育成就労制度及び永住許可取消制度を創設する入管法改定等の法案に反対する会長声明

育成就労制度及び永住許可取消制度を創設する入管法改定等の法案に反対する会長声明

 2024年(令和6年)3月15日、政府は、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の改定法案と「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」案を閣議決定し、国会に提出した。
 これらの法案により、政府は、技能実習制度を「実態に即して発展的に解消」し、技能実習制度の代替として新たに「人材確保及び人材育成を目的とした育成就労制度を創設する」とともに、新たな永住許可取消制度を創設しようとしている。

1 育成就労制度の創設について
 技能実習制度は、違約金を含む多額の債務負担、賃金未払いやハラスメントなど、多くの人権侵害を引き起こし、同制度が長年にわたり、国内的にも、国際的にも数々の厳しい批判を受けてきたことは周知のとおりである。
 そうした技能実習制度を廃止し、新たな制度を創設することとした点は、一定評価できるものの、育成就労制度においては、
① 外国人労働者の転籍には、一定の期間経過や入国時ないし入国後一定期間に身に付けるべき日本語能力よりもさらに高い日本語能力を要件とするなど、依然として厳しい要件が課されていること 
② 技能実習制度や現行の特定技能1号と同様、家族帯同を認めておらず、家族結合権を軽視するものと言わざるを得ないこと
など、育成就労制度においても、技能実習制度において指摘されてきた問題点は根本的には解消されておらず、技能実習制度が名前を変えて実質的に存続することが強く懸念される。

2 永住許可取消制度について
 他方で、新たな永住許可取消制度は、入管法に規定する義務を遵守しない場合、故意に公租公課等の支払いをしない場合、刑法違反によって拘禁刑に処せられた場合(1年以下のものも含まれる)に永住者の在留資格を取消すことができるようにするものである。
 永住者の在留資格を取得するためには、原則として10年以上日本で暮らす必要があり、家族を帯同していたり、日本で生まれ育った者も多く、彼ら彼女らの生活基盤は日本に根付いている。今回の新たな取消制度は、そのような永住者の地位を極めて不安定にする大きな制度変更である。
 しかも、在留カードの常時携帯義務(入管法第23条第2項)のような軽微な義務違反も、入管法に規定する義務を遵守しない場合に該当するものとして在留資格の取消事由とされており、取消事由が過度に広範と言わざるを得ない。
 また、公租公課の不払いは、失業や疾病、事故等、本人としても如何ともしがたい事由によって生じることは十分に想定される。このような場合にまで取消事由とするのは、永住者の人生・家族生活を顧みない、非人道的なものと言える。
 さらに、一定の刑法違反があったこと自体は国籍にかかわらず非難されるべきであるが、それは適切に刑罰法令を適用することで達成される。1年以下の拘禁刑であっても、刑事責任のみならず、在留資格までを奪い、日本における生活基盤を失わせようとすることは、過剰な規制と言わざるを得ない。

3 本改定について
 今回の入管法改定は、外国籍の者を、単なる「労働力」として扱うものであって、「労働者」「生活者」として日本社会に受け入れるという観点が欠落している。この点については、当会は、これまでもたびたび会長声明等において問題点を指摘してきた。そのような観点に立った考え方を是正して、国籍を問わず、個人が個人として幸福を追求する共生社会の実現に取り組むべきである。
 当会は、本改定に反対し、永住許可取消制度の導入を撤回したうえで、技能実習制度の問題点を抜本的に見直す内容の改正を求めるものである。 

以上


2024年(令和6年)5月22日
          大阪弁護士会      
          会長 大 砂 裕 幸

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