水俣病問題の全面解決を求める会長声明

水俣病問題の全面解決を求める会長声明

 本年9月27日、大阪地方裁判所は、かつて熊本県内や鹿児島県内の不知火海一円に居住し、日常的に不知火海産の魚介類を摂食していたために水俣病に罹患したとして、国、熊本県及びチッソ株式会社に対して損害賠償請求を求めていた集団訴訟について、原告128名全員の請求を認容する判決を言い渡した。
 原告らは、当初の居住地から大阪府などの西日本や中部地方に移住していた人々で、症状が出たときに地元を離れていたことから、症状に苦しみながら医療機関を受診しても原因不明とされ、水俣病被害者であることさえ知ることができずにいた方や、また水俣病との診断を受けていても「公害健康被害の補償等に関する法律」(以下「公健法」という。)による救済を受けることができず、さらに水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(以下「水俣病特措法」という。)の救済も、同法の定めた「地域」や「年代」による救済枠にはまらず受けることのできなかった方々である。
 特に、水俣病特措法は、2009年(平成21年)に「水俣病被害者を救済し、及び水俣病問題の最終解決をすること」等を目的として成立し、2010年(平成22年)5月に受付開始されたが、2012年(平成24年)7月31日に受付が終了されてしまっていて、その申請に間に合わなかったり、締め切り後に水俣病の疑いが生じたりしたケースもあった。
 また、公健法に基づく認定者は約3000人(新潟水俣病を除けば2300人弱)にとどまっていることから、救済を求めて同法についての水俣病認定義務付け訴訟や国家賠償訴訟が提起されているが、近年の裁判例においては、原告らの症状と水俣病の原因とされるメチル水銀との因果関係が明らかでないなどの理由で、いずれも被害者が救済されず、水俣病被害者の救済は閉ざされた状況となっている。
 このような中、公健法による救済も水俣病特措法による救済も受けることができなかった原告について、水俣病であると認定し、国、熊本県及びチッソ株式会社の賠償責任を認めた本判決は、これまで正当な賠償を受けることができずに取り残されてきた被害者の存在を確認し、国及び熊本県が実施してきた公健法や水俣病特措法による救済策が不十分であったことを明らかにしたものである。また、本判決は、不法行為から20年が経過等すれば損害賠償請求ができなくなるという被告らの除斥期間の主張を排斥して、原告らの請求を認めたが、これは正義と公正の観点から、水俣病被害者の甚大な長期にわたる被害の救済の必要性に正面から応えたものである。 
 本判決が明らかにしたように、水俣病問題は、1956年(昭和31年)5月の「公式発見」から67年も経過しているにもかかわらず、今なお解決していない。長期に渡って救済を受けられず、辛い立場に置かれてきた水俣病被害者らの状況を考えれば、この問題をこれ以上放置することは、到底許容できない。
 当会は、国、熊本県及びチッソ株式会社が、本判決を厳粛に受け止め、これ以上の係争をやめて、一日も早く水俣病問題を全面的に解決するために、最大限の努力を払われることを強く求める。

2023年(令和5年)10月5日
          大阪弁護士会      
          会長 三 木 秀 夫

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