生活保護基準引下げを違法とした最高裁判所判決を画期的なものとして高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への補償と生活保障法の制定を求める会長声明
・生活保護基準引下げを違法とした最高裁判所判決を画期的なものとして高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への補償と生活保障法の制定を求める会長声明
本日、最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、2013年(平成25年)8月から3回に分けて国が実施した生活保護基準の引下げ(以下「本件引下げ」という。)は生存権保障を具体化した生活保護法に反するなどとして、大阪府内の生活保護利用者らが保護費減額決定の取消しなどを求めた訴訟の上告審で、本件引下げの違法性を認め、当該処分を取り消す判決(以下「本件判決」という。)を言い渡した。
本件引下げは、専門的知見に基づいて生活保護基準の在り方を検討する社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)での議論を経ずに、2008年(平成20年)から2011年(平成23年)の「物価下落」率を厚生労働大臣独自の手法で算出した「デフレ調整」等を根拠として行われたものである。
本件判決は、生活扶助の老齢加算廃止の判断が争われた訴訟において、2012年(平成24年)4月2日の最高裁判決が示した「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査される」という判断枠組みに照らし、本件における厚生労働大臣の判断を、与えられた裁量を逸脱・濫用するものであるとして、違法とした。
これは、厚生労働大臣が、「個人の尊厳」(憲法13条)の基盤となる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項、生活保護法3条)の重要性を軽視し、生活保護法8条2項によって考慮すべき事項を考慮せずに、考慮すべきでない事項を考慮して裁量権を行使したことを厳しく指摘するものであり、少数者の人権擁護という司法の職責を十分に果たした画期的な判断として高く評価できる。
本件引下げが行われてから10年以上が経過し、最大53名であった大阪の原告らのうち13名が既に亡くなっている。国は、本件判決を受けて、本件引下げが行われた期間に生活保護を利用していた数百万人の利用者らの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という極めて重要な権利を侵害した事態を深刻に受け止め、全国の裁判所に現在も係属している同種訴訟について全面解決を図るとともに、提訴した者以外の利用者及び元利用者に対しても本件引下げ前の基準によって受けるべきであった生活扶助費額と実際の支給額との差額を支給するなどの補償措置を直ちに講じるべきである。
また、本件判決で示された趣旨を踏まえ、生活保護基準が違法に改定されることがないように新たな立法措置を講じるべきである。具体的には、日本弁護士連合会が2019年(平成31年)2月14日付けで公表した 「生活保護法改正要綱案(改訂版)」において提言したとおり、生活保護基準の改定について、①国会が改定権限を持ち、国が設置する学識経験者による専門的な検討機関の調査審議を経た上で、その意見を聴くこと、②統計等との合理的関連性の有無について再検証を可能とする方法によらなければならないこと、③上記検討機関は生活保護利用者の意見を反映させるために必要な措置を講じることなどを内容とする「生活保障法」を制定するべきである。
よって当会は、国に対し、本判決を踏まえた生活保護の利用者及び元利用者への補償措置を直ちに実施するよう求めるとともに、上記「生活保障法」の制定を強く求める。
大 阪 弁 護 士 会
会長 森 本 宏