調停委員の採用から外国籍者を除外する運用の改善を求める会長声明

調停委員の採用から外国籍者を除外する運用の改善を求める会長声明

 2023年(令和5年)9月26日付けで当会が推薦した家事調停委員候補者についても、45名のうち韓国籍の会員1名のみが任命上申されず採用されなかった。
 これまで30年もの間、当会を含む各地の弁護士会において裁判所から依頼を受けて調停委員の候補者として推薦した弁護士につき、最高裁判所への任命上申が、外国籍であることを理由として拒否されたと解される取扱いが繰り返されてきた。これにつき、当会としては、外国籍の弁護士が日本国籍を有しないというだけで調停委員に採用されないことの不当性を繰り返し訴え、再三にわたり改善を求めてきたにもかかわらず、この度も同様の取扱いがなされたことは極めて遺憾であり、強く抗議するものである。

 そもそも、法律上、調停委員の資格要件や欠格事由として国籍に関する規定は存在しない。
 調停委員の職務は、裁判官のように公権的判断を行うことではなく、当事者双方の話合いの中で法律的な観点からの助言や斡旋、解決案の提示を行い、合意を促して紛争の解決にあたるというものである。そうした職務内容に照らしても、調停委員として採用するか否かの判断において、外国籍であることを消極的に評価すべき理由はない。
 むしろ、大阪を含め全国各地で現に多くの外国籍者が生活していることからすれば、外国籍の調停委員が関与することにより、実情に即した合意・解決に向かうと期待できる紛争も少なくない。現に過去には外国籍の当会会員が調停委員として任命され、紛争解決に尽力した実例もある。
 これらからすれば、外国籍というだけで調停委員として不採用とすることには、まったく合理性がない。国籍を理由とする不合理な差別であり、憲法14条、自由権規約第26条及び人種差別撤廃条約第5条の平等原則に違反する。

 このように調停委員の採用に関し国籍による差別が継続している状況については、国連人種差別撤廃委員会によって、2010年(平成22年)、2014年(平成26年)及び2018年(平成30年)の3度にわたり懸念が表明され、その見直しが勧告されている。
 これら勧告に加え、現在、日本では外国人材の受入れ促進、共生社会の実現に向けた施策が推進されており、政府の関係閣僚会議が決定した「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和5年度改訂)」においては、共生社会の基盤整備に向けた取組みとして「共生社会の実現に向けた意識醸成」や「我が国社会の構成員として外国人への期待も高まりつつあることから、社会参加に意欲を持つ外国人に活躍の場を広げていくこと」が掲げられている。
 それに対し、大阪家庭裁判所、あるいは最高裁判所によって行われている調停委員の採用から外国籍者を除外する現在の運用は、外国籍者に対する不合理な差別にとどまらず、外国籍者の活躍の場を狭めるもので、共生社会実現を阻害するものと言わざるを得ない。
 かかる現在の運用は、日本に在留する外国籍者が年々増加し、外国籍者に対する紛争解決手段を充実させる必要性が高じていることに鑑みると、政府を含む日本社会全体の動きと照らして極めて遅れた古い観念にとらわれたものと言え、直ちに改善されるべきである。

 以上のとおり、当会は、調停委員の採用にあたり、外国籍者を差別する運用が長期にわたり行われてきて、この度も当会の韓国籍会員が任命上申されず家事調停委員の採用から除外されたことに強く抗議するとともに、大阪家庭裁判所及び最高裁判所に対し、これまで継続してきた上記運用を直ちに見直すよう強く求めるものである。

2024年(令和6年)1月17日
          大阪弁護士会      
          会長 三 木 秀 夫

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