行政に対する司法のチェック機能を後退させた大阪高裁判決に抗議し、改めて生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

行政に対する司法のチェック機能を後退させた大阪高裁判決に抗議し、改めて生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

 2023年(令和5年)4月14日、大阪高等裁判所第1民事部は、2013年(平成25年)8月以降に国が実施した生活保護基準の引下げ(以下「本件引下げ」という。)は生存権保障を具体化した生活保護法に反するなどとして、大阪府内の生活保護利用者らが保護費減額決定の取消しなどを求めた訴訟の控訴審で、同決定を違法として取り消した一審大阪地裁判決の判断を覆す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
 本件引下げの違法性を争う訴訟は、これまで全国29か所の地方裁判所に提起されたが、2021年(令和3年)2月になされた上記大阪地裁判決を皮切りに、熊本地裁、東京地裁、横浜地裁、宮崎地裁、青森地裁、和歌山地裁、さいたま地裁、奈良地裁において、生活保護利用者である原告らの取消請求が認容されている。
 上記大阪地裁判決を含むこれらの判決(但し、さいたま地裁判決を除く)は、社会保障審議会生活保護基準部会の検証を経ないで実施された「デフレ調整」に関する厚生労働大臣の判断につき、統計等の客観的数値等との合理的関連性や、専門的知見との整合性の有無を詳細に検討し、生活保護法の定める健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を具体的に保障するという視点から、裁量権の逸脱又はその濫用があるとした点において共通するものであった。
 ところが、本判決は、上記基準部会による検証について「あくまで厚生労働大臣の判断の合理性を担保する手段」に過ぎないと位置づけ、最高裁判所が、老齢加算廃止訴訟判決(平成24年2月28日判決及び同年4月2日判決)において求めた「専門的知見との整合性」の審査についても「確立した専門的知見との矛盾が認められる場合」に限って、専門的知見との整合性が欠けると判断すべきという独自の高いハードルを加え、厚生労働大臣の裁量権を広範に認めた上、本件引下げの理由として国が説明するところを、「一応合理的」「一定の合理性」「それなりの合理性」というような緩やかな指標で追認し、本件引下げを適法であると判断した。
 本判決は、司法に期待されている行政へのチェック機能を積極的に発揮する方向に転換してきた一連の地裁判決の流れに、再び水を差して消極的な姿勢を打ち出したもので、司法に救済を求める少数者の人権擁護という職責を放棄し、国民の司法への期待や信頼を損なうものと評価せざるを得ない。
 また、本判決は、生活保護利用者である第1審原告らの生活実態について、少額の保護費の減額であっても生活に対する影響が極めて大きい、親族や知人との交流を断念せざるを得ないなどの窮状に陥り多大な苦痛を感じていることを容易に理解できるなどとしながら、そのような生活環境の悪化による苦痛は、リーマンショック後の経済状況の悪化の中で国民の多くが感じた苦痛と同質のものであるとした。
 しかし、当会がこれまで述べてきた通り(2017年(平成29年)12月18日「生活保護基準引き下げ見送りを強く求める会長声明」等)、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であり、最低賃金、地方税の非課税基準、各種社会保障制度の保険料や一部負担金の減免基準、就労援助などの諸制度とも連動している。生活保護基準の引き下げは、生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに、生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすものであって、上記のように生活保護利用者の苦境を正面から受け止めない本判決は、ナショナルミニマムとしての生活保護基準の意義を軽視するものと評価せざるを得ない。
 新型コロナウイルス感染症拡大により生活困窮世帯が急増し、最後のセーフティネットである生活保護制度の重要性が再認識されているが、この間の物価高騰で市民生活は疲弊し、生活保護世帯の生活にも重大な影響を与えており、生活保護基準の見直しは喫緊の課題である。
 当会は、国に対し、早急に現在の生活保護基準を見直し、2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻すことを求める。

2023年(令和5年)4月20日
          大阪弁護士会      
          会長 三 木 秀 夫

ページトップへ
ページトップへ