日本学術会議が日本学術会議法案において政府から独立性を確保できるようさらなる審議を求める会長声明

日本学術会議が日本学術会議法案において政府から独立性を確保できるようさらなる審議を求める会長声明

 政府は、2020年10月、当時の安保関連法案に反対した学者を含む学術会議会員候補者6名の任命を拒否し(以下「任命拒否問題」という。)、いまだにその理由を説明せず、任命拒否問題を放置したまま学術会議の法人化を進めている。上記の任命拒否問題については、当会の2020年10月27日付会長声明で指摘したところである。
 任命拒否問題が解決されない限り、憲法第23条が保障する学術会議における学問共同体の自律は侵害されたままであり、学術会議の独立性も脅かされていると言わざるを得ない。
 にもかかわらず政府は、本年3月7日、日本学術会議(以下「学術会議」という。)を廃止し、国から独立した法人格を有する組織としての特殊法人(以下「新法人」という。)を新設する日本学術会議法案(以下「本法案」という。)を衆議院に提出した。同法案は、同年5月13日の衆院本会議で、自民・公明・日本維新の会の賛成多数で可決され、参議院での審議に移行している。
 本法案は、次の3点からして、学術会議の政府からの独立性に問題があると言うべきである。
 第1は、会員の選定方針等について意見を述べる選定助言委員会が設置されたことである(本法案26条、31条。以下、特に断りのない限り、記載した条項は本法案のものをいう。)。本法案では選定助言委員会が会員選定に関与することとなるため、学術会議による会員選定の独立性が阻害される。会員選定は組織の独立性の根幹であって、選定方針という形であっても組織外部の関与があることは、会員選考における独立性を損なう。
 第2は、①会員以外の者から会長が委員を任命する運営助言委員会(27条、36条)、②内閣総理大臣が委員を任命する日本学術会議評価委員会(42条3項、51条)、③内閣総理大臣が任命する監事(19条、23条)、という各機関が設置されることである。これら各機関の設置は、学術会議が職務を「独立して」行うという現学術会議法3条の文言が本法案では踏襲されていないことから、活動面における新法人の政府からの独立性を脅かし、政府を含む外部の介入を許容することとなり得る。
 第3は、これまで国の特別の機関とされてきた学術会議を特殊法人にしていることである。学術会議は、政府権力が学問を弾圧した反省を踏まえ、設立以来、会員選定・運営・提言内容について政府から独立した科学的立場に基づき、自然科学・人文科学・社会科学の各分野の優れた研究者が議論のうえ、政府に対する諮問答申・勧告・提言等を行ってきた。こうした活動は現学術会議法に基づく国家機関として運営されていることに支えられている。本法案は、政府の新法人に対する財政措置を補助にとどまるとしているため(48条)、特殊法人化は、新法人の基盤を弱体化させることとなる。その結果として、新法人は、財源を確保するため、政府の意向に沿った活動や提言を行うことを余儀なくされるおそれがある。
 学術会議は、政府から独立して「政府の諮問に対する答申等を行う」(2条2項)ことに意味がある。なぜなら、政府が学術会議をコントロールできる状態にあれば、「政府の諮問に対する答申等」は政府の意向をなぞらえるだけになってしまうおそれがあり、政府が諮問する意味がなくなるからである。学術会議が国家予算で運営される以上、政府による一定の関与は受け入れざるを得ないとしても、組織としての独立性の確保は、学術会議の存在意義に関わる問題であるから、本法案においては、学術会議の独立性確保について、上記の3点がさらに検討されなければならない。
 よって、当会は、政府に対し、現学術会議法に則り、2020年10月の学術会議会員候補者6名の任命拒否を撤回してその正常化を図ることを求めるとともに、本法案においては、学術会議の政府からの独立性確保について、さらなる審議を求める次第である。

2025年(令和7年)5月26日
          大 阪 弁 護 士 会      
          会長 森 本  宏

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