「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明

「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明

 2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を発表した。
 対応方針は、2023年6月に改定された入管法(以下「改定入管法」という。)の施行時までに日本で出生して小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活していくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与えるとしている。
 これまで、日本で教育を受けた在留資格のない子どもについては、親の送還と引き換えに在留特別許可が付与されてきた従前の扱いに比較すると、今回の対応方針は、それが示す範囲では、家族一体として在留資格を与えるものであり、その点は評価しうる。
 しかし、対応方針は、以下の点において重大な問題があり、是正される必要がある。 

 第一に、対応方針は、子どもが「本邦で出生して」いることを要件としている。
 しかし、日本で出生していなくとも、小学校、中学校又は高校等で教育を受けている子どもたちなどは、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)の観点からみれば、在留資格が与えられるべきことに変わりはない。子どもが日本生まれかどうかで区別せずに在留資格が与えられるべきである。
 また、対応方針では、既に成人に達した者は対象から外れているが、これも不合理であり、同様に在留資格が与えられるべきである。

 第二に、対応方針は、親が入国・上陸の際に不法入国・不法上陸であったなど、「親に看過し難い消極事情がある場合」は対象外としている。
 しかし、子どもは親とは別個の独立した人格であり、子どもについては、子自身が日本で生活していくことを望むのであれば、親の事情に関わらず在留資格が与えられるべきである。その上で、親だけを送還するか否かについては、家族結合権(自由権規約17条及び23条)の保障や比例原則に照らし、親の消極事情が家族分離を正当化するほどのものであるかという観点から慎重に判断されるべきである。

 第三に、対応方針は、その措置を今回限りのものとしている。その理由として、改定入管法の成立により、庇護すべき者は適切に庇護する一方、送還すべき者は迅速に送還することが可能になる結果、在留資格のないまま在留が長期化する子どもの増加を抑止することが可能となったと述べている。
 しかし、改定入管法については、当会がその成立の際にも指摘したように問題があり(2023年6月9日付会長声明)、改定入管法では、庇護すべき者を適切に庇護することはできない。また、日本で教育を受けて育ちながら在留資格のない子どもが増加した背景には、難民保護のあり方の問題だけでなく、日本における外国人労働者の受け入れのあり方の問題があり、その根底には、外国人労働者を「必要なときだけ日本にいて欲しい」便利な労働力としてしか見ない考え方がある。そのような考えを是正するとともに、問題のある入管制度を改めない限り、今後も、自らではどうすることもできない事情により在留資格のない子どもたちが生じることは必至である。
 「子どもの最善の利益」や「家族結合権」の保障として子どもとその家族に在留資格を与えるべき要請は、日本が加入している条約の規定に基づくものである。対応方針が、その措置を「今回限り」とするのは暴論であり、到底許されない。

 在留資格のないまま日本で生活する子どもたちは、入管法による規制の下、県外移動に当局の許可が要るとの仮放免条件が障壁となって友達と他県へ一緒に遊びに行くこともできず、アルバイト等の就労もできず、健康保険を使っての医療を受けることもできず、家賃や授業料の支払いにも困窮する家庭生活の中で、背負いきれないほどの苦しみを抱え続けている。一日も早くこのような窮状から解放し、子どもたちが夢を抱きながら成長できる途を開くべきである。
 
 当会は、全ての子どもの基本的人権が尊重されるよう、対応方針に掲げられた場合に限定せず、日本で育った全ての子どもとその家族に対し、積極的に在留資格が付与されるよう求める。

2023年(令和5年)9月14日
          大阪弁護士会      
          会長 三 木 秀 夫

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