「谷間世代」への一律給付の立法措置を求める会長声明

「谷間世代」への一律給付の立法措置を求める会長声明

1 当会は、2022年(令和4年)9月7日に「『谷間世代』への一律給付実現を求める会長声明」を発し、新第65期から第70期の6年間の司法修習だけが無給で行われ、公的な手当てがされないまま放置されている制度的不備があることから、国による谷間世代の法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付を実現することを求めた。当会、全国の弁護士会及び日本弁護士連合会で、谷間世代の法曹への一律給付の立法措置を求めて国会議員への要請活動に継続的に取り組んできた中で、この度、本年3月9日時点で、国会議員総数(713名)の過半数を超える370名からの応援メッセージを得るに至った。そこで、当会は、あらためて「谷間世代」への一律給付の立法措置を強く求めるものである。

2 そもそも、国の三権の一翼である司法を担う法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)は、その使命の重要性や公共性に鑑み、国の責任で法曹を養成するため、1947年(昭和22年)に統一司法修習制度が発足し、同時に国家公務員に準じた給与が支払われる「給費制」が採用された。
 しかし、2002年(平成14年)司法試験合格者3000人目標の政府方針により財源不足が見込まれたため、2011年(平成23年)11月改正裁判所法施行により給費制は廃止された。同時に、申請により司法修習13か月間の生活費を貸し付ける「貸与制」が導入された。その結果、新第65期から第70期の司法修習生は、大学・法科大学院等で奨学金債務を負う者も多い上に、さらに7割を超える者が約300万円の貸与金債務を負った。貸与を受けなかった者も、親族の援助や貯蓄を取り崩すなど経済的負担を余儀なくされた。2013年(平成25年)には司法試験合格者3000人目標の政府方針は撤回されたが、給費制は復活されなかった。
 そこで、日本弁護士連合会及び当会を含む全国の弁護士会が給費制復活を求めて様々な活動をした結果、法曹養成過程における経済的負担の重さが法曹への道を断念させる一因となって法曹志望者が経年的に減少する事態が生じていることもあいまって、給費制廃止が見直され、2017年(平成29年)4月裁判所法改正によって新たな修習給付金制度が創設された。

3 しかし、新第65期から第70期までの司法修習修了者が、かつての給費制世代と新しい修習給付金世代の「谷間」におかれ、放置される制度的不備が生じ、それに対する国による手当は未だになされていない。法曹は、国民の権利・利益を擁護する国の司法権を担っている。司法修習制度は、司法がその役割を十全に果たすために基礎的かつ重要な制度であり、一時的に公費による養成が途絶えたという制度的不備は、修復されなければならない。
 また、「谷間世代」は、6年間で約1万1千人、全法曹の約4分の1を占めている。現在、法曹経験6年目から11年目に該当し、その能力を発揮して公共的使命を果たすことが大いに期待されている。
 特に弁護士は、これまでも在野法曹の立場から人権課題にも積極的に取り組み、時に報酬を度外視しても献身的に、社会的経済的弱者に寄り添って、社会全体を下支えしてきた。「谷間世代」弁護士も、様々な分野で活動しているが、司法修習時代に経済的・精神的負担を負い、しかも弁護士人口急増時代に厳しい就職状況にあった。そうした状況では、経済的負担への将来にわたる不安感、無給制(貸与制)自体への不条理感、「谷間」の状況への不公平感などが解消されることがなく、人権擁護など社会的経済的弱者のために活動する余裕や意欲を維持するのが困難となりかねない。このような経済的・精神的足かせによって、能力ある「谷間世代」の活躍が阻害されかねない状況が生じていることは、大きな社会的損失である。

4 2019年(令和元年)5月30日に名古屋高等裁判所が言い渡した給費制廃止違憲訴訟判決においても「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならない」、「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と判示され、最終的には「立法府に委ねざるを得ない」とされた。

5 今こそ、当会は、立法府が国による谷間世代の法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付を実現されることを強く求めるものである。

2023年(令和5年)3月27日
          大阪弁護士会      
          会長 福 田 健 次

ページトップへ
ページトップへ