「難波ビデオ店放火殺人事件」第2次再審請求棄却決定に関する会長声明
・「難波ビデオ店放火殺人事件」第2次再審請求棄却決定に関する会長声明
2026年(令和8年)3月19日、大阪地方裁判所第12刑事部は、いわゆる「難波ビデオ店放火殺人事件」の第2次再審請求事件について、再審請求を棄却する決定をした。
1 本件は、2008年(平成20年)10月1日、大阪府大阪市浪速区に所在した個室ビデオ店において火災が発生し、店内にいた16名が死亡した事件である。請求人は、現住建造物等放火及び殺人の罪に問われ、大阪地方裁判所において死刑判決を受け、その後控訴が棄却され、2014年(平成26年)3月6日、最高裁判所第一小法廷の上告棄却決定を経て、請求人の有罪判決が確定した。
確定審においては、請求人の自白、店内にいたとされる目撃者の供述、及び科捜研検査担当者による火災原因に関する鑑定証言などが主要な証拠とされた。確定判決は、これらの証拠に基づき、請求人が当時滞在していた18号室が火元であり、請求人が放火したと認定したものである。なお請求人は、意思疎通に困難がある供述弱者であり、このような者に対する取調べにおいて虚偽自白が生じる危険性が高いことは、数多くのえん罪事件が示してきたところであるが、自白の任意性、信用性について顧みられたことはなく、この点でも強く問題視されるべきものといえる。
2 請求人は、2014年(平成26年)5月28日、大阪地裁に再審請求を行った。第1次再審請求では、燃焼実験結果を内容とする鑑定書などが提出されたが、大阪地方裁判所は2016年(平成28年)3月30日、これらの証拠について十分な検討を尽くすことなく、再審請求を棄却し、その後の即時抗告及び特別抗告も退けられた。
3 その後、2019年(令和元年)11月5日、第2次再審請求が申し立てられた。弁護団は、さらに詳細な科学的検証に基づく新証拠を提出した。その中心となるのが、火災現場の焼損状況を踏まえた燃焼実験に基づく鑑定書である。これらの鑑定によれば、請求人の居室である18号室ではなく、9号室が火元であると考えなければ、現場の焼損状況を合理的に説明することができないとされている。
とりわけ重要なのは、現場に存在したキャリーバッグの燃焼状況に関する検証である。確定審では、請求人のキャリーバッグに火が付けられたことが出火原因であると認定されていた。しかし、同種のナイロン製キャリーバッグを用いた燃焼実験の結果、ナイロン素材のキャリーバッグは着火後5分程度で燃え落ち、その内部にある物品にも強い焼損が及ぶことが確認された。他方、実際の現場ではキャリーバッグのナイロン部分が3分の1近く焼け残っており、その内部にあったビニール袋などの熱に弱い物品も残存していた。この事実は、キャリーバッグが出火元であるとする確定審の認定と整合しない極めて重要な事実である。
さらに、本件では証拠開示の在り方にも重大な問題があることが明らかとなった。弁護団は火災現場の写真データの開示を求めてきたが、当初、検察官は、写真データが存在しないなどと説明していた。しかし、その後「警察にある全てのネガ」とされる資料が開示され、弁護団がこれを分析した結果、火元とされる部屋周辺の写真番号に不自然な欠落が存在することが判明した。このような検察官の証拠開示に対する初期対応は、早期の事案解明を阻害するものであり、強く批判されるべきものといえる。
4 ところが、本日の決定は、新証拠の多くについて新規性を否定し、新規性を肯定した新証拠についても全て明白性を否定し、再審請求を棄却した。本決定は、新証拠の評価及び新旧全証拠の総合評価を適切に行ったとは言えず、白鳥・財田川決定にも違反する判断であると言わざるを得ない。
本件は、請求人が捜査段階で自白をしているが、過去のえん罪事件の多くは虚偽自白の事件であり、特に供述弱者においては虚偽自白をするおそれがあることは幾度も指摘されてきたところである。上記のキャリーバッグの燃焼実験では、キャリーバッグのナイロン面は黒煙を吹き上げ、強い悪臭がしたが、請求人の自白には何らそのような描写はなく、火の熱さについても何らの言及はない。請求人の自白が虚偽であることは、かような客観的事実からも明らかである。同様に、目撃証言とされる同ビデオ喫茶の利用客や従業員の供述も体験性が乏しいと断じざるを得ない。供述証拠の持つ限界について配慮していない本決定は極めて問題といわなければならない。
5 本件は、供述弱者に対する取調べのあり方、再審請求手続における証拠開示の問題など、我が国の刑事司法制度が抱える構造的課題を改めて浮き彫りにした事件といえる。過去の数多くのえん罪事件においても、虚偽自白や不十分な証拠開示が問題となってきたが、本件においても同様の問題が深刻な形で現れている。
本件のようなえん罪の疑いがある事件において真実の解明と救済を確実にするためには、再審制度の抜本的改革が不可欠である。すなわち、再審請求手続における証拠開示について広く認めること、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止すること及び再審請求審における手続規定の整備などを含む再審法改正を速やかに実現する必要がある。
そこで、当会は、2026年(令和8年)2月24日付け会長声明において示したとおり、証拠開示の範囲を狭め、検察官の不服申立てを禁止しない法制審議会の答申にかかる要綱(骨子)に改めて反対し、上記内容を含むいわゆる議連法案が国会に提出され可決されることを強く求めるものである。
当会は、無罪判決が確定するまで請求人を支援し続けるとともに、今後も、真にえん罪救済を可能とする再審制度改革の実現に向けて全力を尽くしていく決意である。
大 阪 弁 護 士 会
会長 森 本 宏