反する行為を追加すべきである。
 また、事業者が違反行為を中止した場合であっても、同種行為の再開のおそれがあるときは、前記(5)の行政処分のみならず、適格消費者団体による差止請求が可能であることを特定商取引法に明示すべきである。

4 連鎖販売取引について
(1) 連鎖販売業における開業規制の新設
ア 開業規制の必要性
 全国消費生活情報ネットワークシステム(PI0-NET)によるマルチ取引に関する消費生活相談の件数は、近年も毎年1万件以上あり、現状の規制では悪質なマルチ取引を抑止できていない。また、2020年度(令和2年度)の相談件数のうち49%を29歳以下が占めており、若年者がトラブルに遭う割合が増加している。
そして、近時は、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利益収受型の物品又は役務を対象に販売を拡大する手法としてマルチ取引を用いる、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。勧誘方法も、若年者を対象に、メールやSNS(コミュニケーションアプリ、マッチングアプリ)等インターネット上の匿名性の高いツールを利用したものが増加しており、組織の実態、中心人物や自分を勧誘した相手方の特定もできない等、被害回復が困難なケースが増えている。
従前から、金融商品取引業に該当する行為を無登録で行う金融商品取引法に違反するものや、実態が無限連鎖講の防止に関する法律に違反する金品配当組織であるようなものが、連鎖販売取引の手法を用いて被害を拡大させるケースも繰り返されている。
また、連鎖販売取引においては、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり、取引が継続することが想定されることから、連鎖販売取引業者においては、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取引商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルを生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められる。
上記のような被害を防止し、連鎖販売業者における適切な体制整備を担保するため、事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性、適正性等を行政庁が事前に審査する手続を経た場合にのみ取引を行うことができるものとする開業規制を新設すべきである。
イ 開業規制の内容
 連鎖販売取引の開業規制を導入する際の法制度としては、登録や事前確認制度等により、集団投資スキーム等の金融商品取引業に該当する行為を無登録で行うといった金融商品取引法違反など取扱商品・役務の取引が違法であるおそれがあるときや、そもそも適正なリスク告知がなされることが想定困難で取引が適正に行われないおそれがあるときは登録等を拒否するものとして連鎖販売取引の適法性・適正性が確保されるような仕組みとすることが必要である。
 開業審査は、統括者がその連鎖販売業について申請する義務を負い、開業審査を経た連鎖販売業についてのみ広告、勧誘、契約の締結をできるものとすべきである。
 連鎖販売業の適法性、適正性を確保するため、事前審査の内容には、取り扱う物品又は役務の内容及び価額、特定利益の計算方法等を含め、その後も取り扱う物品又は役務の内容及び価額、特定利益の計算方法等を変更するときは、事前に審査を要するものとするとともに、連鎖販売業を継続することについて一定期間ごとに更新審査を要するものとすべきである。
ウ 開業規制事務の主務官庁
 連鎖販売取引は、加入者が新規加入者を次々と勧誘し組織を拡大する性質であること、インターネットを利用した勧誘手法が広がっていることから、加入者が全国的に広がることが予想される。したがって、連鎖販売取引に関する開業規制の事務を担う行政機関は国とすべきである。
エ 開業規制の実効性確保
 開業規制の実効性確保のため、開業規制に違反して連鎖販売取引を行った事業者は、刑事罰の対象とするとともに、当該取引の相手方は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
(2) 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
ア 規制の必要性
 特定商取引法における連鎖販売取引の要件は、「特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすること」と規定されている(同法第33条第1項)。しかし、近時、物品販売等の契約(以下「先行する契約」という。)を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」という。)のトラブルが増えている。
 後出しマルチでは、大学生等の若者に対し、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタントサポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされることが多い。契約者は、容易に利益が得られるかのような勧誘によって、借入れをしてまで契約を締結したものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られず、借入金の返済に窮した状態で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益を得られると勧誘されてマルチ取引に参加し、十分な知識を有していないのに自らが陥れられたときと同様の説明をして新規契約者の勧誘をし、被害が拡大するという不当勧誘行為を連鎖させる構造にあり、このような脱法的な後出しマルチを規制すべきである。
イ 新設すべき規制
 以上の問題点に鑑み、特定商取引法第33条第1項を改正して、特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的としながら、特定負担に係る契約を締結することを明確に連鎖販売取引の一類型として整理し、同取引にかかる規制を及ぼす必要がある。
(3) 不適合者に対する紹介利益提供の勧誘の禁止
ア 先行する契約の相手方が22歳以下の者である場合
 22歳以下の者は、成人であっても学生であったり、就労していてもその年数が浅いなど社会的経験が乏しく、これらの者のマルチ取引によるトラブルも多く発生している。そのため、かかる者との間のマルチ取引は適合性原則に違反するものであり、事後的な紹介利益提供の勧誘等も禁止すべきである。
イ 先行する契約の相手方が投資等の利益収受型の取引契約を締結した者である場合
 後出し型連鎖販売取引の項(前記4(2)ア)において述べたとおり、利益収受型取引の相手方に対して後出しで紹介利益の収受を勧誘することは、不当勧誘行為を連鎖させる構造にあり、不適正な勧誘が繰り返されていくことにつながるおそれが大きく、紹介利益提供の勧誘等は禁止すべきである。
ウ 先行する契約の相手方が当該契約の対価に係る債務(その支払いのための借入金、クレジット等の返済)を負担している者である場合
 先行する物品販売等の契約に基づく債務を負担している者は、その支払いを行わなければならない状況にあるため、勧誘するにあたり、不実告知や断定的判断の提供、強引な勧誘をする等の不適正な販売方法を引き起こすおそれが大きいことから、かかる者に対する紹介利益提供の勧誘は禁止すべきである。
(4) 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
 連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種であり、また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から「必ず儲かる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認による契約を招くおそれが大きい。
 そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額及び中央値の額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、これらの概要書面及び契約書面への記載も義務付けるべきである。
 この点、2022年(令和4年)7月14日付日本弁護士連合会「特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書」では、③について加入者が収受した特定利益(年収)の平均額となっているが、平均額では特定利益の多い一部の上位者の影響により実態とかけ離れた額となるおそれがあることから、特定利益(年収)の中央値の額も加えるべきである。
(5) 連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設
 同様の理由から、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均額及び中央値の額を概要書面及び契約書面に記載することを義務付けるとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。

5 特定継続的役務提供について
(1) アフターサービスと称する無料サービス等を誘引手段とする役務提供契約の規制
近時、脱毛等で一定回数あるいは一定期間の役務提供終了後にアフターサービスと称して無料又は通常の単価より著しく安い価格で本来的役務と同等の役務提供を長期間あるいは永久に受けられることを強調して消費者を勧誘し、特定継続的役務提供契約を締結させる事案が多くみられる。
このような事案において、一定回数あるいは一定期間の役務提供終了後に、事業者がアフターサービスと称する役務提供の単価や条件を一方的に高額に変更したり、アフターサービスの内容自体を一方的に変更(エステティシャンによる施術を内容とするものから、機械を貸与したセルフサービスに変更するなど)したりするなどして消費者との間でトラブルになる事案が急増している。
上記のようなアフターサービスは、契約の勧誘を受ける消費者にとっては、本来の提供役務と異ならない役務を、無料又は廉価で多数回、提供されるという内容であることから、契約を締結するかどうかの意思決定に大きく影響する。しかるに、役務提供事業者側は、後にこの内容を消費者の承諾を得ることなく一方的に変更しつつ、消費者からの苦情に対し、アフターサービスは本来の契約の内容ではなく単なるサービスにすぎないなどと主張してその変更を正当化し、アフターサービスを受ける地位を失った(又はその地位を著しく減殺された)消費者側の不利益や損害に対する補償を一切行おうとしないものが前記のトラブル事案で数多く見受けられている。
しかしながら、事業者においては役務提供契約締結時の対価の算出時において、無料又は廉価で多数回提供すると称する役務を含めて利益が出るように計算していることは当然であり、消費者側から無料又は廉価と見える部分について、特定継続的役務の規制が及ばないと考えることは誤りである。
さらにアフターサービスを一定程度実施した後にアフターサービスの変更を行うなどする事案がみられるが、前述のとおり、事業者においては、提供する役務をすべて対価の対象として算出しているにもかかわらず、役務について有償部分、無料部分ないし廉価部分をことさらに分断する説明は「不実の告知」に該当するというべきである。
 また、消費者がアフターサービスの不履行の被害に気付くのは、有償部分として契約された役務提供期間の終了後であるため、被害を訴えることが難しい立場に置かれ、中途解約権による救済も諦めざるを得ない傾向にある。
 さらに、役務提供事業者の主張する有償役務部分、無料ないし廉価役務部分の峻別を許すと、受けられなくなったアフターサービスの価格や、内容の一方的な変更によって消費者が被る損害についての算定、立証が極めて困難であることから、消費者が一般法による被害救済を受けられないおそれもある。
この点、現行ガイドラインは、特定継続的役務の定義にかかる特定商取引法第41条第1項の「政令で定める金額を超える金銭」について、「役務の提供に際し購入しなければならない商品がある場合には当該商品の対価も含めた額をもって政令で定める金額(5万円)を超えているか判断するものである。
したがって、役務提供の対価の部分は無料と称していても、抱き合わせで販売される商品等の価額と合計した額が政令で定める額を超えていれば、これに該当するものである。」と定めている(2021年(令和3年)6月29日付通達、消費者庁取引対策課、経済産業省商務・サービスグループ消費経済企画室編特定商取引に関する法律の解説平成28年版と同内容)。
かかるガイドラインの考え方を敷衍するならば、提供する役務について、有償部分、無料(ないし廉価)部分を設ける形で役務提供が行われる場合であっても、有償部分と無料(ないし廉価)部分の提供価額の合計額が政令で定める額を超えていれば、全体として一個の役務提供契約として、契約内容の告知、中途解約清算、役務の提供義務の存否等を判断すべきものと考えられる。
 以上のような問題に鑑み、一定回数あるいは一定期間の役務提供契約に付随してアフターサービスと称する安価又は無料の本来的役務と同等の役務提供が契約の内容となっている場合には、アフターサービスと称する役務提供も、契約内容の一部であることを明確化するとともに、事業者によって一方的にアフターサービスの役務提供の単価、内容等を変更することができないことを確認する形でガイドラインに明確に定めるとともに、事業者が一方的な変更を行った場合の損害賠償額の算定方法、中途解約時の清算方法等もガイドライン等に明記すべきである。
(2) 関連商品の明確化
特定継続的役務提供における関連商品は、役務の提供に際し、役務の提供を受けようとする者が購入する必要のある商品であって政令で定める商品(特定商取引法第48条第2項、同法施行令第14条、別表第五)であるが、役務の提供を受けるにあたって必ずしも購入する必要がないいわゆる「推奨品」はこれに含まれないとされている。「関連商品」と「推奨品」の区別は、「①商品販売時に当該商品の購入が必要である旨の説明がなされているか、②必要である旨の説明がなされていない場合においては商品と役務との関連性(一体性)で実質的に判断される。」とされている(2021年(令和3年)6月29日付通達、消費者庁取引対策課、経済産業省商務・サービスグループ消費経済企画室編特定商取引に関する法律の解説平成28年版と同内容)。
 しかし、事業者は、「推奨品」と言いつつ役務提供契約がなければおよそ使い道のない商品を消費者に購入させながら、「推奨品」であると告げたことによって、実質的には関連商品と評価されるべき商品についてクーリング・オフを拒む結果、消費者の手元に使い道のない商品が残り、被害が回復されないというトラブル事例が多い。
 以上のような問題に鑑み、「関連商品」か否かは、商品と役務の関連性(一体性)で実質的に判断されることのみならず、「推奨品」と告げるだけでは「関連商品」に該当しないことにはならないことを通達などにより明確にすべきである。

以上

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