離婚後共同親権について、さらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明

離婚後共同親権について、さらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明

 2024年2月15日、法制審議会において、離婚後の共同親権の導入を柱とする「家族法制の見直しに関する要綱案」が採択され、同年3月8日、民法等の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)の閣議決定を経て、現在、改正案について国会での審議がなされている。衆議院法務委員会において、同年4月12日、改正案附則16条以下に17条から19条を加える修正をしたうえ可決され、同月16日、衆議院本会議において、同法律案が可決され(以下「修正改正案」という)、参議院に送付された。なお、同修正改正案には、夫婦が互いを尊重して子どもを育てることができるよう政府に支援を求めるなどする附帯決議がなされている。
 上記修正改正案及び附帯決議において、離婚後共同親権に関して示されてきた種々の危惧に対して一定の対応が示された点においては評価しうるものと考えるが、なお、以下に述べるような課題があり、離婚事件等の夫婦関係や子どもをめぐる事件を扱う弁護士から現場での混乱を危惧する意見が述べられている。
 今後、参議院において審議が行われる予定であるところ、当会は、次の点についてなお検討する課題があるものと考えるので、今後の審議において、さらに慎重かつ十分な審議を求める。

1 立証困難性に関して配慮し、具体的な適用場面に踏み込んだ審議を求める

 修正改正案819条2項は「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める」とし、法文上、離婚時に、父母の同意のない場合にも、家庭裁判所が共同親権を命じることが出来る旨が定められている。
 この父母の同意なき場合の離婚後共同親権については、同条7項で、家庭裁判所が判断するに当たっての考慮事由が定められている。なかでも、同項2号では、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(「暴力等」)を受けるおそれの有無」が考慮事由として挙げられており、配偶者からの暴力等(いわゆる「DV」)を受けている場合には単独親権となることが明記された。
 しかしながら、暴力等については、暴力等が継続するおそれがあると主張する被害者に立証が要求されるところ、家庭内において暴力等に晒されている被害者が証拠収集を試みることは容易ではない。すなわち、証拠収集を試みていることが発覚すると、さらに暴力等に晒される危険があり、被害者はそのことを危惧し、証拠収集を躊躇することになる。こうした被害者の証拠収集の困難性に対する配慮は、修正改正案では特段なされていない。上記条項の解釈、適用にあたっては、家庭内の事柄に関して証拠収集が困難であることが少なくないことを踏まえ、適用場面にまで踏み込んだ具体的な審議を求める。

2 意見を聴かれる子の権利(子の意見表明権)の保障を求める

 修正改正案824条の2第7項は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」とするのみである。
 子どもの権利条約12条並びに同条約の精神にのっとり制定されたこども基本法3条3号及び4号には「自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会」が確保されること、「その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され(る)」ことが規定されている。それにもかかわらず、修正改正案の上記条項には、「子の利益のため」と規定するにとどまっており、修正改正案824条の2第7項が規定する考慮要素の中に「その年齢及び発達の程度に応じた子の意見」を明示すべきである。
 なお、附帯決議3項では、子の意見表明権の保障について「検討を行うこと」とされているが、単独親権となるのか共同親権となるのかは子にとって重大な事柄であり、その子の知らないところでその子のことが勝手に決められてしまうことがないよう子の意見表明権の保障を明示すべきである。

3 子どもの手続代理人等の費用の国庫負担等を求める

 附帯決議3項においては、「子自身の意見が適切に反映されるよう、専門家による聞き取り等の必要な体制の整備、弁護士による子の手続代理人を積極的に活用するための環境整備」が求められている。その積極的活用のためには、国費化を含めた法律扶助制度等の整備が必須である。親とは別個の人格を有する子の権利を別途保障することを目的とすることから、人身保護請求の国選代理人のように、原則無償還で、国費により費用負担すべきである。
 また、現行の子どもの手続代理人の制度が家事事件手続法に規定されていることから、例えば離婚調停段階であれば子どもの手続代理人が利用できるが、訴訟に移行した場合には利用できないという不具合もあり、この点も法改正が必要である。
 参議院での審議に際しては、これらの具体的な課題についても充実した審議が必要である。

4 共同親権の場合に、単独で親権を行使できる場合についてさらに具体的な審議を求める

 修正改正案824条の2は、共同親権の行使方法として、教育・医療・居所指定等、子に関する重要事項については、父母が共同して決定しなければならないと定めるが、ただし書では、「子の利益のための急迫の事情」がある場合は、親権の単独行使ができるとしている。また、同条2項は、「監護及び教育に関する日常の行為」も、同様に、親権の単独行使ができるとしている。
 この点につき、修正改正案附則18条では、その趣旨及び内容について国民に周知を図ること、附帯決議2項では、文言の意義及び具体的な類型等を、ガイドライン等によって明らかにすべきことが規定ないし決議された。
 ただ、「急迫の事情」という文言について、法制審議会においては、「DVや虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合」であっても「急迫性は継続する」とされたが、一般的には、「急迫」の文言からは疑義が生じうる解釈である。
 また、「日常の行為」という文言についても、「日常」はあまりに多義的であり、「急迫の事情」と同様、現場において疑義や紛争を生じる可能性があり、文言自体の変更を含めた慎重な審議が必要である。

5 事件数の増加に応じた家庭裁判所の人的・物的体制の整備を求める

 なお、修正改正案では、家庭裁判所に多くの判断が委ねられ、家庭裁判所が定めるべき事項が多く規定されているが、現状においても、増加する家事事件に対して、人員配置や設備の改善は追いついていない 。(※1)
 附帯決議7項でも触れられているところであるが、「子の利益」の最後の砦である家庭裁判所が修正改正案で期待される役割を十全に果たすため、家庭裁判所の人的・物的基盤の拡充が急務であり、修正改正案の施行までに実現されるよう強く求める。

以上のとおり、夫婦関係や親権という国民の身近な事柄に大きな影響を及ぼす法改正であることからすれば、参議院においてもさらに慎重かつ十分な審議がなされることを求めるものである。

2024年(令和6年)4月17日
          大阪弁護士会      
          会長 大 砂 裕 幸


(※1 2023年10月6日、日本弁護士連合会人権擁護大会における『子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議』においても家庭裁判所の人的・物的拡充を求めた決議が採択された。)

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