大阪府内における病院拠点型ワンストップ支援センターの機能を維持するための施策を早急に講じることを求める会長声明

大阪府内における病院拠点型ワンストップ支援センターの機能を維持するための施策を早急に講じることを求める会長声明

 性暴力被害は、言うまでもなくその心身への侵襲を伴う。その態様は様々であるが、被害直後の被害者に最も必要な支援は、24時間態勢での相談と医療的支援である。性暴力被害者支援のワンストップ支援センターでは、支援員が24時間常駐して被害者を支援・ケアするとともに、産婦人科や精神科等の医療的支援を行ってきた。そこでは、法医学的証拠の採取・緊急避妊薬の処方や性感染症の検査・治療などの急性期の支援を行うとともに、中長期にわたる被害者の心理的支援や生活支援等が行われている。
 被害発生から72時間以内に被害者が躊躇なく相談することができ、専門スタッフに守られながら、途切れることなく医療に繋がれることは、20代以上の成年は勿論、子どもや若年の被害者にとって必要不可欠であり、かつ、心身の回復のために重要であることは論を俟たない。
 また、性暴力被害者にとって、被害直後に証拠保全のための証拠採取にとどまらず、弁護士に繋がり法的支援が受けられることが、その権利の保障に資することは言うまでもない。
 したがって、全国の各地域に、病院拠点型ワンストップ支援センターの機能があることは不可欠である。

 大阪においては、2010年(平成22年)4月、阪南中央病院を拠点に性暴力被害者のためのワンストップ支援センターとして、性暴力救援センター大阪(以下「SACHICO」という)が開所した。
 2012年(平成24年)、国は、このSACHICOを先行事例(モデル)として、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター開設・運営の手引」を発行し、「できる限り早期に、多くのワンストップ支援センターが設立されるよう、本手引をご活用願いたい」と呼びかけた。そして、2018年(平成30年)10月、ワンストップ支援センターは全都道府県に設置されるに至った。
 さらに、国は、性犯罪・性暴力の根絶や被害者支援への取組のため、2020年(令和2年)6月、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」をとりまとめた。その中では、ワンストップ支援センターの強化の重要性が指摘されている。この方針は、第5次男女共同参画基本計画中の第5分野『女性に対するあらゆる暴力の根絶』の柱として位置づけられた(令和2年12月25日閣議決定)。2023年(令和5年)3月30日には、この方針を基本に、取組期間の延長と更なる充実を目指して「性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針」がとりまとめられた。とくに、内閣府・厚生労働省は、病院へのワンストップ支援センターの設置、中核的病院をはじめとした医療機関等との提携等の推進、中長期的な関係の構築を見据えて公立病院や公的病院へのワンストップ支援センター設置や提携を含め、関係強化を図るとした。
 そして2024年(令和6年)4月1日、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行された。同法に基づく基本方針にも、ワンストップ支援センターは、女性相談支援センター・女性相談支援員・女性自立支援施設の三機関との連携機関として位置づけられた。
 しかしながら、ワンストップ支援センターは、設置自体の根拠法を欠いたままである。また、2017年(平成29年)以後、都道府県から補助金(国からの交付金も財源)の拠出を受けているとはいえ、財政的基盤は脆弱と言わざるを得ない。しかも最も重要な医療支援を行う病院等医療機関への補助・助成は行われていない。2023年(令和5年)に公表された全国のワンストップ支援センターを対象とした国の調査においても、喫緊の課題として、運営の安定化に向けた予算確保も含めた取組を検討するべき旨指摘されているところである。
 
 SACHICOは、開所以来、大阪府の唯一のワンストップ支援センターとしての役割を果たしてきた。SACHICOの公表資料によると、開所以来14年間での受電件数は52,198件、来所件数は14,610件(いずれも延べ)、診療及び支援した実人数は3,722人に上る。
 しかるに、国や大阪府からのワンストップ支援センターに対する補助金は運営費の一部に過ぎず、しかも、医療従事者の支援活動は国からの補助金の対象とされていないため、拠点病院である阪南中央病院の財政的負担が大きかったうえ、そこに2024年(令和6年)4月より医師の働き方改革が実施され、医師の365日24時間体制による診療支援の継続は困難となり、SACHICOは、2025年(令和7年)3月末をもって阪南中央病院から撤退せざるを得ない状況に置かれている。まさに、ワンストップ支援センターの財政的基盤の脆弱さ、ボランティアベースの支援への依存が今回の危機を招いたといえる。
 全国第3位の人口規模を誇り、近畿2府4県の中心として観光やビジネスのための人の流入移動が活発な大阪府に、ワンストップ支援センターが存在しない状況となる可能性が現実味を帯びている。
 大阪府はSACHICOの拠点となり得る公的病院(診療センター)を複数擁しており、阪南中央病院に代わる拠点病院の確保を含めた施策を取り得るのは大阪府をおいてほかにはない。
 
 当会はSACHICOの活動の重要性を認め、2011年(平成23年)度第10回人権賞を授与した。また、大阪弁護士会の弁護士は、性暴力被害者の人権救済を目指し、被害者代理人として多くの事件を担当しているが、SACHICOは大阪府を中心とする性暴力被害者を弁護士につなげる大きな役割を果たしてきた。さらに、SACHICOが、性暴力被害者、中でも子ども達の救済について初動からその心情・心理に配慮した適切な対応をしていることへの強い信頼があることから、多くの弁護士もまた、性暴力被害者から相談を受けた際にはSACHICOへ繋いできた。
 SACHICOが果たしてきたワンストップ支援センターの活動の意義は大きく、今後の活動の継続は必須である。よって、その移転先病院を大阪府の責任をもって速やかに確保し、もって病院拠点型の性暴力被害者ワンストップ支援センターとしての態勢を維持することを求める。

2024年(令和6年)12月10日
          大 阪 弁 護 士 会      
          会長 大 砂 裕 幸

【お詫びと訂正】
 当初の声明文では、SACHICOでは男性(成年)の性暴力被害者も支援の対象とし、被害者の性別を問わないワンストップ支援が行われている旨の記述がありましたが、この点は事実ではありませんでした。
 お詫びの上、訂正いたします。
2024年(令和6年)12月13日
          大 阪 弁 護 士 会
   

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