国際刑事裁判所(ICC)を支持するとともに、米国政府による赤根智子所長らへの制裁措置に抗議し、日本政府に対してICCの独立性を確保し、法の支配を維持するため可能な限りの対応を求める会長声明
・国際刑事裁判所(ICC)を支持するとともに、米国政府による赤根智子所長らへの制裁措置に抗議し、日本政府に対してICCの独立性を確保し、法の支配を維持するため可能な限りの対応を求める会長声明
1 国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)は、「20世紀の間に多数の児童、女性及び男性が人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となってきたことに留意し」、「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪が処罰されずに済まされてはならないこと」から、ジェノサイド犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪について、その責任を有する個人を捜査・訴追し、処罰するために、国際刑事裁判所に関するローマ規程に基づいて設置された常設の国際刑事司法機関である。
ICCの加盟国は現在125か国に及び、日本は2007年に加盟している。現在のICC所長は日本国籍の赤根智子氏(以下「赤根所長」という。)であり、同氏は日本政府の推薦を受けて加盟国による選挙によりICCの裁判官となった経緯がある。本年7月、一時帰国中の赤根所長は、大阪弁護士会主催の講演会において、法の支配の最後の砦としてICCが果たす役割の重要性を指摘している。
2 米国政府は、本年8月18日、ICCの赤根所長及び検察局の上級法廷弁護士アブドゥライ・セイ氏の2名を大統領令第14203号に基づく制裁の対象に指定したと発表した。これにより、両氏は、米国内における資産を凍結され、米国への入国を禁止されるほか、米国の金融システムを利用することができなくなるため、米国外での日常生活にも大きな制約を受けることになる。
また、今回の措置は、ICCの裁判官18人のうち既に8人が制裁対象となっている中での制裁であり、米国政府の「力による支配」への動きがより加速化されたものといえる。この点、米国のルビオ国務長官は、本年7月に「わが国政府が有するあらゆる手段を駆使し、共通の目的を共有できるすべての同盟国と連携して、国際刑事裁判所(ICC)を解体する」とまで言及している。力によってICCを弱体化させようとする米国政府の一連の言動は、深刻な人道犯罪に対して不処罰を許容する社会の到来を招く恐れすらあり、到底許容できるものではない。
当会は、ICCの独立性や法の支配に対する重大な脅威となる米国政府の本件措置に対して、強く抗議をする。
3 日本は、ICCの最大の資金拠出国であり、継続して裁判官を輩出するなどして、これまでICCの活動を支えてきた。
高市早苗首相は、上記米国政府の制裁に対し、本年8月19日には、「大変残念に思っている。これからも米国を含む関係国と意思疎通を継続しながら対応していく」と述べたにとどまったが、後に、同月25日には、「日本の立場と相いれるものではなく大変深刻に受け止めている」「法の支配の徹底のため、ICCを一貫して支持している。最大の資金拠出国として、守っていかなければならない。」と明言した。ICCに対してこれまで資金面でも人事面でも多大な貢献をしてきた日本政府は、他の加盟国と連携し、米国に対して本件措置を解除し、国際的な法の支配を遵守・尊重することを強く働きかけるべきである。また、制裁対象の赤根所長らを含むICC関係者が職務を全うできるよう可能な限りの支援を行うとともに、制裁対象者と取引をした個人及び法人も含めて不利益が及ぶことがないよう具体的な対策を検討すべきである。
4 当会は、2025年3月7日、「国際刑事裁判所(ICC)の独立を支持し、その判断及び運営の尊重を求める会長声明」を発出し、国際社会において法の支配を担うICCの独立を強く支持し、支援するため、あらゆる協力を惜しまないことを表明しているが、本声明をもって改めて同意思を表するとともに、米国政府による赤根智子所長らへの制裁措置に強く抗議し、日本政府に対してICCの独立性を確保し、法の支配を維持するため可能な限りの対応を求める次第である。
大 阪 弁 護 士 会
会 長 中 井 洋 恵