死刑執行に強く抗議し、死刑制度の廃止を求める会長声明

死刑執行に強く抗議し、死刑制度の廃止を求める会長声明

 本日、東京拘置所において1名の死刑が執行された。2022年(令和4年)7月27日に1名が執行されてから2年11か月ぶりの執行であり、2024年(令和6年)10月9日、静岡一家4人殺害事件(いわゆる袴田事件)の再審無罪判決が確定して以降で、かつ、石破茂内閣になって初めての死刑執行となる。
 当会は、これまでも死刑の執行がなされる度に、死刑執行に抗議する声明を発表し、死刑執行の停止とともに死刑制度についての全社会的議論の場を設けること等を求めてきた。折から「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして大阪・関西万博が開催され、世界中から多くの人が参加する中での執行でもあり、極めて遺憾であるというほかない。
 当会においては、死刑制度廃止の実現に向けて会内でも議論を重ねるとともに、シンポジウムを開催する等市民とともに死刑制度の問題点を検討し、死刑制度について全社会的議論を呼びかけ、死刑制度廃止の実現に向けた取り組みを進めている。2019年(令和元年)12月9日には、すべての人には生命に対する権利が保障される必要があり、また、えん罪により死刑が執行されてしまうと取り返しがつかないことから死刑制度は廃止されるべきであるとの理由で、政府と国会に対し、(1)死刑制度を廃止すること(2)死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止することを求める総会決議を行っている。
 日本弁護士連合会においても、死刑判決を下すか否かを人が判断する以上、死刑制度を存続させればえん罪による処刑を避けることができないこと等を理由に、2016年(平成28年)10月7日に開催された第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、その中で死刑制度を廃止すること等を国に求めている。また、近畿弁護士会連合会においては、2022年(令和4年)11月25日に開催された第32回人権擁護大会において、死刑制度に関する議論を深めるべく「死刑制度について広範な議論を発展させるため、死刑に関する情報の公開を求める決議」を採択したところである。
 死刑廃止は国際的な趨勢であり、現時点で死刑を廃止している国及び執行の停止を含め事実上死刑を廃止している国の総数は145か国となっており、これは全世界の3分の2以上を占めている。2024年(令和6年)12月17日、国連総会は、死刑廃止を視野に入れた死刑執行停止を求める決議案を賛成130か国の圧倒的多数決で採択した。国連のかかる決議は2007年(平成19年)以降、繰り返しなされており、今回の決議は10回目であった。決議に対する賛成票は、2007年(平成19年)当初は104か国であったものが130か国にまで増え、死刑廃止を支持する国は着実に増えているが、日本は一貫して決議に反対し続けている。さらに、日本は、国連の自由権規約委員会の最終見解及び拷問禁止委員会の最終見解や人権理事会によるUPR(普遍的・定期的レビュー)において、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきである等との勧告を何回も受け続けている。政府は、死刑廃止国が増加し、執行する国も減少し続けている国際的な潮流に反するとともに、国連の勧告や決議を無視して死刑を執行し続けていることになり、日本は国際的に「人権後進国」として孤立している。
 2024年(令和6年)2月29日、国会議員、学識経験者、被害者団体、関係報道関係者、検察・警察出身者、弁護士、宗教家らで、「日本の死刑制度について考える懇話会」が設置され、十分な情報をもとに活発な議論を行ない、日本の死刑制度について、同年11月13日付報告書が公表された。同報告書では委員16名全員の一致で「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現在のままに存続させてはならない」、「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」を提言している。にもかかわらず、本日、同懇話会が提言する会議体設置についての議論を経ずに死刑が執行されたことは誠に遺憾である。
 人は、不可避的に間違いを起こす存在である。刑事事件では、慎重に判断されているとは言え、万一間違いによって死刑判決が確定し、執行された場合、一度奪われた生命は取り戻すことができない。日本においては、既に死刑を宣告されながら後に無罪であることが判明した再審事件が5件も存在するのである。だからこそ、死刑制度の廃止に向けて十分な議論を重ね、少なくともその結論が出るまでは、死刑の執行を停止しなければならない。
 当会は、政府に対し、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑執行を停止し、死刑に関する情報を広く公開することを要請するのみならず、すべての人には生命に対する権利が保障されるべきであり、えん罪によって誤って生命がはく奪されることを防止するために、死刑制度を廃止することを求めるものである。


2025年(令和7年)6月27日
          大 阪 弁 護 士 会      
          会長 森 本  宏

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