出入国管理及び難民認定法改定案再提出に反対する会長声明

出入国管理及び難民認定法改定案再提出に反対する会長声明

 政府が1月23日召集の通常国会に出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)の改定案を提出する方針であると報道されている。この改定案は、2021年(令和3年)の通常国会で世論の強い反対を受け、廃案となった旧政府提出法案(以下「旧政府案」という)と骨格がほぼ同じだと報道されている。現時点で維持されると報じられている旧政府案の内容は、①送還停止効の制限、②監理措置制度の創設、③仮放免逃走罪や退去命令違反罪など罰則の創設、等である。
 当会は、旧政府案に先立つ「収容・送還に関する専門部会」の提言や旧政府案について、2020年(令和2年)8月4日及び2021年(令和3年)4月30日に、その問題点を指摘し、廃案を求める会長声明を出しているところ、旧政府案における問題点が解消されないまま再び同内容の法案が提出されることに強く反対する。
 ①改定案においては、難民認定制度について抜本的な改革をしないまま、3回以上の難民認定申請者等の送還が原則可能となる。日本の難民認定率の低さは、国際社会からもその問題点を指摘されているところ、その制度不備を直さないまま、難民認定申請者の強制送還を可能にすることは、迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じるノン・ルフールマン原則(難民条約第33条第1項)に反するものである。
 ②改定案で創設される「収容に代わる監理措置」制度は、司法審査を経ることなく出入国在留管理局(以下「入管」という)自らが収容の必要性を判断するという根本的な問題を抱える現行制度の枠組みを維持したままである。しかも、収容期間の上限設定は改定案に取り入れられないと報じられている。そもそも、旧政府案の監理措置制度に関する法文は、収容を解かれるのが例外的な裁量判断とされており、人身の自由(憲法第18条)の保障が原則となっていない。このような司法審査や収容期間の上限を定めないまま監理措置制度を導入しても、何ら現行の収容制度が抱える問題の解決にならない。
 ③改定案で創設される仮放免逃走罪や退去命令違反罪などは、罰則の導入によって、入管の権限を強化しようとしているが、生活に困窮する仮放免者や帰国できない事情を抱えた人々を「犯罪者」とすることは、憲法及び国際人権法に照らし、誤りであることは明らかである。そもそも、そのような境遇にある人々を「犯罪者」とすることで、長期収容の回避や送還の促進が果たされることはあり得ず、本来の立法目的との関係での実効性はない。また、この罰則の創設は、在留資格のない外国人を支援する者や事件を担当する弁護士が共犯(刑法第60条乃至第62条)として処罰される可能性があり、それらの者に対する萎縮効果も含め、人権擁護の観点から到底看過できない。
 以上のような諸点が批判された旧政府案が廃案になった後も、人権の見地から現状の入管行政の変更を求める動きがさらに相次いでいる。
 特に、2021年(令和3年)9月22日、東京高等裁判所は、難民不認定処分に対する異議申立ての棄却告知の翌日に行われたチャーター便による一斉送還について、「憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反する」と判示し、国に賠償を命じた。
 また、2022年(令和4年)11月3日には、国連自由権規約委員会が、その総括所見において、国際基準に則った包括的な難民保護法制の採用や仮放免中の移民に対する必要な支援等の検討、収容期間の上限導入、収容についての実効的な司法審査の導入等を勧告した。
 この他にも、入管の収容、送還等の違法性を追及する重要な訴訟が各地で相次いでいる。
 しかし、この度再提出される改定案の内容は、この間の国際的な批判や日本国内の市民の動きに反し、入管の権限及び裁量を強化しようとするものである。このままでは、入管によって、条約上及び憲法上保障されている権利を侵害される犠牲者が後を絶たないであろうことが強く危惧される。
 当会は、今国会での入管法改定案の再提出に強い反対の意思を表明するとともに、国際人権に根ざした真の制度改革及び入管体制の構築がなされるよう求める。

2023年(令和5年)2月1日
          大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次

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