「袴田事件」の速やかな再審公判の開始及び袴田巌氏に対する無罪判決を求める会長声明

「袴田事件」の速やかな再審公判の開始及び袴田巌氏に対する無罪判決を求める会長声明

 東京高等裁判所第2刑事部は、本年3月13日、いわゆる「袴田事件」の第2次再審請求における差戻後の即時抗告審において、再審開始を認めた静岡地方裁判所の決定(2014年(平成26年)3月27日付け決定、以下「原決定」という。)を支持して、検察官の即時抗告を棄却する決定をした(以下「本決定」という。)。
 本決定をうけて、当会においても、即日、「『袴田事件』の即時抗告棄却・再審開始維持決定に関し、検察官に特別抗告しないことを求める会長声明」を発出し、検察官に特別抗告しないよう求めていたところである。その後、検察官が特別抗告を断念し、再審開始が確定した。
 そこで、当会としては、改めて、速やかに再審公判が開始され、袴田巖氏に対する無罪判決が一刻も早く出されることを強く求める。

1 「袴田事件」の概要及び審理経過は、上記会長声明で述べた通りである。1966年(昭和41年)8月18日に逮捕された袴田巌氏は、原決定及び死刑の執行・拘置の停止の決定がなされるまで48年にもわたり、死と隣合わせの恐怖の中、身体拘束を受け続けてきた。そして、検察官の原決定に対する即時抗告により再審開始決定が取り消されてから本決定により再審開始確定に至るまで、さらに9年もの期間が徒らに費やされた。

2 本件においては、いわゆる「5点の衣類」が本件の犯行着衣であり、これが袴田巌氏のものであるとの第一審の認定について、原決定の即時抗告審以降も、激しく争われてきており、再審請求手続きにおいて検察官と請求人の双方が鑑定書を提出するなど、主張立証が重ねられてきた。特に「5点の衣類」の血痕に関する疑問点については、既に最高裁判所の判断を経て、差戻審において審理すべき点が具体的に示され、本決定も、これを踏まえて実施した事実取調べの決定に基づき、原審において請求人により提出されたみそ漬け実験報告書等の新証拠を、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するとして、原決定を維持したものである。

3 一般に、再審公判での有罪主張が可能である以上、検察官による再審開始決定に対する不服申立ては許されるべきではないが、極めて長期間に及んだ本件の審理経過に照らせば、本件における争点についての実質的な審理は、再審請求手続きの段階で既に尽くされているというほかなく、もはや新たな有罪立証を行うことは無意味であり、時間を浪費するものというほかない。それにもかかわらず、報道によれば、検察官は、本年4月10日に開かれた三者協議の場において、再審公判における立証方針を決定するために3か月を要するとして、明確な方針を表明していないとのことである。袴田巌氏が高齢であることやその心身への負担に鑑みれば、検察官が、これ以上、徒らに再審公判の審理を遅延させることは、著しく正義に反するものと断ぜざるをえない。
 よって、当会は、速やかに再審公判を開始するとともに、袴田巖氏に対する無罪判決が一刻も早く出されることを強く求める。

4 当会は、今後も袴田巖氏が無罪となるための支援を続けるとともに、本年3月7日に開催した総会で採択した「えん罪被害者の速やかな救済実現のための再審法改正を求める決議」で示したように、現行刑訴法「第6編 再審」に関し、少なくとも、全面証拠開示を原則とする証拠開示制度の新設、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を内容とする改正を求めるほか、えん罪の防止・救済のための刑事司法改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。

以上


2023年(令和5年)4月28日
          大阪弁護士会      
          会長 三 木 秀 夫

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