「日本の死刑制度について考える懇話会」報告書についての会長声明

「日本の死刑制度について考える懇話会」報告書についての会長声明

 「日本の死刑制度について考える懇話会」(座長井田良中央大学大学院教授、前法制審議会会長) (以下「懇話会」という。)は、我が国における死刑制度のあるべき方向性について、研究者、国会議員、検事総長や警察庁長官の経験者、犯罪被害者遺族ら等、多様な委員が参加して12回に及ぶ集中的議論を経て、2024年11月13日、その結果を取りまとめた報告書を公表した。
 同報告書で懇話会は、委員全員の一致した意見として、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のままに存続させてはならない。」との認識を示し、そのうえで「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」を提言し、さらに、「死刑判決の確定後、その執行に至る手続及び執行方法との関係でも、具体的な改善の要否を検討すべき種々の問題点が存在している」として、「前記の会議体においては、具体的な結論を出すまでの間、死刑執行を停止する立法をすることの是非、あるいは執行当局者において死刑の執行を事実上差し控えることの是非」についても検討課題とすべきことを提言している。
 懇話会は、(1)死刑廃止が国際的潮流であり、日本政府が国連からも死刑廃止の勧告を受けている中で、死刑を存置し、かつ執行を継続していることが日本の国益を損ねている疑いがあること、(2)死刑の選択が問題となる重大事件につき、有罪・無罪に関わる事実認定についての誤りや量刑に関する誤判の可能性があること、(3)死刑の存廃を議論する際には、被害者遺族の想いに寄り添うことが必要であり、被害者遺族への支援の充実・強化を進めるべきであること、(4)組織的な凶悪犯罪やテロ犯罪に対し、死刑なくして対応できるのか、また、死刑を廃止した上で代替刑の創設等により対応できるのかについて検討の必要があること、(5)死刑確定者の処遇、執行順序の不透明性、執行方法としての絞首の相当性、執行に当たる職員の心理的負担や業務上の負荷等の看過できない問題があるほか、死刑確定者は相当長期間にわたり執行の恐怖にさらされていること、(6)死刑制度の運用や執行の実態、死刑確定者の処遇等に関する正確な事実の多くが明らかにされていないことについて、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な設置されるべき会議体において、慎重かつ具体的な検討を行うことを提言している。
 そして、懇話会は、死刑は大きな問題であり、一挙に新たな合意を形成することは簡単ではないとしつつも、「さまざまな形で問題箇所の改善・修復を図りながら、一歩ずつ前進していくこと」の有益性に言及し、「死刑制度を存置したまま、執行のみをしばらく停止してその後の状況を精査する」との方法を提案している。人びとが「両方向からの主張に身を裂かれるような思いで立ちすくみ、為す術もなく事態をただそのままに放置するという現状に甘んずることなく、問題解決に向けて一歩でも先に歩を進めること」の重要性を確認して提言を結んでいる。
 わたしたち弁護士、弁護士会は、懇話会の提言の趣旨を踏まえ、この提言に真摯に対応することが求められている。
 当会は、2019年12月9日の臨時総会において、政府及び国会に対し、死刑制度の廃止や、死刑制度の廃止までの間の死刑執行の停止を求め、死刑制度廃止の実現に向けた取組を進めることを決議したが、懇話会の報告書は、まさに当会が目指す方向と一致する。
 よって、当会は、政府に対し、国会及び内閣の下に死刑制度に関する公的な会議体を設置することを求めるとともに、改めて死刑制度を廃止すること、死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止することを求める。

2024年(令和6年)12月10日
          大 阪 弁 護 士 会      
          会長 大 砂 裕 幸

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