大規模災害等の緊急事態を理由とした衆議院議員の任期延長のための憲法改正に反対する会長声明

大規模災害等の緊急事態を理由とした衆議院議員の任期延長のための憲法改正に反対する会長声明

 現在、主に衆議院憲法審査会において、衆議院議員の任期満了時に大規模災害等の緊急事態が発生し、広範な地域で70日を超えて適正な選挙の実施が困難なときには、衆議院議員の任期を延長できるとする憲法改正案が議論されている。
 しかし、当会は、2016年(平成28年)6月21日付の「憲法に緊急事態条項を創設することに反対する会長声明」において、緊急事態宣言の濫用の危険性を指摘したが、その危険性は今回も同様である。すなわち、現在の衆議院憲法審査会での議論では、内閣が、選挙実施が困難である緊急事態にあるとして発議するものとされ、3分の2以上の多数による国会の議決が必要とされているが、議院内閣制の下では、国会における多数派と内閣の意向が合致する場合も充分に想定しうる。その場合、内閣は現状の権力維持のため、議員は自らの議員任期延長のため、緊急事態にあるとして選挙を停止してしまうおそれがある。このような権力による濫用が想定される以上、現在の衆議院憲法審査会における議論は認めることはできない。
 また、大規模災害等により選挙が実施できるか否かは、憲法上の選挙権の重要性を勘案したうえで、具体的な選挙制度を定める公職選挙法で対処すべき問題であり、憲法改正で対処すべき問題ではない。すなわち、公職選挙法が定める繰延投票の利用が考えられるし、さらに日本弁護士連合会が2017年(平成29年)12月22日に「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」で指摘したとおり、①平時における選挙人名簿のバックアップの義務化、②指定港における不在者投票類似の制度の創設と郵便投票制度の要件緩和、③大規模災害が発生した場合における選挙自体を延期できる制度の創設により、大規模災害等の緊急事態に対応して選挙は可能である。
 そもそも、憲法54条2項が参議院の緊急集会を定めており、参議院は半数改選のために全議員が不在となる可能性がないため、緊急集会の開催は常に可能である。しかも、同条3項が定めるとおり、緊急集会で採られた措置は後に衆議院が同意しなければ効力を失うこととなっており、両院のバランスも図られている。この点、同条2項が「衆議院が解散されたときは」と規定していることを理由に、任期満了時には同項は適用されず、緊急集会の開催は不可能だとの指摘もある。しかし、衆議院の解散も任期満了も衆議院議員が存在しないことは同様であり、現に参議院憲法審査会では任期満了時にも緊急集会を開催できるという解釈をもとに緊急集会のあり方についての議論が進められている。
 そもそも、選挙権は、私たちにとって国政参加のための最重要の権利であるから、その権利が制約されることについては、強い必要性・正当性が認められなければならないが、上記で指摘したことからすれば、そのような必要性・正当性は認められない。
 したがって、大規模災害等の緊急事態を理由とした衆議院議員の任期延長のための憲法改正に反対する。

2024年(令和6年)6月7日
          大阪弁護士会      
          会長 大 砂 裕 幸

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